蝶亡と最後の戦い。私は・・・。
「・・・。」
「・・・。」
「どうしたものか。」
「はい、一体、どうしましょう・・・?」
今、私達は塗壁に苦戦中である。
何故か?それは・・・。
塗壁の消し方は“棒で足元を払えばいい”
苦戦のワケは、ここには棒などないからだ・・・。
「あ、いい方法があります!」
「なんだ?エヴ。」
「パーバション様のショットガンを使えばギリギリセーフ・・・」
「セーフか・・・?」
「やってみましょう!」
「・・・。」
私は黙って背中に背負っているショットガンを取り出す。
確かに棒に近いが・・・。大丈夫か・・・?
私、パーバションの戦闘スタイルは体中に隠し持っている銃を
駆使して戦うというもの。だから私は数多くの銃を持っており、
その種類も富んでいる。
そしてなによりも、隠し持っている為、傍から見れば黒いコートを着た
少女にしか見えない。
「パーバション様。行けます!」
「払う・・払えばいいのだな?」
「はい、ササッと、払うのです。」
「・・・。」
私はショットガンで足元を払う。
自分の現在の絵面を想像すると苦しくて仕方ないが・・・。
行けるか?
「・・・。ってアレ?」
私は塗壁が消えているか確認をする為に正面を向く。
だが、そこには何もない。
最初から塗壁なんていなかったように、
「行けた・・・のか?」
「ショットガンで行けるワケがないでしょうに、」
「!?」
そこで、私の心臓が止まった。
その声は・・・・!
私はすぐに体制を整え、エヴと一緒に“ヤツ”の姿を探す。
だが、どう探してもその姿は見えない・・・。
「こちらにいらっしゃい・・・。
パーバション。」
ガチャンと私の背後から音がする。
後ろを見れば開け放たれた扉。
アイツは・・・扉の向こうにいる・・・!
「エヴ、行こう。」
「・・・。パーバション様。」
「何だ?」
「・・・いえ、何でも御座いません。
甘くとろける復讐に、ご武運を。」
「ああ、そうだな。」
エヴは無表情ながらも、悲しげに私を引き止めるも
言葉を詰まらせ、私の復讐に武運を祈る。
私はエヴの手を引き、扉の中へと踏み込む・・・。
「ようこそ!待っていたわパーバション。」
「わざわざ、こんな暗い部屋に誘い込んで、どうする気だ?」
「この部屋が気になるのかしら・・・?」
真っ暗な部屋の中、
アイツの声が響く。
気味が悪い。
「さっさと目的を吐け!」
「アナタにこの素敵な光景を見て欲しいの、
ね・・・?見てくれる・・・でしょう?」
「素敵な光景・・・?」
気持ち悪い・・・。
悪臭がする・・・。
何なんだこの部屋は・・・!
「ええ、この素敵な光景を、ご覧なさい!」
その声を合図にボッ!と、音がして、
青い火がそこらじゅうにいっぱい漂う。
その青い明かりに遂にヤツの姿があらわになる。
薄い青色の丈の短い和風のドレス。
その裾には黒いフリルがあしらわれている。
羨ましくなるほどの美脚は薄い黒のハイヒールブーツを履いていて、
和風のドレスの上に色鮮やかな紅い上着を着ている。
その上着の袖は長い振袖で、
和風らしさを醸し出している。
整った顔立ちの彼女は気味が悪いほどに白く、
悪戯な笑みを浮かべている・・・。
ぼんやりとした暗闇の中、アイツの紅と紫の瞳は不気味に輝いている。
忘れもしない。あの瞳・・・。
長い綺麗な黒髪は後ろに団子を作っているが、
余った長い髪が垂らされている。アイツにはよく似合う髪型だと
私は思う・・・。
蝶亡は認めたくないと思っても
間違いなく美しい、その美しさには女の私でさえ、
アイツを憎んでいるこの私でさえ見とれてしまう程の美貌を持っている。
だが、この時だけは違った。
そう・・・。この時だけは・・・。
そこには、たくさんの死体が転がっていた。
辺り血の海。
この世の地獄を、またアイツは作ったのだ。
恐らく、私に見せたいが為に・・・!
どんなに美しくともそこは地獄には変わりはない・・・。
それなのに、アイツはそれを
“ 素 敵 な 光 景 ”
と形容した・・・。
「お前・・・。これを素敵な光景だと言うのか!?
人間としてはあるまじき発言だなッ!!?」
「人間・・・?クスッ・・・。」
そう呟くとクスクスと笑い出す。
狂っている。
コイツは生まれながらにして優れたものを数多く持っているクセに、
狂っていた。
こんな奴が、私が人生をかけて憎んでいる蝶亡だ。
「いいえ、私は狂っていないわ。
パーバション。」
「・・・え・・・!?」
意味がわからなかった。
蝶亡の何気ないその発言に私は戸惑いを隠せなかった。
だって、
そんなの、
おかしい、
今まさに、私が考えていたことをアイツは・・・。
答えたんだ・・・!
「クスクス・・・。」
やたら嬉しそうに、笑っていた蝶亡はふと冷たい無表情になると
ポツリポツリと呟き始めた。
その感情の変化の早さは狂人その物だ。
「“覚”・・・。
“化け猫”・・・。
“白面金毛九尾の狐”・・・。
“雪女”・・・。
“塗壁”・・・。
私の可愛い、大切な同胞達を散々に可愛がってくれたようね・・・。
パーバション・・・。
そんなアナタに正しい事を教えなければいけない・・・。」
静かな怒りを感じた・・・。
私の心臓がまた必要以上に脈打ち始める。
胸が苦しい・・・。
「私はね、パーバション・・・。
“妖”を統べる長。
全ての“妖”の力を引き、“妖”の時代を導く存在・・・。
人ではなく、妖でもない、私は・・・。
妖のための救世主なのよ。」
「ッ!!?」
妖の救世主・・・!?
だから出会う妖怪共は揃って“蝶亡様”と呼んでいたのか・・・!
「全ての“妖”の力を私は引いている。
だから“覚”みたくアナタの心を読めるし、
“化け猫”や“白面金毛九尾の狐”みたく妖術だって使える。
そんな私にアナタは・・・挑戦するの?」
「・・・私の怨みを、憎しみを、悲しみを、
絶望をッ!!お前はどうせずっと前から知っていたのだろう!?
なら、私の答えくらい、分かるはずだ・・・!!」
「・・・復讐は必ず遂げる・・・そういうことね。
なら全力で、お互いを終わらせましょうッ!!」
蝶亡は立派な日本刀を手にすると、凄まじい早さで私の目前までに
現れる・・・!
「絶対に・・・お前を殺してやるッッ!!!!」
私は、蝶亡に吠えた。
今日で全てを終わらせてやるッ・・・!
ショットガンを左手に持ったまま右手にポケットから取り出した
携帯銃を持ち
私は目前の蝶亡に発砲した。
だが、不気味な蝶亡の瞳が強い光りを放つと、
蝶亡は日本刀で弾丸を斬る。
有り得ない速さだ・・・!
なんとか弾丸を斬った事実を認識出来たが・・・!
私は後ろに飛ぶと、右手の携帯銃を捨てて左手のショットガンで
再び蝶亡に発砲した。
散弾だから命中率は高い、
どうか当たってくれ・・・!
そんな私の思いも次の時には砕かれる。
蝶亡は常識では有り得ない飛躍力で高く飛んで散弾を避ける。
クソッ・・・!これもダメかッッ・・・!!
私はショットガンを捨てて、ブーツに仕込んだ
二丁の携帯銃を両手に持ち交互に連続で発砲を繰り返す。
蝶亡は地上に着地すると、私の周りを走り私の作る弾幕を避ける。
すると、両手の携帯銃がカチカチと乾いた音を立てて、
弾丸が切れた事を知らせる。こんな時にッ・・・!
私の銃の弾丸が切れる事を待っていたと言わんばかりに
蝶亡は私に駆け寄る。マズイッ・・・・!!
ガキンッッ!!
重い音と共に私の前に誰かが立ちはだかる。
エヴだ。
エヴが蝶亡の日本刀の刃を両手で器用に受け止めたのだ。
すまない、エヴ・・・!
私はエヴが時間稼ぎをしている間にすぐに二丁の携帯銃を捨てて、
コートの胸ポケットからデザートイーグルを取り出す。
エヴの横から蝶亡に発砲。
蝶亡はエヴの手から日本刀を引き抜くと、近くの死体を蹴り上げ盾にする。
その間に蝶亡は私達から距離を取る。
死体を撃ってしまった私はすぐに蝶亡に向き直る。
蝶亡は妖しげな笑みを浮かべると、指を口に添え
“静かに”
そうジェスチャーする。
それを私は無視してデザートイーグルを蝶亡に向け狙いを定める。
蝶亡はジェスチャーを止めないまま、静かに息を吹くと
凍てついた吹雪が起きる。
それに私は吹き飛ぶ、いとも簡単に、
壁まで吹き飛ばされ強く壁に身体を打ち付けてしまう。
私は痛みに悲鳴をあげる身体を叩いて気合を入れて無理やり立ち上がる。
訳のわからない戦いばかりが連続で起きるものだから、
精神と肉体の疲労がピークに達しているのだ・・・。
“白面金毛九尾の狐”と遭遇した時に受けた頭の傷と
“雪女”の戦いで受けた足の傷が酷く痛む、
嗚呼、とても痛い・・・。蝶亡に勝たなくてはならないのに・・・!
やはり、“妖”の救世主である蝶亡を殺す事など、不可能なのか・・・?
私は結局、復讐を果たせぬまま終わるのか・・・?
・・・・・・・チクショウ・・・。
「チクショウッッ!!!
こんな所で負けてたまるかッ!!
こんな地獄でッ!あんなヤツに殺さてッ!
そんな結末、受け入れるものかッッ・・・!!」
私はいつの間にか、心の叫びをそのままに叫んでいた。
言語として伝えていた、
言の葉のままに、叫んでいた。
そしてその絶叫から私は、全力で走り出した。
デザートイーグルを蝶亡に連射する。
完全なヤケっぱちだ。
それに初めて蝶亡は弾丸を肩に受けた。
蝶亡にとって私のヤケに走る行動が予想外だったらしい
カチカチとまた乾いた音を立ててデザートイーグルは使い物にならなくなる。
私はデザートイーグルを捨てて、
袖の中からFN57を取り出し、
蝶亡にまた連射をする。
蝶亡は肩を押さえ、高く飛ぶと幾つもの鋭い針を私に向けて投げる。
今、妖怪の間で針が武器に流行りなのか・・・?
私は針を避ける為に、コートを脱ぎ捨てコートを旗のように振るいながら
盾にする、そのまま盾にしていたら針がコートを貫通して私に刺さる
恐れがあるからだ。
針はコートに当たり、私はコートを振るう。
すると針の弾道が振るわれるコートの接触により捻じ曲げられ、
針は凶器としての力を失い、針を払い捨てる。
FN57の残りの弾丸全てを使い私は再び着地をした蝶亡に連射をする。
だが、蝶亡は私の弾丸の雨に手を向けると
突如、赤々しい炎が弾丸を包み込み、弾丸を焼き消してしまった。
そして蝶亡は凄まじい速さでまたもや私の目前に現れると、
私の腹を蹴ろうと足を動かす、それを見て私は
弾の残っていないFN57を盾にする。
蝶亡の蹴りを私は腹に受け、また壁まで吹っ飛んでしまう。
なんて威力なんだ・・・ッ!
FN57を盾にしたのに、吹っ飛ばされるなんて・・・、
なッ・・・!?
私は自身が持っているFN57を見て驚愕をする、
FN57が・・・バラバラに壊れてしまっている・・・!?
次第に喉の奥がらドロドロしたものがこみ上げてきて、
私は耐え切れず吐き出してしまう。
それは、真っ赤な血だった。
吐血・・・。ただ腹を蹴られただけで・・・!
「パーバション、そんな重症でまともに戦えるの?」
「うるさい・・・。私は復讐の為に戦っている・・・だから、
ゴホッゴホッ・・・!!」
喋っているうちに、咳き込んでしまう・・・。
苦しい・・・。
「クスクス・・・。
少なくとも、我が同胞達の犠牲は無駄ではなかったようね・・・?」
ああ、そうだよ。
確かに蝶亡の手下共の妖怪は非常に手を煩わせてくれた・・・。
“覚”には妙にペースを乱されたし、
“化け猫”には心に傷を負わされたし、
“白面金毛九尾の狐”には頭を負傷させられた、
“雪女”には足を負傷させられ、心の疲労を引き出させられ
“塗壁”には大変、苦労させられた。
心を読めるお前には分かるだろうよ・・・。
「・・・私は疲れきっている。
・・・紅ドレスの女の言う通り、
復讐の人生は楽しくない・・・。
酷く疲れるし、結局は報われない事だって明白だ。
それでも復讐せずにいられない、そんな・・・下らない想いに
振り回されるのはもう・・・懲り懲りだ・・・。」
私は涙を流し、後悔を言葉にする。
悲しみ?いや悔しさだ。
感情を無視すれば、もっと別の人生があったはずなのに、
復讐に囚われて、結局は負けてしまうのだから・・・。
クソウ・・・悔しい・・・ッ!
だが、この次の瞬間、私は予想外の事態に立たされる事となる。
「紅・・・ドレスの、 女 ・ ・ ・ ?」
ぼつりと、不気味に蝶亡は呟いた。
「い、一体、その紅・・・ドレスの女は・・・!
何者!?何故、突然、紅ドレスの女なんか出てくるの!?」
「・・・は・・・?突然、どうした蝶亡・・・ッ!?」
私は人生で最も驚愕した。
何故ならば、蝶亡はどんな時でも、
例え予想外の出来事が起きても戸惑いを見せる事はない。
冷静に、賢く、彼女は立ち回るのだ。
そんな蝶亡が恐らく初めて酷く動揺をしていた。
「答えなさいッ・・・!!
パーバション・C・リネル・クネクション!!」
「・・・!」
“紅ドレスの女”
その単語を聞いた瞬間、蝶亡の顔色が蒼白になった。
彼女は・・・紅ドレスの女を恐れている・・・?
私はそれを理解すると、
突然、脳裏を紅ドレスの女の“頼み”がよぎる。
これは私が無意識に思い出したのか、
それとも私に取り憑いた“アイツ”が見せているのか・・・。
わからないが、これが唯一、“負け”が確定した私が出来る
蝶亡に対する有効な反撃なのだろう・・・。
私はゆっくり立ち上がり、蝶亡の紫と紅の瞳をジッと睨みながら
はっきりと、私はその言葉を放った・・・。
「蝶亡・・・。お前に凶報だ・・・。
“赤い服の人が来た、私の心に潜んでな・・・?”」
私は自らの心臓を指差しながら、精一杯に妖しげに笑ってみせる。
私の言葉を聞き、蒼白な蝶亡は眼を見開き、
私からジリジリと後退する。
そんな蝶亡にトドメを刺すかの如く
私の周りを取り囲むように風が起きて、私の肩に何者かが手を置く。
誰かは解りきっている・・・。
ラルーだ・・・。
「ありがとう、パーバション。
頼みを果たしてくれて・・・。
だから恩返しと言ってはなんだけれど、助けてあげる。」
「何様だ、ラルー・・・。
こうなる事をお前、最初から知っていただろ・・・?」
「ええ、知っていたわ。」
ニッコリ、眩しいくらいに笑うラルー。
悪意があるのかないのか疑わしい・・・。
「恩返しですって・・・!?
笑わせないで・・・!!」
蝶亡は日本刀でラルーに斬りかかる。
だが、ラルーは日本刀の先を指先で受け止めると、
「バッキリ、バラバラ。
砕けた刃はドーロドロ!溶けて溶けて・・・。
残った魂、消える!!」
子供が歌うように楽しそう嬉しそうに、
ラルーはとても綺麗な歌声で歌うその様は狂気に満ちている・・・。
すると、蝶亡の日本刀が突然、粉々に砕け散ったのだ・・・!
刃が砕け散り、何の役に立たなくなった日本刀の柄を
蝶亡は放り捨てると、
ラルーは語りだした・・・。
「蝶亡・・・。
貴女は契約を破り、私が与えたその“力”を
自らの野望に使い果たしてしまった・・・。
全く・・・。愚かだわ・・・。
だから、もう契約は打ち切り。
回収に来たわ」
「・・・ッ!
“妖”の時代をあと少しで導けそうなのよッ・・・!!
もう少しだけ、せめてあと少しだけッ・・・!」
「いいえ、もう、何を言おうがもう遅いわ。
なので、没収ーっと!!」
ラルーが手のひらを差し出すと、蝶亡は胸を押さえて
悶え苦しみ始める・・・。
何が・・・起きているんだ・・・?
すると、ラルーの手のひらの上に徐々に強い光りが現れる・・・。
虹色のとても美しい光りだ・・・。
その光りに私は見とれていると、
ラルーは手を握り、光りを掴み。
私の目から見えなくなる。
それと同時に蝶亡は横に倒れた・・・。
「訳のわからない事に巻き込んで悪かったわね・・・。
パーバション。」
「ああ、とても悪い。」
「ちょ、否定してよ!!?」
「否定しない。だから事を説明しろ。」
「え、ええ・・・。
困ったなぁ・・・。
・・・・。やっぱり駄目!!
この秘密は死ぬまで隠し通す!!」
ラルーは舌をベーと出してどこかに消える・・・。
チッ・・・。とても気になるのに・・・。
どこかアイツ、子供じみているんだよな・・・。
見た目はどこからどう見ても大人なのに・・・。
「パーバション様・・・!!」
「エヴ、大丈夫だったか・・・?」
「ごめんなさい・・・!
もっと早く、私が動いていれば・・・。」
「私は大丈夫だ、
安心をしろエヴ。お前は最高の戦友だ。
私の顔を立ててくれたのだろう?」
「・・・!」
「お前の考えくらい、
“覚”でなくとも分かるさ・・・、な?」
エヴは私の言葉を聞いてパァと顔色が明るくなる。
そんなに嬉しかったのか・・・・。
「具体的に何が起きたか全く解らない・・・。
結局、あのラルーは何も説明をしてくれなかった。
こうなれば、残る状況を理解する方法は・・・。」
私は倒れている“妖”の救世主 蝶亡の頭に銃を突き付ける。
「蝶亡、全てを説明しろ・・・。
いや、どうせラルーに口止めされているのだろうな、
だから説明出来る範囲でいい、説明しろ。」
蝶亡は薄目開くと、
諦めたのか両手を上げてゆっくり立ち上がる・・・。
「分かったわ、説明をしましょう・・・。」
そして蝶亡は話しだした・・・。
「私は確かに全ての“妖”の力を引き、
“妖”の救世主であるというのは事実よ・・・。
けれど・・・。私は本当は身体も弱く、
ずっと昔から大事に育てられてきた為、
他人との接し方を全く知らなかったわ・・・。
だけど、その癖して私は昔からずっと
“全ての妖の為に私は命を捧げよう”
そういう考えばかりを持って生きてきた・・・。
でも、ある日私は試しに人間の子供に接してみたの、
最初は殺すつもりだったのよ・・・?
なのに気付けば私はその子と仲良く遊んでいた。
それを期に私は自身の弱さに気付かされた。
だから・・・私はあの紅ドレスの女と契約を交わした
“どうか“妖”の時代を導く程の力が欲しい”って・・・。そして彼女は私に力を与えてくれた。
私が持てる力全てを振るう強さ、
幾多の“妖”を率いる才能、
膨大な知恵・・・。
私を極限まで彼女は強くしてくれた。
そして彼女は対価として私にこう命じた。
“ある研究に貢献する組織を全て破壊しなさい”
だから私は命じられるままに彼女が指定した組織の本部に乗り込み
破壊の限りを尽くしたわ・・・。
そんなある時・・・。私は一人の子供を見た・・・。
その子は最初、私に気付かず死体に駆け寄ろうとしていた。
けれど私に気付くとその子の瞳はあっという間に恐怖に染って・・・。
すぐに逃げていってしまった・・・。
私は忘れる事なんて出来なかった。あの恐怖一色の瞳を・・・。」
とても長い間語るアイツは一人の子供の話を始める。
するとアイツは震えだした・・・。
その子供は・・・誰か、もう私には解ってしまった・・・。
「もう解ったようね・・・?
パーバション、その子供は・・・アナタよ・・・。
私は“妖”の時代を導く、その為ならどんな破壊と殺戮だろうと
繰り返すわ・・・!でも・・・!
私の目的はあくまでも“妖”の為の世界であって、
人間だけを苦しめるのが目的ではないのッ・・・!
私達、妖怪の本分は人間から恐れられる事だけど、
決して苦しめる為ではないの・・・。
恐れられる反面、私達は人間の夢であったの・・・・。
それなのに、私は数え切れないほどの命をこの手で・・・奪った・・・。
私は組織を破壊していると同時に夢を壊していた。
その事に、パーバション、貴女の行動によって気が付いた・・・!
だから私は・・・。組織を破壊する事を止めた。
そして私は後にアナタが復讐に取り憑かれて私を殺そうとする事なんて
すぐに解った・・・。だからね・・・?
私はアナタに殺される為に無意味な破壊活動を続けたの・・・!」
「・・・・!!」
私に・・・殺される為に破壊活動を続けた・・・!?
それじゃ・・・私が悪いという事なのか・・・!?
「それが私の唯一の償いだと思った・・・。
アナタに殺される事こそが・・・!
パーバション、私は今、あの力を失ってしまった・・・。
けれど、私は“まだ戦える”・・・!!」
「・・・“まだ戦える”・・・?
お前が・・・・。そんな綺麗事を・・・。
ほッざくなぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!」
私は力の限り叫んだ。
許せなかった。蝶亡に、そんな言葉を吐いて欲しくなかった・・・!
私は蝶亡の頭に突き付けていた銃の引き金を引いた。
だがそれよりも先に蝶亡は何もない空間から妖しげな妖気を放つ
立派な日本刀を取り出すと私が手にしていた銃を真っ二つに斬る。
私は斬れた銃を捨て、
コートの内側に仕込んだ銃を取り出し
もはや連射ではなく乱射だった。
認めたくない、認めたくない、
何が・・・?
「これは妖刀“殺戮斬刀”
はるか昔、この町で侍三百人斬りにおいて使用された刀よ
最後の舞に使うにはふさわしいわッ・・・!!」
蝶亡その手に持つ妖刀“殺戮斬刀”の説明をする。
その間も、蝶亡は凄まじい速さで弾丸の嵐を斬る。
だが、弾丸全てを斬ると蝶亡は息を激しく切っていて、
苦しそうに胸を押さえつける。
身体が弱いという話は本当のようだ・・・。
追撃のようにエヴが蝶亡に蹴りを入れようとする。
蝶亡は妖刀でエヴの重い一撃を受け止めて、堪える。
エヴ、ありがとう・・・。
私は感謝をしながら、蝶亡に発砲した
すると蝶亡はその弾丸を避ける為にエヴの首を掴み上げ
エヴの自由を奪うと妖刀で弾丸を斬る。
蝶亡はエヴの首に妖刀をかける、
エヴの首を掻ききるつもりか・・・!?
そうは・・・させないぞッ・・・!!
私は銃を捨てて、別の銃をコートから取り出す。
そして再び蝶亡に乱射。
もちろん、エヴに当たらないように図りながら・・・。
だがいくら乱射しようとも、蝶亡は妖刀で弾丸を斬って、
まともなダメージを与えられていない・・・!!
これではただの時間稼ぎではないかッッ・・・!!
エヴが殺されるのも時間の問題・・・。
どうにか速く・・・!蝶亡よりも先にアイツを殺さなければッ・・・!!
エヴが殺されてしまう・・・・!!
・・・私はどうなろうと別に構わない・・・。
だけれど・・・。エヴだけは・・・!!
エヴだけは傷つけたくないんだッ・・・!!
だって、エヴは・・・。唯一、私の友達になってくれたッ・・・!
最高の戦友なんだ・・・!
復讐のままに生きて、復讐の為に一人の存在を消そうとしている私に
積極的に仲良くなろうとした者はいなかった。
だから私はずっと一人で、戦って来た。
他人なんて元より期待していない・・・。だって、
誰だって自分が可愛い。だからこんな復讐の鬼と化した私に構っても
なんの利益にならない。
けれど・・・エヴは違った。
私の考えも気持ちも何もかもを理解して、
“復讐の為に生きている貴女から復讐を取り上げたら貴女は壊れてしまう
貴女は自身が壊れない為に戦っているのであれば、私は手伝いましょう”
エヴは私の手助けをしてくれた。
狂いそうになる環境下で、私がマトモでいれたのはきっとエヴのおかげ
なのだろう・・・。だからエヴだけはッ・・・!
本当に、助けたいの?
ああ、エヴだけは助けたいんだ・・・!!
その為なら、何でもする?
魂だって投げ捨ててやる。
なら、助けてあげましょう。
・・・え・・・?
私は床に落ちている、蝶亡が投げてきた鋭い針を拾い上げる。
極めて私の思考は冷静だ。
そして、初めて私の心は喜びと幸福に満たされた気がする・・・。
だって、大切な友人の為に、最後の復讐の為に、
私は・・・。
ゆっくりと顔を上げると、蝶亡はひどく私に驚いた。
「パーバションッ・・・!
その眼は・・・どうしたのッ・・・!?」
眼?何の事かサッパリ分からん。
そんな事はどうでもいい、
私は針を握り締め、ゆっくりと蝶亡に歩み寄る。
蝶亡は全く動かなかった。
緊張のあまりか?恐怖?後悔?
私は“覚”ではないから、今の蝶亡の感情は理解出来なかった。
そして、私は蝶亡の心臓を針で貫いた。
私は・・・蝶亡を殺したのだ。
美しい“妖”の救世主たる蝶亡は・・・ゆっくり倒れる。
だが地面に横たわる、その前に蝶亡は光に包まれて消えていった・・・。
別に断末魔の叫びやおぞましい呪いとか、そんな物はなかった。
どこまでも綺麗に、綺麗サッパリに消えたのだ。
疲れ果てた私は膝から崩れ落ちる。
エヴは蝶亡が消えた為、解放され、私を抱きとめる。
「パーバション様ッ・・・!!」
「エヴ・・・。良かった・・・・。無事のようだな・・・?」
「私は無事ですよ・・・。肩の傷が少々痛みますが・・・!」
「痛むか、悪かったな・・・。」
「別にいいですよ・・・!むしろ、この傷も痛みも、
自慢の勲章ですッ・・・!!」
「勲章か・・・。そう言ってもらえると助かる・・・。」
「・・・どうしたんですか・・・?
弱々しいったら、ありゃしないですかッ・・・!」
エヴはかすかに震えていた。
「ああ、疲れきってしまった。
具体的に実感が湧かないんだ・・・。」
「復讐の実感が沸かない・・・?
そんなの当たり前ですよ・・・ッ!
復讐は甘くとろけるから、遂げた瞬間に手のひらをすり抜けるんですよ!
でも、貴女はようやく復讐から解放されたんです・・・!
だから・・・・!!」
いつもにも増して、エヴの口調は荒い・・・。
だが、エヴにそう言ってもらえたら・・・突然・・・。
「・・・アレ・・・?
私は・・・泣いているのか・・・?」
目頭が熱くなると、涙を流してしまう。
「嗚呼、ようやくだ・・・。
状況を理解出来た・・・!私は・・・遂に・・・!」
「ええ!そうです!そうなのです・・・!」
エヴは力一杯に私を抱きしめる。
「苦しい・・・エヴ・・・。」
「私だって嬉しいんですよッ・・・!!」
「そうか・・・お前も嬉しいか・・・。」
エヴの腕の中はとても暖かかった。
友達を守れた私には勿体無いくらいのご褒美だ。
私も・・・とても嬉しい・・・。
「エヴ・・・。手を・・・離してくれ・・・。」
エヴはゆっくり手を離す。
それに私は立ち上がろうとする。
足に上手く力が入らない・・・。
アレ・・・?おかしいな・・・。
エヴはそんな私を察して私の腕を掴んで立ち上がらせてくれる。
「ありがとう・・・エヴ。
心の底から・・・感謝している・・・。」
「いいえ、当然の事です・・・!」
「本当に・・・お前はいいやつだ・・・。」
私はポケットに手を入れて、照れながら
エヴにそう伝える。
ポケットの中の銃に私は手をかける。
「・・・。パーバション様・・・。」
「どうした・・・?」
「・・・本当に貴女は・・・。演技がお下手で助かります・・・。」
「・・・。ハハ・・・。参ったな・・・。
出来れば気付かれて欲しくなかった・・・。」
「・・・。貴女の・・・ご自由です・・・。」
やはり、エヴは私の事をよく理解している。
すまない・・・エヴ・・・。
私はポケットの中の銃を取り出す。
リボルバーだ・・・。
定番だな・・・。
「今までありがとう・・・。本当に・・・ッ!
エヴ・・・お前は最高の戦友だ・・・!
それはきっとこれからも変わらないだろうッ・・・!!」
涙が止まらない・・・。
嗚呼、情けないな・・・。最後くらい・・・。
カッコつけたいのに・・・。
「パーバション様ッ・・・。」
悔しそうにエヴは私の名前を呟く。
「エヴ・・・お前は何も悪くない。
それどころか、何度も何度も、私の命を救ってきてくれた・・・。
恩を仇で返す形になって私もとても不服だ・・・。」
私はリボルバーの銃口を自身の頭に当てる。
「だが・・・。どうかエヴ・・・。
お前の望むままに生きなさい・・・!
サヨウナラ・・・。」
私はリボルバーの引き金を引いた・・・。
パンッッ!!!
まだ・・・続きます。