紅ドレスの女と再び遭遇。
違う違う・・・。
アレは私ではない、
なら、アレは誰だ?
決まっている。紅ドレスの女だ。
アイツが私にとり憑いていたからだ。
私にとり憑いたアイツの心を見て覚は発狂したんだ。
私の思考は極めて冷静だった。
冷静にようやく、現象のワケを理解した。
“照魔鏡”に映ったのは私ではなく、アイツ。
私の身体を乗っ取るつもりだったのか・・・?
私は赤黒い血のようなグニャグニャした空間の中を、
ずっと彷徨っていた。
気持ち悪い・・・。早くここから出たい。
吐き気がこみ上げてくるのを、必死に堪え、
冷静な思考で苦しさを誤魔化していた。
「悪い事をしたわね、悪かったわ。」
「やっと、現れたか。
紅ドレスの女・・・。早くここから出せ。」
「それは出来ないわ。
だって、ここは貴女の心の中なんですもの。
それに、私には名前があるわ。
ラルーという名前が!」
「・・・。ラルー、
ここが私の心の中、というのはどう言う事だ・・・?」
「私が貴女にとり憑いて、
私の心が貴女の心に触れた。
その為に、私の狂気が貴女に伝染し、
終いには貴女の身体にまで支障をきたしたから、
咄嗟に私は貴女を自身の心の中に引き込んだのよ。」
「・・・。」
グニャグニャした世界の中で、何の違和感もなく現れる
紅ドレスの女は、ここは私の心の中だと言う。
こんな気持ちの悪い場所が、私の心・・・?
「あら、自分を否定するなんて、良くないわね。
これが貴女の本当の姿よ?
復讐に取り憑かれ、ドロドロとグニャグニャと、
歪んで歪んで・・・。何が悪いのかしら?
今の貴女はとても人間らしい愚か者だわ?」
「ッ・・・!私が愚か者だと!?
お前に言われたくはないな!?」
「褒めたつもりだったのだけど・・・。
まぁ、仕方ないわね、私の心は覚にさえ、理解出来なかったようだし・・・。」
私は・・・。
こんな・・・。醜い心の持ち主だったのか・・・?
「でも、貴女、復讐を諦めるつもりなんてないのでしょう?」
「・・・。ああ、そうだ。
私は決して復讐を諦めるつもりなどない・・・。
絶対に蝶亡を殺してやる・・・。」
「・・・。復讐の人生は楽しい?」
「は・・・?」
「貴女、復讐の人生は楽しいか?って聞いているのよ。答えなさい。」
「・・・。楽しいとか、楽しくないとかじゃないだろ・・・。
私はただ、負けたくないだけで・・・。」
「本当は苦しいのに?」
「え・・・?」
「本当はもう、そんなくだらない復讐なんて止めてしまいたいのでしょう?
それでも、自分に出来る事なんて、復讐しかないから、
諦めてしまったのでしょう?傍から見れば貴女は復讐に取り憑かれた
復讐の鬼だけれど、私から見れば貴女は復讐しか出来ないから、
必死に復讐に執着して、それしかない事が嫌で仕方ないように見えるわ。」
「・・・!!?な・・・。」
「私は貴女の心に潜んでいたのよ?
貴女の心を紐解く時間はあったわ。
ずっと、理解、してもらいたかったのね・・・。」
理解・・・?
嘘だ、嘘だ。
私は・・・。わ、たし、は・・・。
「復讐しかないから復讐をするのと、
復讐に取り憑かれて復讐をするのは、全く違うわ。
だから、貴女は理解して欲しかった。
私が貴女の事を“復讐の鬼”と形容すれば、
貴女は否定をし・・・。
私が貴方が苦しんでいる事を指摘したら、
貴女は強く否定はしなかった・・・。
素直なのね、パーバション。」
ラルーの言っている事の意味が解らなかった。
だけれども・・・。
自然と私の目からは、涙が滴り落ちて・・・。
私の胸ははち切れそうに苦しくなる。
「復讐しかないから復讐をするのであれば、
復讐以外の選択を、自分から作ればいいわ。
まだ、貴女は間に合う。まだ、貴女は、
戦えるわ。」
目の前のおぞましい女は・・・。
あまりにも優しすぎる言葉を私に伝える。
優しすぎるそんな彼女が・・・。何故、狂ったのか、
解らない・・・。けど・・・。
少しだけ、その優しさに甘えても・・・いいのだろうか・・・?
すると、意識が薄れて・・・。
目覚めると、そこはごく普通の和室だった。
「パーバション様!お目覚めになられたのですね・・・!」
エヴが私に抱きつく。
無表情なまま、には変わりない。
「あぁ、胸のつかえが、取れた気がする・・・。」
「そぉ?なら、良かったわ!」
「・・・。は?」
「・・・。」
背後から陽気な声が聞こえ、驚いて振り向くと、
そこにはラルーが満面の笑みを浮かべて・・・。
正座していた・・・。それをジッと睨むエヴ。
・・・。何なんだコイツは・・・!
「あ、エヴンに自己紹介をしなきゃね!
私はラルーっていうの、赤い服の代理人さ!」
「理解しました。」
「理解するの早ッ!?」
ぐ・・・。頭が痛い・・・。
頭に包帯が巻かれている・・・。
私は敷布団に寝かされている。
「一体、何が起きた・・・?エヴ。」
「パーバション様と化け狐が気絶したので、
近くの空室に移動しました。
パーバション様は頭を怪我していたようなので、
勝手ながら治療させていただきました・・・。」
横を見てみると、化け狐も布団に寝かされている。
だが、奇妙な事にも、化け狐は目を覆うように包帯が巻かれている・・・。
「何故か、化け狐の目が焼けていたのです。
なのでこちらも治療をさせていただきました。」
「目が焼けていた・・・?
どう言う事だ・・・?」
「アハッ!それは私が説明するわ!」
そこでラルーが立ち上がる。
なんで嬉しそうなんだ・・・?
「なんか、私がパーバションに取り憑いている所を、
引き抜こうとしてたから、反撃で狐の目を焼いたのだッ!
我ながら最高の拷問を考えたものね!」
「あ・・・あ・・・・。」
今、目の前に史上最悪の女が立っている・・・。
蝶亡よりもコイツを始末した方がいいのか・・・?
「・・・。治した方が、いい?」
「治せ。」
「分かった・・・。」
ラルーは狐の目に手を当てると、
何やらブツブツ言い始める。
「ほい、終わった。」
「早いな。」
「そりゃ、奇跡なんだもの、早くなくちゃ。」
「・・・お前みたいなのが奇跡を意図的に起こせるのか・・・・。
認めたくない・・・。それよりも、お前、人間か?」
「さぁ?それこそ、私が聞きたい事だわ?」
「・・・あっそう。」
「・・・。ブチッ。」
「え」
突然、意識が途絶えた。
「パーバション様!早くお逃げください!」
「ぐ・・・。何が起きた・・・?」
気がつくと、また布団に寝かされている・・・。
だが、エヴの焦った声で布団に私を寝かした者が誰か特定出来た。
私は起き上がり、その主を睨みつけた。
ラルーだ。
何故かその背後に、エヴが鎖に縛られて拘束されている・・・。
「アハハ・・・。ごめんね?
私、命令口調が大嫌いなのよ。
だから、命令口調されたらその人に
腹パン二回と顔面キック一回の制裁を加えるって決めてるの。」
「・・・。お前」
話し出そうとしたその瞬間。
私の顔の横を何かが凄まじい速さで飛ぶ。
風圧で髪がファサってなったが、耳が痛いが、
一体、何が飛んできたか気になるので、振り向く。
杭だった。大きな鉄の杭だ。
それが、壁に真っ直ぐ刺さっている。
そのせいで壁に大きな亀裂が入っている。
あれ、私の頭に命中したら、
簡単に私の頭が吹っ飛ぶよな・・・?
しかも、杭が全く見えなかった・・・。
話を聞けば私は腹パン二回と顔面キック一回を受けたようだが、
それで私は気絶をしたという事か・・・?
なんというパワー。なんというスピード。
・・・ありえない。
カタカタと私は震える。
ここまで解り易く震えた事はない・・・。
そのままゆっくり私はラルーに振り返る。
「フレンドリーに、話しましょう?」
「・・・。分かった」
満面の笑みを浮かべて、ラルーは言う。
真っ黒な暗黒の笑みだろう。アレ。
勝ち目を全く感じないので、諦めて降参する事にする・・・。
アイツ・・・。何者なのだ・・・?
「何で、エヴを拘束して・・・。いる・・・んです?」
フレンドリーな口調を意識して話してみる。
「それ、敬語じゃない?
貴女を腹パン二回顔面キック一回カマしたら、
エヴが暴れだしたから拘束させてもらったわ?」
敬語だと指摘され思わずビクッ!と震えてしまった。
悔しい、悔しい、悔しい・・・。
「エヴを解放、してくれないか・・・?」
「ええ、いいわ!」
そう言って、ラルーはエヴを縛る鎖を解く。
すぐさまに解放されたエヴは私の前に走り、ラルーを睨む。
現時点のラルーに対する私とエヴの好感度はマイナスだ。
「・・・。で、パーバション、これからどうするの?」
「・・・は・・・?」
「蝶亡に復讐するの?それとも、新たな道を選ぶの?
どっち?」
「・・・。復讐、する。」
「・・・!?まだ、引き返せるのに・・・?」
「悪いが、復讐しかないとは言え、
蝶亡を憎んでいる気持ちに偽りはない。
私はアイツに復讐をしたいと思っているのだ。
だから・・・。私はアイツを絶対に殺す・・・・!」
「・・・そう・・・。
なら、仕方がないわね・・・。
私には貴女を止める権利なんて無いし、貴女に憑いていくだけだわ。」
「勝手に私に取り憑かないで!」
「あら?蝶亡に見つかったら大変な事になっちゃうわ、私。」
「お前がどうなろうと、私には関係のない事だ!!」
「・・・。ラルー、悲しくて死んじゃうよ?」
「勝手に死ね!!」
「・・・シュン・・・。」
ラルー、落ち込む。
自業自得とはこの事よ。
「行くぞ、エヴ!」
「はい。」
和室を後にする。
ああ、ラルーを置いていったに決まっている。
「パーバション様・・・。」
「何だ?エヴ。」
「私はパーバション様の・・・友人ですか?」
「決めっている。
お前は私の最高の戦友だ。」
「・・・。ありがとうございます。」
その時、かすかにエヴは笑った。
本当にささやかに微笑んだ。
珍しい事もあるのだな?
「あ、私を置いていかないで!!?」
「ちょッ・・・!追いかけてくるなぁぁぁぁぁ!!!
怖いだろうが・・・!!?」
廊下をしばらく進んで、何気なく後ろを見ると、
ラルーが追いかけてきた・・・!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・・!
ホラー映画さながらだろう!?
「パーバション様、行きましょう!
あっちの空気が冷たい気がします!」
「あ、ああ!行こう!エヴ!」
エヴに手を引かれ、私は走り出す。
さて、後ろのヤツは振り切れるとは到底、思えないが、
目的地には行けそうだ。
私の復讐が遂げられる時が近づいている気がする・・・!!