表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

◆1話◆異世界の上に地味顔!?

☆☆☆


 はて?これは何事?



 私は首を傾げた。

 こういうのは……アレだ。

 此処は何処?私は誰?みたいな感じ。

 すると私は記憶喪失か……って、違うでしょ。

 私は誰?が余計だったわ。


 私は沙織。東郷沙織だ。

 お嬢様学校にかろうじて通う、没落貴族の娘。

 そして、生家の血筋と持って生まれた美貌と、様々なテクニックを駆使してゲットしたのは大会社跡取りイエ〜ッ!勝利!


 そう。

 勝利した。

 私は人生勝った気でいた。

 まさしく、乾杯のグラスを掲げたのは……つい先程だ。


 その証拠に、私は視線を落とした。

 ドレスを着ていた。

 着ていない。


 待てやこら。

 口にした事も無い罵詈雑言が、内心嵐の様に吹き荒れた。

 罵倒のバリエーションは我ながら感心する程……等と理性と感情が別々に暴走する。


「先ずは、落ち着きましょう。」


 高く、澄んだ声が出る筈だった。

 何?風邪をひいたのとも違う。アルトの声。

 うっかりすれば、甘い……少年の上品な声が、聞こえた。


 この声に品を与えたのは、私。

 と云う事は、これは私の声。


 先程、罵倒した現実を再度直視した。


 見下ろせば、豊かな胸を薄紅色のドレスが包んでいる………筈が。

 披露宴に着ていたドレスの代わりに、ストンとした色褪せた藍色の様なワンピース。なのか?単なる長いシャツかも知れない。その下はジーンズ。こちらはキッチリ色褪せたダメージもの。


 ストンとしているのは………何も服だけでは無い。真っ直ぐにストンと………布が落ちるのは……引っ掛かるものが何も、何も、何にも………無いと云う事で。


 色気の無い服。

 少年の甘い声。

 いや、私の御曹司ゲット計画、甘い口調が……その声を甘くしたのかもだが。


 私は、深呼吸した。

 悲しいくらい……胸元は動かなかった。

 女は度胸だ!

 行け!沙織!


 女じゃ無いかも知れないけれどね?


 暴走して分裂する、私の理性が呟いた。



 あった!!!

 良かった〜〜〜〜〜っ!

 微かだけど有ったわ。

 女の子だった。

 嬉しい。


 厳しい現実で、性別まで男だったら泣いたよ私。

 ああ。

 でも、やっぱり泣くかも。

 半分諦めてたから感涙♪


 いや。

 感涙してる場合じゃないだろう?


 まあね。

 そりゃあね。


 先程迄、ばら色ドレスの張り切りバディから変化した、貧相な程のホッソイ躯。


 先程は、華やかなパーティー会場で、ドレスアップした人々の視線が集まっていたが……今、誰も居ない。


 人っ子一人居ない。

 何故か車?が一台。


 そして見渡す限りの………………砂。砂。砂ばっかり。


 此処は何処?此処は砂漠。

 そして、今は曇り空だが……昼間?夕方かな?


 だから。

 これは何事?


 誰か教えろや〜〜〜っ!


 声に出さずに、叫んでみました。


 私は誰?も……こうしてみれば………切実な問いになる。この躯は誰なのでしょう。


 そして、私の躯は何処に?


☆☆☆


 結局、心で叫んでも何にも生まない。

 当たり前の話だけど。


 取り敢えず、砂以外の物を観察と点検。

 もしかしたら、食料が有るかも知れないし。

 もしかして、此処に関する手掛かりが有るかも知れないし。

 もしかして、この……躯に関する手掛かりも、有るかも知れないし。


 まあ。

 先程は取り乱してしまったけれど、アレよ?異世界?とか、別人の躯?とか、なあんて話が有る訳は無い。


 と、なれば。

 これは、有る種の誘拐。罠。陰謀と云うもの。


 パーティー会場からどうやってか意識を奪い誘拐。私の魅力溢れる肉体を、貧弱極まりない躯に手術迄した意図は不明。嫉妬かしら?


 大戦後は砂漠の地域も多いと聞くし、現実には大して移動してなくて、まさかのこれが電脳世界と云う事も有り得る。


 最近はBox世界も機械も発達してて、違法ユーザーは、マイBox以外からもアクセスが可能だとも聞く。

 もちろん犯罪だけれど。

 誘拐なんてする輩が、律儀に法律を守るとも思えない。


 それ以前に、誘拐が違法だったわね。


 しかし……違法アクセスはユーザーに違和感を与えずにおれないと聞いた筈だが、これは。

 曇り空の湿っぽい空気が肌に纏わり付く……不快感。

 ほんの少し離れた位置に有る、車らしき物を目指し歩けば、砂を踏む感触。

 色気の無いブーツが有り難いと思える程に、歩き難い。


 現実かも知れない。

 と、なれば……この躯も現実か。

 私の旦那様は愛想を尽かさないだろうか?


 大して慌てもしないのは、既に入籍が済んでいるからだ。

 彼をゲットした嫉妬から、こんな目に遭ったならば、この姿に愛想を尽かして離婚されたとしても………元は取れると踏んだ。


 ふふふ。

 慰謝料たっぷり。


 その為には帰らないと♪


 私は張り切っていた。



 結論。

 此処………異世界。


 いや……私が無知だからそう思うのかも。そうなのかも。

 逃避する心を嘲笑う空間が有る。


「うわあ……砂だらけだね?ちょっとシャワー浴びておいでよ!うわ、うわっ、何々?何だよう!?」


 やっぱり。

 生きている。

 いや………ロボットかも知れないし!


 柔らかな毛皮の、空を跳ぶ猫。


 ロボットはドールさえも超えたと評判だし!


 元気に喋る猫。


「何なんだよう!?」


 手を離せば涙目で距離を取り、私を視つめたのは………空間に赤ちゃんがオスワリする様に浮かんだ……茶虎の仔猫。


「シャワー……。」


 私は殆ど呆然としたまま呟いた。

 猫は直ぐさま不機嫌を忘れてた。


「え?入る?お風呂♪シャワー浴びる?」


 私が頷けば、ウキウキと案内してくれる………猫。




 取り敢えず。

 シャワー浴びて、頭をスッキリさせよう。



 車だと思いたかった。

 でっかい車だと信じたかったよ。


 しかも小さな小屋程度の、車でもオカシクないサイズのアレの中に……この広々空間。

 無理だ。

 猫はロボットでも………空間歪めたり、広い空間ゲットする欲望自体が、地球には無いよ。


 だって。

 大戦後の世界は、一部の優良階級しか、リアル世界に暮らさないんだもん。


 人不足が、ドールを迎え入れた。レプリカを必要とした。


 地上は余り、砂漠に緑を戻す研究も……出資する者の意図は、単なる趣味。慈善の延長でしかない。



 昔は溢れる程に、地球に存在したと云う人間は。

 その大半が電脳の世界に生きる事になった。

 外で生活するには、弱すぎる……と云う理由で。



 だから、こんな技術は求められる事さえも無い。

 特に、地上に……リアルに生きている中でも、上流に続する人間は……機械嫌いが揃っている。


 こんな怪しい乗り物ではなく、大戦前のモデルを模した、クラシカルな車に乗る。

 便利な道具は、特にBoxは……小さなパソコン扱いをされた。

 最高の階級…………第四階梯の血を持つ人間が、殆どと云って良い程……それこそ十人居れば九人迄は、電脳世界に入りたがらないからだ。

 その事実が、上流世界の機械嫌いを促進したとも云えた。


 逆に、市民達は遊び場所としてBox内を利用した。

 流石に、何度命を落としても、再生可能な第四階梯とは違い、夜の繁華街などは………Box内に通う方が安全だったからだ。



 浴室に入り、嘆息した。

 そこに有った窓に気付かずドキリとしたが………広がる景色に目眩がした。


 何処迄も……非常識。

 車だったら良かったのに。

 これは、中に入れば空間が広がる。

 そして空を飛ぶ。


 宇宙迄、飛ぶ。



 何か……疲れた。

 そう思って、頭を振って、シャワーを浴びようとした。


 全身を映す……鏡が有った。


 肌は白い。

 だが、私が磨き続けた肌の、ミルクの如き滑らかな白さでは無い。

 寧ろ、青白い……と云うべきだった。

 倖い、肌質は悪くない。磨けば光ると思われた。


 胸は無い。

 いや、有るが。

 ちゃんと女の子だが……悲しいくらいに貧乳。いやいや、形は良い。多少は育てられる。

 豊かと迄は行かなくとも、魅力有る胸にする事は可能だろう。


 腰の細さは悪くない。

 しかし、全体的に筋張った細い躯は、とにかく沢山食べて、柔らかな肉体を手に入れるべきだろう。

 その上で、締めるべきところを締めるべし。


 足も真っ直ぐで良い。

 歯も白く美しい。


 髪は多少毛先が荒れている様だが、薄い青銀の綺麗な真っ直ぐな細い髪が腰までの長さを誇り、夢の様に美しい。




 悪くない。

 うん。

 悪くない。


 様々なパーツはね?充分に私が磨き上げて、育てる事が可能な、美女の原石だった。


 だが。


「地味な顔っ!?」


 様々な原石材料を持つのが勿体ないくらいの、地味フェイス!


 いやいや。

 私は何とか立ち直る。

 女には化粧と云う武器が有る。


 寧ろ、化粧等で誤魔化し切れない部分が宝石もかくやの原石なのは………ラッキーと云うべきだろう。


 うん。


 逆よりも……本当はこの方がより難易度が高い美女を目指せる。



 って、夢中になってどうする。


 いや、やはり大切か。


 此処が何処かは知らないが、少なくとも、私が知る世界では無い。

 地球に帰る方法と、元の躯に戻る方法を入手する迄は……この躯で生きなくてはならない。



 どうやら、この躯で生きてた人間は確かに居る様だし。

 と、話し掛けて来た猫を思い出す。



 問題は。

 この少女の振りが出来るか否か。

 そして、正直に、今の状況を……話すかどうか。


 地球では、それは自殺行為に等しい。

 人嫌いの病持ちとして、人前に出られなくなるだけだ。


 この世界では。


 どうなのだろうか?


 慎重に。

 見極めなければならなかった。



☆☆☆



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ