58.「……きらきらしたひと」
シレーナの父親に連れてこられた場所は、宴をしている大部屋から行ける角部屋だった。
巻き貝の中で用途によって分けているらしく、貝を挟むと外へ聞こえなくなることを教えられる。
「それでは、掻い摘んで話そうか。率直に言うと、此処は未開拓地にある遺跡の一部と繋がっている。貴殿も聞いたことがあるんじゃないか? 少し前に見つかった遺跡の話を」
アレスは温泉地で聞いた話を思い出していた。未開拓地で遺跡が見つかったこと。そこから魔物があふれ出していると言う話も。
無言を肯定と捉えた国王は真剣な眼差しを向けてくる。
未開拓地で発見された遺跡は遥か昔から人魚の都にある洞と繋がっていたらしい。調べたところ一方通行らしく、あちらから魔物が流れてくることは一度もないとか。こちら側も洞との境界線までは行けるらしい。但し、境界線を抜けて遺跡へ侵入してしまうと戻れなくなると……。
「古い文献に、境界線を抜けて遺跡へ侵入してしまった者が戻れなくなったと記されていた」
「――なるほどな。いまのオレたちには関係なさそうだが、情報はあるだけ良いらしい」
いまのアレスには不要な情報だったが、この間も魔法具の素材集めに未開拓地へ行った手前、情報は大事だと理解していた。
二人が戻った頃には宴も終わり、酒で酔った者たちは寝かされている。朝まで泊まることになり、アレスも用意された布団で眠りについた。
翌朝。目覚めてすぐ、町が起きる前に都からラックエールに戻ったアレスたちはセレーナへ別れを告げる。
「本当に、有難うございました。旅のご無事を願っています」
「はい! 有難うございます。アレスさんたちともお別れですね……」
「そうだね。僕もまた会えて嬉しかったよ。一緒に旅が出来なくて残念だけど……仕事も溜まってるからさ」
『たのしかった。またね』
アレスの代わりに別れの挨拶をする幼女は手を振って、町の外へ向かった。もう此処に用はないため、アレスたちもまた行く宛のない旅へ戻るため。
町を出てすぐ、背後から地面を蹴り上げるような轟音に幼女が反応する。
アレスが振り返った途端、ズザーッと地面を削る音をさせた人影は頭を垂れていた。
見るからに知っているピンク髪の女騎士で鳥娘のフウルだった。昨日、ユースと共に町を離れたはず……。
「すみません! アレスさんに、助けてほしいんです!!」
相変わらずの暴力的な声に耳を押さえるアレスは、漸く解放された厄介事の気配を感じて背を向けた。
アレスを理解している幼女は、一歩踏み出そうとする足にしがみついて阻止してくる。
少し抜けているフウルは、まくしたてるように話しだした。
「ユース団長が! 指名手配されちゃったんです!!」
ユースの名前は出るだろうと思っていたアレスだったが、まさかの事態に思わず面食らった顔をする。
あのユースが指名手配?
まったくピンとこない二人は視線を重ねる。
「順を追って説明しろ」
「は、はい!!」
情などではない。いまのアレスにとってはまだ分からない仲間意識だ。
フウルの話は昨日に遡る――。
◆◆◆
アレスたちと別れて昼食後、出立したユースたちが町を出てから半日経った頃。野営の場所を探してといたときに、派遣されたらしい別の騎士団に馬車を止められる。そこには、馬に乗った副団長がいた。
手紙を出してから一日しか経っておらず、王都まで馬でも三日はかかるのに一日でたどり着いたことになる。明らかにおかしかった。
怪しむユースは副団長から、国王陛下から預かったという王命を見せられる。一字一句、陛下の文字だった。内容は『王命により、国賊であるユース・ティティアを投獄する』
それを聞いたフウル含めた部下は動揺したが、当の本人であるユースはうろたえることなく清々しい表情をしていた捕らえられたらしい。なんともあの男らしい姿が浮かぶ。
信じがたい話はここからだった。副団長が直々連れていくとなって縛り上げ、なぜか馬へ乗せて先に戻っていってしまう。ユースの代わりを担ったフウルは、野営を引き延ばして追いついた騎士団の前に落馬して倒れている副団長を発見。
周りには血の跡が……。
どこも怪我を負った形跡のない副団長しかおらず、ユースの所在をフウルが聞くと、急に暴れて逃げられたと言う。
これは反逆の意識と見なし、王都へ戻る間もなく、その場で副団長によって団長のユースが指名手配されてしまった――。
血相を変えたフウルに事の事情を聞いたアレスは眉を寄せる。
「謀の気配がプンプンするな。副団長はそのあと、どうした」
「副団長は……私たちに命令して、その場から立ち去りました!」
部外者からしたら黒としか言えない男の所在は不明。且つ、負傷しているだろうユースの居所も分からなかった。闇雲に探しても見つからないだろうと考えたアレスは嫌な予感を覚える。
指名手配された人間は逃げ隠れするか、協力者を得て自ら解決に動くかの二択だ。
あの男が逃げ隠れを選ぶとは到底思えない。機を見て接触してくる可能性にため息をついた。
「話を聞いたが、オレは何もしない。但し、あの男から絡んできたら話くらい聞いてやる」
「分かりました! でも、私はどうしたら良いんでしょうか!」
「自分で考えろ。あの男に忠誠を誓っているのだろう?」
顔を上げて立ち上がるフウルは真剣な眼差しで頷いて感謝を述べたあと、再び王都の道を走っていく。
残されたアレスは盛大なため息をついて、物陰を気にしながら再び歩き出した。
これにて第二章完結です。水面下で第三章を書き終わるまで一旦休載となりますが、首を長くしてお待ち頂けると嬉しいです。少しでも楽しんでもらえたら幸いです。引き続きよろしくお願いします。




