33.「……きんぱつのひと」
王城専属で封印の魔法使いがいることは知られている。なぜなら、封印の魔法は従属の魔法具など人権に関わることが多いからだ。それから、国を揺るがしかねない強力な魔法の存在。
魔法にも貴族のような位のようなものがあるらしい。個々違った魔法の位から、魔法自体まで。雑貨屋で立ち読みした程度の知識しかないが、マイスターの称号を賜ったクラトスも認めていたくらいだ。
少しの沈黙が流れたあと、国王陛下は固まっている側近を呼びつける。小声で何かを話したあと、側近から何かを指示されたらしい騎士団員が近づいてきた。
「私は、奴隷制度をどうにかしたいと思っている。亜人種も人間だ。人権のない行いは許し難い」
国王陛下が一言告げてから騎士団員二人に案内されて奥の部屋へ向かう。
連れて行かれる道すがら、国王陛下の言葉を代弁するようにクラトスが付け足した。
「国王陛下も奴隷のほとんどが、無理矢理連れてこられた者だって分かっているんだ。だから、あの件も陛下の指示だと思う」
「ほぅ……ただ豪華な椅子に座っているだけじゃないわけか」
「ちょっ……! 死刑になりたいの!? ハァ……君と一緒にいると心臓がいくつあっても足りないよ」
小声で叱責するクラトスに対して何も思っていないアレスは涼しい顔をしている。怖いものなしである男に何を言っても無駄だと分かったクラトスは、連れて行かれる場所を予測した。
全面的に強力すると言う態度だったが、それは表向きで、封印の魔法使いという重鎮に会わせるのだからその前にやることは想像できる。
連れて行かれたのは客間とは言えない小さな部屋だった。
白い壁に囲まれた四角い部屋で、装飾は一切ない。一つのテーブルに、向かい合う椅子が二つずつ置かれている。王城にしては華やかさが一切ない場所だ。
馬鹿ではないアレスも異常なことに気づきながら想定内だと笑う。
椅子に座るよう促されて、当事者であるアレスと人魚が座った。マイスターのクラトスを立たせるわけにはいかないと、手前の椅子を一つ後ろへ置く。
二人の騎士団員が話を聞くのかと思いきや、扉の横に立って誰かを待っていた。暫くして扉を叩く音がして、慌てた騎士団の一人によって開かれる。金髪の髪が見え、すぐに黄昏色の瞳と目が合った。
正直、アレスも一番会いたくない優男は口元を緩めて笑みを浮かべる。当然、その目は笑っていない。
「やぁ。また会えて嬉しいよ……。それで、どうしてあのとき逃げたんだい?」
向かいの椅子を引いて座るユースは笑顔のまま、当然のような口振りで闇市の話を振ってくる。ビクッと肩が揺れる人魚と違って表情一つ変えないアレスは綺麗な顔で首を傾げた。
のらりくらりと逃げられる相手じゃないことは、初めて遭ったときから理解している。
相手側も商品にされた被害者の人魚を把握した上での質問だ。正面へ向き直るアレスは、利き腕じゃない片手をテーブルに置く。
「――最近、大捕物をしたんだろう? この男から聞いた。客に扮した騎士団以外で、知らずに紛れ込んだ奴はいないのか?」
視線だけでクラトスを示すと、本人は固まったように首を動かした。マイスターとして国王陛下には何度も面会していて、ユースにも会っているはずなのに……この体たらくである。
クスッと上品に笑うユースは、クラトスを立てるように話し出した。
「なるほどね。残念ながら、すべて鼠だったよ。ああ……一人――いや、子連れだろう二人組みを除いてね?」
「――そうか」
明らかにアレスのことを言っている。「だろう」というのは、子供のような小さい体をした亜人種もいるからだ。だけど、此処には幼女がいる。背格好から判断した強かなユースは含んだ笑みを浮かべていた。
一歩も譲らない言葉の応酬に、居た堪れないのは扉の横で突っ立っている騎士団員と、体を小さくしている人魚である。
だが、ユースの表情から嫌悪感はなく、そこまで真実を明るみにすることへの拘りは感じない。
「ふぅ……このままじゃ埒が明かないね? 君たちからは、悪い匂いもしないし……国王陛下に仇なさないのなら、保留ってことで」
続く言葉は思った通り、アレスが屈しないから折れてやったと言わんばかりだった。尋問に近いやり取りが終わり立ち上がったユースは「案内するから着いてきて」と言わんばかりに手を翻す。
立ち上がって案内されるままついていくと、壁で囲まれた行き止まりへたどり着いた。先頭にはユース、背後は二人の騎士団員で囲まれている。だが、マイスターであるクラトスに加えて被害者の人魚へ手荒な真似はしないだろうと分かっているアレスは相変わらず涼しい顔で、ユースの動きを観察していた。
壁に手を触れると、浮かび上がる魔法文字。黒い文字は、ユースの魔力を感じ取ったようで黄昏色に光る。魔法文字などの個人を識別する魔法認証は、瞳の色を移すらしい。
浮かび上がった文字が消えると、そこにあったはずの壁も消える。そして、光の見えない暗闇が現れた。
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