1.「……きらわれたくない」
皆様、お久しぶりです。この度、別サイトにて投稿していた作品を転載しました。
完全新作ではありませんが、タイトル通りの物語です。興味を持たれ、読まれたことがない方は是非。
完結済みの第二章まで投稿します。
「罪人、我が息子――元最強神アレスを天界より追放する」
唐突に言い渡された言葉は、自由奔放に生きてきたアレスの思考を停止させた――。
アレスという神は心がないのかと言われるほど、人間の住む世界を滅ぼしてきた。だが、彼は常にこう言っている。
「人間を生み出した神は無能だ」と……。
そんな彼も全知全能を持つ父神によって、〝堕神〟の烙印を押されてしまった。
神殿のような柱があるだけで、全てが白一色に染まった空間。首が隠れるくらいまで伸ばされた艶のある白銀の髪に、燃えるような赤い双眸を宿した姿形は二十代の青年へ告げられる。
彼は静かに不敵な笑みを浮かべるが、罪状は『必要以上にすべてを破壊したこと』
アレスの神力は神の中でも圧倒的で、〝白銀の最強神〟と呼ばれている。
だが、最強神だったアレスは――すべてを破壊のためだけに力を使い、対になる力を捨てた愚かな神だった。
後光で姿の見えない父神である全知全能の神へ、頭を垂れてしゃがみ込むアレスの床が丸く切り抜かれたように穴が空く。
そして、そのまま吸い込まれるように笑ったまま地上へ堕ちていった。
――ぽっかり空いた別空間から遥か彼方の地上へ、大地の割れるような地響きが鳴り、地面が真っ二つに割れる。
幸いにも生き物のいない枯れた大地だったようで、地中から這い上がるよう手を伸ばした。
「あー……ふざけやがって! クソオヤジが‼」
何も語らず、笑みを浮かべていたのが嘘のように上空を見上げて暴言を吐き出すアレスは、どこかで高みの見物をしているだろう他の神へ舐められないよう強がっていただけだった。
呼びかけに反応はないと思っていたが、力の抜ける感覚に体の異常を察する。
全能の神である父神が、罪を犯した最強神を単に外界へ下ろすはずはない。
『――お前の能力は一つを残し、奪い取った。今からお前は、ただの人間だ。これから出会う、呪われた子供を育てろ。全ての呪いを解き、改心したのなら、再び神に戻そう』
再びシーンと静まり返る青空へ、地面を蹴って土を巻き上げる。声が聞こえなくなってすぐ視線を感じて前を向くと、目の前に二本の角を生やした七歳ほどの幼女がいた。
「あー……うぅー……」
「――おい。子供って……幼児だろうが‼」
二本の角を覆うのは腰まで伸びた艶のないボサボサ頭の赤い髪。金色の瞳は竜人と呼ばれる亜人種特有な目をしていた。
背丈は百二十センチほど。細い手足だが、健康的な肌色をしている。
いままで生命を奪うことしかしてこなかったアレスに、人間の子供など分かるはずもなく視線をそらした。
幼女も一声発したあとは、どこか諦めた様子で下を向く。
「……幼児で、呪いってなんだよ」
力が失われたのを感じながら、色々と試すが無駄だった。その間、幼女は一言も話さず、身動きすらしない。
力の抜けた体で一つだけ人間と違うところは丈夫な肉体だけ。父神の言っていた一つだけ残した力だろう。神の肉体でもない限り、遥か彼方から落下して無傷では済まないはずだ。
「……怠すぎる。これからどうするか。コイツの呪いだかを解かねぇと、力は戻らねぇが……ガキのお守りは御免だ」
貫くような切れ長の双眸で鋭い視線を幼女へ向けるが萎縮する様子はなく、ただ下を向いている。
この年齢の子供が言葉を話せないはずもなく、これも呪いの一つかと思案している中、前触れもなく枯れ果てた大地が十字に割れた。
沈む足場で驚いた幼女は顔を上げて固まっている。ただ、その双眸は大人のアレスを頼ろうと縋りつくものでも、恐怖ですらない憂いを帯びていた。
「ああ、クソッ……変な感覚が湧き上がってきやがる」
思わず目を見張るアレスが幼女から感じたのは、すべてを諦めた者の曇った瞳――。
どこを見ても草木一本生えていない、こんな枯れた大地に竜人とはいえ幼い子供がいること自体、異常なのである。
時間が止まったように感じる中で、アレスが落下した場所と違う地面を割って這い出てきたのは茶色い毛を全身に纏い、鼻の長い巨大な魔物だった。
「いまのオレは非力な人間だぞ……。そういや、人間共も魔物にやられていた世界もあったか……」
途方に暮れている状態で早々遭遇してしまった魔物へ、武器もないアレスは鋭い眼光で凄む。
元・最強神だとしても、魔物如きに精神面でも負けるわけにはいかない。
幼女のことは一旦置いておいて、言葉が通じない魔物を鼻で笑った。
ただ、この枯れた大地に武器らしい物もあるわけがなく、魔物も本能からか長い鼻だけを動かして警戒しているようだが、非力な人間だと認識はしているようで睨み合う。
ただ、長く尖った鼻先の動きは、何かを探しているようで、視線が合っていないことに気づいた。
「……コイツ。嗅覚は優れていて、視力が退化してるタイプか。それなら、やれねぇことはねぇ」
嗅覚でアレスの位置を探る魔物に対して、先ほどと同じく地面を蹴り上げると鼻先めがけて土を飛ばす。
鼻先に命中はすれど、乾燥した土では嗅覚を潰すほどには至らず、位置を捕捉した魔物が突っ込んできた。
「ああ……こんなに話したのもいつぶりだ? 魔物相手になぁ」
幼女との立ち位置を考えても、安全だと判断してアレスが身を翻そうとしたとき、石像のように固まっていた幼女が前へ出る。
何もかも諦めた瞳をしていた小さな背中が何を考えて前に出たのかは分からない。
思わず手を伸ばすが、次の瞬間――幼女の口から前方へ炎が吹き出された。
呆気にとられるアレスの前で、黒焦げで倒れる魔物と、もじもじしながら振り返る幼女へ笑い声が響き渡る。
「クハハッ……! まさか、オレが人間に助けられるとはな……。しかも、子供ときた――やるな童」
先ほどの瞳が嘘のように輝き、褒められたと思った幼女は照れたように小さな笑みをみせた。幼女の心情は分からない。誰もいなかった大地で、自分を見てくれたのが単純に嬉しかったのか、他人を助けられた喜びからか……。
身長差から見下ろすアレスは再び思案するように腕を組む。
「……この幼児、使えるかもしれないな」
丈夫な体であってもなんの力もなく現状は武器もない自分と、幼いが種族としての強い能力を持つ幼女。
平穏が戻ったことで辺りを確認すると、蜃気楼のような遠目に見える町らしい物体を捕捉して結論を出す。人間の体とは言っていたが、肉体の丈夫さに加えて視力も良いらしい。
それと、反対方向にぼんやり映る半分以上が砂と化した小さな祠のような残骸があった。アレスは気に掛けることなく町を指さす。
「悪くねぇ……。おい、童。あの町まで貴様を連れて行ってやる。だから、その間オレの護衛をしろ」
護衛の意味を理解出来ていないのか、パァァァと明るくなった顔が首を傾げた。
竜人の子供とはいえ、見た目のとおり幼いことを理解したアレスは言い直す。
「あー……なんだ。オレの横で、さっきみたいな魔物が現れたら黒焦げにしろ。口から出した炎を吹け」
一から十まで話す勢いで言い聞かせると、ようやく理解したようで首が取れるのではないか心配になるほど縦にブンブン揺らしていた。
そして、自然と伸ばされる小さな手。子供は善悪を認識しやすいと聞いたことがあるのを思い出す。だが、完全にアレスは当てはまらない。幼女の行動は、人間を知らず、感情を理解出来ていないアレスでも分かった。
「……これも人間の生きる術ってやつか」
少し考えてから、思い切り両手で自分の頭を乱したあと。伸ばされた小さな手を軽く握る。
幼女の顔は再びパァァァと明るくなり、力強く握り返される手は意外と強く……竜人の扱いについて考えながら町まで歩き出した。
なぜか一度だけ背後へ振り返る幼児を気にすることなく……。




