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揺れる月と海獣1

それは、覆されることのない掟であった。

古から続く儀式のひとつ。

人里離れた辺境の地に息づく者の責務を、物心つかぬほど幼い子ども独り。他者の人生を、責任を、一身に背負わされた。


子どもに母親はおらず

父親は罪人で、自分が生まれたのち処刑されたと聞いている。


元々、建て付けが悪く住居に適さない部屋の窓辺を開け放ち

虚ろな視線を外に泳がせる。

柔らかで、潮を含んだ重い風が

レノの頬を撫でている。心地よい。


塔の足元は棘が蔓延り、人を寄せ付けることがないのだが、いまにも崩れ落ちてしまいそうな痩せ細い塔を心なしか支えているようにも見える。


レノの息づかいが赦される場所は、生まれてこのかた此処にしか存在しないのだった。


いつから生えているのか知りえないほど

深く蔦に覆われた古い塔で生活している。


知ったところでどうにかなるわけでもない。

レノは小さく鼻を鳴らした。


室内の広さはせいぜい6畳ほどだった。ツンと黴臭く、分厚い埃が積もっている。

昼も夜も問わずレノが常に窓を開け放っているせいで、海風にさらされている室内は傷みが更に進んでいる。


塔が壊れて潰れるのと、自分の命が燃え尽きるのではどちらが早いだろうか。答えはまだでない。


眩しい陽射しに時おり目を細めながら、ただ遠くに見える海を見つめていた。


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