4.相手はどんな人?
大学が春休み中の実音は、小学校時代の仲間と共に墓参りへとやってきた。
「やる前からピッカピカで、掃除のしがいがないね」
「いろんな人が頻繁に来てるんじゃない? 私たちが来た時、既に花が生けてあったし」
「ハル先生、人気者だもん」
「それにしても花買いすぎだよ」
「奥さん、綺麗なお花に囲まれて嬉しいと思うよ」
「先生。奥さん。私たち、二十歳になったよ。もう子供じゃないんだからね」
「ここにひとり十九歳がいまーす!」
「私も成人はしてるよ!」
あの頃吹奏楽へ青春を捧げた実音たちの中に、今でも続けている者は数人しかいない。だが、辞めた者も母校の演奏会へ足を運んだりはする。また、培った精神力などは無駄になっていない。経験したことは、それぞれの場所で困難にぶつかっても乗り越えるための力となっている。
「ねぇねぇ。アキ先生、ふたり目産まれたんだって!」
「おめでたいね!」
「中学の同窓会は不参加で寂しかったけど、落ち着いたらお祝いしてあげたいなぁ」
「アキ先生、肝っ玉母ちゃんってイメージじゃね?」
「わかるー。子供の運動神経も良さそう。だって、旦那さんも体育の先生なんでしょ?」
「でもさ、音楽やってくれたらいいよね」
「そうだね。アキ先生がまた指揮するのも見てみたい」
「みんな、何しに来たのか忘れてない?」
「忘れてないよ! ちゃんと話すから!」
「じゃ、俺からな」
「ずるーい!」
「ほらほら、順番ね」
磨かれて輝く墓に手を合わせ、ひとりずつ報告をする。
実音も話したいことがたくさんあった。
恩師の春里均がくれた数々の言葉が、ずっと自分を支えていること。昔聴いたCDの『サロメ』のオーボエを吹いていた人物と、現在共に活動していること。春里の妻とお揃いの扇子は、暑くなると今も使っていること。一緒にいると、空が綺麗に見える相手と出会えたこと。時間の許す限り、彼女は大好きなふたりへ自身に起こったことを伝えた。
墓参りを終えると、予約していた店へと入った。
実音は年明けに東京へ帰って参加した「二十歳の集い」でかつての仲間たちと再会したが、その場には中学校の同級生のほぼ全員がいたため、多くの者に声をかけられてここにいる者たちとはゆっくり話せなかった。前回できなかった分、近況を教え合ったり小学生の頃の思い出話をして楽しむ。
「高校でも大学でも、コンクール金賞おめでとう!」
「ありがとう!」
「島原大学って、練習どんな感じ?」
「普通だよ」
「ということはハードってわけね」
「あそこの先生たちって有名だよね。厳しい?」
「うーんと、いろいろあったみたいで、その……」
「ん?」
「今は学生主導なの」
「へぇー。大変だね」
「ねぇ、実音ちゃん。危ない目に遭ったんでしょ? それなのに、私たち何もできなくてごめんね。方南でも辛かったよね」
「そうそう! 心配だったんだからね!」
「みんな連絡くれたじゃん。それだけで充分ありがたかったよ」
近くにいなくても、ちゃんと繋がっている。苦楽を共にしてきた仲間の絆は、何度も実音の心を強くした。長崎で新たにできた関係も含め、彼女にとって大事なものだ。
「ところで実音ちゃん」
「何?」
「カレシできた?」
「え!?」
「いるでしょ!」
「いるよね!」
「いなきゃおかしい!」
「で、どうなの?」
「……うん」
「おぉー!」
顔を赤くしながら頷く実音に、女子たちは歓喜し男子たちは固まった。
「だと思った!」
「ねぇ、どんな人?」
「写真ある?」
「見たーい!」
「イケメンなんだろうなぁ」
「……うん。かっこいいよ」
「ね、今の聞いた?」
「すっごく気になる!」
恥ずかしがりながらも実音はスマホを操作して、先日デートで撮った画像を友人たちに見せる。
「この人だよ」
「……かっこ、いい?」
「……思ってたのと違うね」
「ゴリラ?」
「うん、ゴリラだ」
「ゴリラだね」
「人間だよ!」
微妙な反応をされ、実音は頬を膨らませる。
彼女にとって大護は、中身はもちろん見た目も自慢できるカレシだ。
「ごめんごめん。好みはそれぞれだよね。ちょっと意外だったもんだからさ」
「あ、わかった。この人、楽器が天才的に上手いんでしょ?」
「なるほどね。そういう理由か」
「なんの楽器? チューバっぽいね。トロンボーンもありそう」
「音楽やってないよ。高校まで野球部でキャッチャーしてたの」
「見たまんまじゃん」
「今は?」
「漁師さん」
「……実音ちゃん、どこに惚れたの?」
「みんな失礼すぎる! 本当にいい人なんだからね!」
実音に変な虫がつかないように囲って守ってきた彼女たちからすれば、どうせなら見た目もお似合いで文句のつけようがないカレシができてほしかった。だからすぐには祝ってやれなかったが、本気で好きなことがわかる態度を見ると次第に安心してきた。
「わかったわかった。実音ちゃんがゴリラ好きだったとしても、幸せにしてもらってるならそれでいいよ」
「可愛い娘を嫁に出す気分だね」
「酷いことされたらいつでも教えて。私たちが懲らしめてやるから」
「そんなことしないもん!」
「はいはい」
頭を撫でられる実音を、男子たちは離れた位置から眺める。
子供の時から秘めていた想いを伝える前に玉砕し、彼らは食事が喉を通らなかった。
「ゴリラだって」
「ゴリラは強いな。そりゃ負けるか」
「イケメンでも天才でもねーのかよ」
「あの顔見てみろよ。今更告ったって無駄だ。こんなことになるなら、中学の時に言えばよかったなぁ」
「でも、ハル先生が高校卒業したらとか言ってたじゃん」
「いくらハル先生が言ってたことでも、普通そんなの律儀に守るか?」
「雅楽川ならあるぞ。だって『ハル先生絶対主義』じゃん。頭いいけど部活バカだし」
「あー。確かに」
男子たちはカレシのことを楽しそうに話す実音を見て、深い溜め息をついた。




