最強王子の庇護
混乱に包まれる舞踏会場の中で、私の手を握るアレクシス殿下の存在だけが、揺るがぬ岩のように感じられた。
「ガルディアの第二王子……なぜ、ここに……」
誰かが震える声で呟く。
アレクシス殿下はその言葉に耳を貸さず、私を護るように前へと進み出る。
黒髪が揺れ、黄金の瞳が会場を射抜いた瞬間、ざわめきが一層大きくなった。
「セシリア嬢は我がガルディアにおいて保護する。愚王子の気まぐれに振り回される器ではない」
その言葉に、私の心臓が跳ねる。
なぜ――どうして、私を?
殿下と私に面識はほとんどないはずだ。
エドワード殿下が声を荒らげる。
「ふざけるな! 彼女はこの国の公爵令嬢だ! 勝手に連れ去っていいはずが――」
「ならばお前は、彼女をどう扱った?」
アレクシス殿下の冷ややかな声が会場を貫く。
「公開の場で辱め、平民の娘を引き立てるために捨てた。……その時点で、彼女はもうお前のものではない」
反論の余地はなかった。エドワード殿下の顔が苦渋に歪み、周囲の貴族たちも言葉を失っていた。
私は震える唇を噛む。
(本当に……私を庇ってくれている? なぜ、ここまで――)
アレクシス殿下は静かに私へ視線を向けた。
「セシリア嬢。ここに残れば、無益な嘲笑と屈辱が続くだけだ。だが――」
殿下は私の手をさらに強く握りしめ、はっきりと告げる。
「俺と共に来るなら、誰一人としてお前を侮辱させはしない」
胸の奥に熱が広がる。
不安も恐れもあった。だが同時に、初めて「守られている」という実感が湧き上がっていた。
「……私、は……」
言葉が震え、うまく続かない。
その時――。
背後から、甲高い声が響いた。
「待ってください! 殿下! セシリア様は……悪女です! エドワード様を騙し、国を混乱させるような人なのです!」
叫んだのは、平民娘――リリアだった。
その必死な顔に、会場が再びざわつく。
アレクシス殿下の瞳が冷たく光り、空気が凍りついた。
「……ほう。虚言で彼女を貶め、己の正当を飾ろうとするか。浅ましい」
その一言に、リリアは怯えたように口を閉ざす。
――舞踏会は、もう後戻りできぬ修羅場へと変わりつつあった。
この第2話では、
婚約破棄直後の混乱をさらに広げる
アレクシスが「なぜ庇うのか」の布石を打つ
ヒロイン(リリア)の“悪役令嬢ポジション化”を進める