表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

婚約破棄の夜

煌びやかなシャンデリアが光を散らし、貴族たちの笑い声と楽の音が舞踏会場に響いていた。

 その中央で、私――セシリア・アルバートは、人生最大の屈辱を受けることになる。


「セシリア・アルバート! お前との婚約は、ここで破棄する!」


 声高にそう宣言したのは、私の婚約者であり、この国の第一王子エドワード殿下だった。

 会場が一瞬にして静まり返る。

 私の背筋が凍りつく中、殿下は隣に立つ平民娘の手を取り、誇らしげに言い放った。


「真実の愛は、彼女――リリアにある! 貴族のしきたりや名誉に縛られる偽りの婚約など、不要だ!」


 ――何を、言っているの。

 耳が信じられず、心臓が締め付けられる。


 周囲の貴族たちはざわつき、抑えきれない笑いを漏らす者すらいた。

「公爵令嬢も終わりね」

「平民娘に負けるなんて」

 囁き声が容赦なく耳に突き刺さる。


 殿下はさらに続ける。

「これからはリリアこそが俺の隣に立つ女だ! セシリア、お前は用済みだ!」


 全身から血の気が引いていく。

 けれど、私が言葉を発するより先に、場の空気を切り裂くような声が響いた。


「――愚か者め」


 低く、鋭い声。

 誰もが振り返った先にいたのは、黒髪に金の瞳を宿す青年。隣国ガルディアの第二王子、アレクシス殿下だった。

 冷徹無比と恐れられる“最強の王子”が、悠然と歩み出る。


「愛だと? 己の立場も国の未来も顧みず、場を混乱させるのが愛か。……笑わせる」


 アレクシス殿下は真っ直ぐにこちらへと歩み寄り、私の手を取り上げる。

 温かな掌に包まれ、私は息を呑んだ。


「この令嬢は――俺がもらう」


 その一言に、会場が爆ぜたようにざわめいた。

 エドワード殿下の顔から血の気が引き、リリアと呼ばれた平民娘は目を剥いて固まっている。


「な、なにを勝手に――!」

「勝手? 笑止。己で宝石を投げ捨てておいて、拾った者に文句を言うか」


 アレクシス殿下の金の瞳が冷ややかに光る。

 その迫力に、殿下は口をつぐむしかなかった。


 ……屈辱の淵に沈むはずだった私の運命は、その一言で大きく変わったのだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ