ニッグ
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誰だ。
俺は木に背を預けたまま、その影を見つめた。
ぼろぼろのローブ。土気色の肌。錆びついた長剣。
ゾンビだ。間違いなく、ゾンビだ。
(でも……)
こちらを見ていない。
俺も、リーゼロッテも、見ていない。
その濁った眼は、ただ一点──ガルムだけを捉えていた。
ガルムも気づいた。
リーゼロッテを掴んだまま、静かに振り返る。
「……アンデッドか」
ガルムの声は穏やかだった。まるで天気の話でもするように。
「貴様も魔族の配下か? 見覚えはないが」
ニッグは答えなかった。
答えるかわりに──踏み込んだ。
一瞬だった。
さっきまでのぎしぎしとした動きが、消えた。
ぼろぼろのローブが翻り、錆びた長剣が唸りを上げた。
「──っ!?」
ガルムが初めて、後退した。
リーゼロッテを手放す。咄嗟に障壁を前面に集中させた。
しかしニッグの斬撃は止まらない。一撃、二撃、三撃。
連続して打ち込まれる剣が、障壁を殴り続ける。
音が変わった。
鈍い弾きの音が、少しずつ──きぃ、と軋む音に変わっていく。
(削れてる……!)
俺は体を起こした。足が震える。それでも立つ。
「リズ!」
「……わかってる」
リーゼロッテが鎧の軋みをものともせず立ち上がった。右腕のひびを左手で押さえながら、ガルムの横へと回り込む。
挟撃だ。
「はあっ!!」
リーゼロッテの左拳が障壁に叩き込まれる。ニッグの剣が正面から打ち続ける。
二方向からの圧力。ガルムが足を踏ん張る。
「……ッ!」
ガルムの表情が変わった。
初めて、焦りが滲んだ。
障壁の密度を上げようとする──しかしニッグの剣が、その間隙を突くように打ち込まれる。
リーゼロッテが怒号とともに拳を叩きつける。
ひび。
小さな、でも確かな、ひびが走った。
障壁の一点に、暗い亀裂が刻まれた。
(今だ──!)
俺は全力で跳んだ。
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【スキル発動:《ソウルタッチ》】
【MP:82 → 62】
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白いオーラが右手に集まる。
亀裂の一点に──全力で、叩き込んだ。
障壁が、割れた。
ガルムの体の奥に、確かな手応えがあった。
魂に触れる感覚。存在の核に、直接届く感覚。
「──ぐっ……!!」
ガルムが初めて、声を上げた。
黒い魔力が乱れる。障壁が霧散する。膝が折れる。
「これで──」
俺はもう一度、ソウルタッチを叩き込んだ。
───────────────────
【スキル発動:《ソウルタッチ》】
【MP:62 → 42】
───────────────────
ガルムの体が、静止した。
黒い霧のようなものが、全身から漏れ出す。
それはゆっくりと空気に溶けて──消えた。
沈黙。
ガルムは膝をついたまま、ゆっくりと頭を垂れた。
「……見事だ」
声は穏やかだった。怒りも、恨みも、なかった。
「魔王の下、この命を尽くした。それだけのことだ」
そのまま、静かに──崩れた。
黒い霧が空に散る。街道に、風が吹いた。
しばらく、誰も動かなかった。
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【戦闘終了】
【HP:28 → 28】
【MP:42 → 42】
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「……終わったか」
リーゼロッテが息を吐いた。鎧のひびに手を当てながら、ゆっくりと体重を落ち着かせる。
「うん」
俺はその場に座り込んだ。足に力が入らなかった。
(HP28……ギリギリだった)
正直に言えば、ニッグが来なければ終わっていた。
俺は視線を上げた。
ニッグが、まだそこに立っていた。
錆びた長剣を下ろしたまま、ぼんやりと空を見ている。戦闘前と変わらないように見える。しかし何かが──さっきまでと違う気がした。
さっきの動きを思い返す。
ぎしぎしとした日頃の動作が嘘のような、あの剣筋。
連続した打ち込み。障壁の亀裂を生んだ精密な斬撃。
ゾンビの動きじゃない。
あれは──剣士の動きだ。それも、相当な。
「……おい」
俺は声をかけた。
ニッグが振り返る。濁った眼が、こちらを見る。
「助かった。ありがとな」
ニッグはしばらく、俺を見ていた。
それから、ゆっくりと──長剣を鞘に収めた。
「ニ……」
「ああ、ニッグな。知ってる」
俺は苦笑した。
「でも……なんで助けてくれたんだ?」
ニッグはまた少し黙った。
それから、街道の先を指差した。
(……街道の先?)
村か、街か。人が住んでいる方向だった。
(人を守りたい、ってことか)
明確な言葉はない。でも、なんとなく伝わった。
「そうか」
俺は頷いた。
その時だった。
ぼとっ。
音がした。
ぼとっ、ぼとっ。
ニッグの両腕が、揃って地面に落ちた。
沈黙。
ニッグは自分の肩口を見下ろした。
腕がない。
次に地面を見た。
腕がある。
拾おうとした。
腕がないので、拾えなかった。
「…………」
俺は思わず固まった。
(まさか、コイツ……拾えないのか?)
ニッグはしばらく、地面の腕と自分の肩を交互に見ていた。
なんとかしようとしているのはわかる。でも、どうにもならない。
「……前に落ちた腕は、ちゃんとくっついてたんだけどな」
俺は呟いた。
リーゼロッテが近づいてきた。腕を組みながら、地面の腕と、ニッグを順番に見る。
「……全力で戦ったら腕が取れちゃうのか」
「そりゃまた難儀な……」
「うん、難儀だね」
リーゼロッテはため息をついて、しゃがんだ。
そして、ニッグの両腕をひょいひょいと拾い上げた。
ニッグがリーゼロッテを見た。
リーゼロッテはぶっきらぼうに、腕をニッグの肩口に押し当てた。
ぐちゅ、という音とともに、腕が戻った。右、左。
「……ありがとな、リズ」
「私じゃなくてこっちに言いなさい」
リーゼロッテに促されて、俺はニッグを見た。
ニッグは自分の両腕をぱたぱたと動かして、確認している。ちゃんとくっついているらしい。
「……良かったな、ニッグ」
「ニ……グ」
「そう、ニッグ」
俺は苦笑した。
「行くあてはあるのか?」
ニッグはしばらく黙って、街道の先を見た。
それから、こちらを見た。
(……一緒に来るか、ってことか)
明確な言葉はない。でも、なんとなく伝わった。
まあ、聞いてみるか。
「俺たちと来るか?」
ニッグは特に迷う様子もなく、俺たちの隣に並んだ。
「……なるほど」
リーゼロッテが呟いた。
こうして、仲間が一人増えた。
喋れないゾンビと、幽霊と、首なし騎士。
我ながら、とんでもない一行だった。
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【執念深きトオル】
Lv:20
HP:28 → 32(自然回復)
MP:42 → 46(自然回復)
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「さて」
俺は立ち上がった。足の震えが、少し落ち着いていた。
「次の霊廟に向かうか」
リーゼロッテが頷く。
ニッグが、特に反応もなく、ついてくる。
街道の先に、風が吹いた。
──つづく──
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