八話
人間達に見られている事に気づかないまま僕は、周囲の環境整備を続けた。生命の権能を使い続けた事により出来る事が増えた。食物も美味しくなった。ヒノキ、スギ、マツ、ケヤキ、ツバキなどを生み出していった。僕がよく知っている木などを生み出していきマツなどは僕の住居に使う。だが僕には建築スキルは無く現実でもやった事がない。手刀で木を伐りログハウスっぽい物を作る。
時間をかけてできた住居は、ひどく不格好だった。まぁ雨風が凌げればよしとしよう。住居を作った場所は、環境整備中に作った湖の中心の陸地で、湖の中には魚などの魚介類を生み出した。湖の周りには動物達を生み出して肉類を確保し、米類や野菜類そして果物類を生み出した。大体こんな物だろう。今日はこの辺りにしてログアウトしよう。
ログアウトしようとしているのだが大変な事に気がついた。ステータス画面には現実世界の時間が表示されているのだが、僕がこのゲームにログインしてから八日経っていた。もう正月休みは終わり皆働いている時だった。僕はそんなバカなと思いながらログアウトボタンを探す。えんしょうと闘った時に時間がかなり過ぎていたらしい。ログアウトを探すだがいっこうに見つからない。僕は更に焦りながら、
「ログアウト。」
と叫んでみたが変化無し。僕はこのゲームからログアウトし現実世界にいるであろう友人に、外部からの強制ログアウトをしてくれる事を祈るしかない。そう思うとだんだんと落ち着いてきた。僕は今のこの状況をバクか何か知る為に神様掲示板を開いた。
神様掲示板に書き込みをする事は無かったが、そこで僕は衝撃の事実を知った。なんと僕以外の人達もログアウト出来無いらしく皆焦っていた。しかも痛覚遮断が機能しておらず、現実世界に居るのと変わらない痛みを感じるらしい。僕はえんしょうと闘った時を思い出して、言葉に出来無い程に痛かった事を思い出した。そしてその痛みにも慣れた事も。
僕はどうしようか考える。友人もログアウト出来無い以上、僕を助けてくれる人は居ない。僕はこんな状況にも関わらず落ち着いていた。理由はログアウト出来無いのが僕だけじゃない事と、衣食住が確保できたからだろう。まぁ衣服は初期装備のままだけど。
僕はログアウト出来無い現実を受け入れ、ログアウト出来るまでこのゲームで生活する事に決めた。僕は案外驚く程にあっさりしていた。そうと決まれば僕は今まで一切使えていない権能である、天界と冥界を統べる権能について考える。だがそもそもこの大陸の何処に天界や冥界があるのだろうか。もしかして僕が自分で創る所から始めないといけないのか。そうだったら大変だぞ。僕は【暗野雲】によって上空に転移してみたが何も無かった。これは僕が創らないと駄目だわ。僕は次にする事として天界と冥界を生み出す事に決定した。
人間達は天朝別夜が考え事をしている隙に食物を食べる事にした。だが勝手に食べて良いのか分からないから、食べていい派と食べてはいけない派に分かれてしまった。
「しょくもつをめぐんでくだされた。」
「いやそのしょくもつはわれらにめぐんでくだされたものじゃない。」
「たべてはいけない。」
「だがもうしょくもつがのこっていない。」
「あめのあさことよるさまは、われらにすきにいきよとおっしゃっておられた。」
「だからといってかってにたべるのはいかがなものか。」
「わしはたべるぞ。」
そう言って人間の一人が食物を食べる。その人間は果物類を食べたがその余りの美味しさに涙を流した。
「こんなにうまいしょくもつをたべるのははじめてじゃ。」
人間の男がそう言ったのを境に他の人間達も食物を食べ始めた。だが天朝別夜をこの村に連れて来た女性は食べ無かった。
しばらくして天朝別夜が人間達に気がついた。此方を見られた人間達は一目散に逃げ出した。そんな中村に案内した女性だけはその場に残った。
僕は考え事に夢中で頭を使い過ぎた為に糖分を補給しようと果物類の方に目を向けた。すると人間達が果物類を食べていた。そして僕に見られた人間達は一目散に逃げ出した。僕はそれを見て何も逃げ出す事は無いと思った。好きに生きろといった以上僕が怒ったりする事は無いのに。そんな中僕は僕の方をじっと見つめる女性に気がついた。僕を案内した女性だ。女性は僕を見つめて動かない。何かあるのかと思って僕はその女性に近づいていった。