影のメインキャラ
一通りの聴き取りが終わり、令嬢や夫人達はせっかくの集まりの為に、別の商談や情報交換をしながら時間を潰していた。
「ふぅ~国境を預かる者が、お金を積めば何でも通していたとは………」
「寄り子で立場の弱い貴族には、自分の領地に荷物を通らせる代わりに小金を渡して黙らせていたのね」
「黒い噂は、ほぼ事実なんてシャレになりませんわね」
三者は三様に疲れていた。
余りにも酷い内容だった為だ。
「しかし用意周到で用心深い。証拠がないのが痛いですわ」
「これはもう、状況証拠と多くの貴族の証言で査問委員会を開いて召喚命令をだしたらどうかしら?」
エリスが提案した。
「しかし、物的証拠がないとシラを切られて、再度の召喚命令は出せなくなりますよ?」
冷静にセラが問題点を上げる。
う~ん?
どうすればいいのか………
コンコンッ
「はい!」
「失礼します。温かい紅茶と軽食をお持ちしました」
メイドさんがカートを引いて飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとう。ちょうど飲みたかったのよ」
各自の前にコップを置くと失礼しますと出ていこうとしたが───
「待ちなさい。貴女のお名前は?」
エリスが低い声で引き止めた。
!?
「…………秋桜と言います」
「そう。セラさんあのメイドに見覚えは?」
ここはラビット侯爵家の別宅である。その家主であるセラ・ラビットに聞いたのだ。
「すみません。私は見覚えがありませんが───あれ?」
視線がメイドからエリスとセラに向いた一瞬のスキにメイドは居なくなっていた。扉は閉まったままである。
ガタッ
エリスは身を守ろうと急に立ち上がるが、声が聞こえてきた。
『はぁ~私もまだまだです。エリス様も騎士として急成長しているようですね。その直感は大切にしてください。それと、テーブルに置いた書類………活用してくださいね。私はシオンお嬢様の親衛隊の1人。敵ではございませんわ』
声はそれっきり聞こえなくなった。
「シオン様の親衛隊?」
疑問は残るが、テーブルを見るといつの間にか【風車】(かざぐるま)が刺さっており、側には書類が置かれていた。
セラは置かれていた書類を手に取った。
「これはっ、バーネット・メイゲン伯爵令嬢が暗殺者に依頼した依頼書!?」
「いえ!それだけではありません!メイゲン伯爵自身が依頼した書類もありますわ!」
裏稼業の者は依頼書を身の安全の為に隠して保持しているという。
その依頼書には名前のサインと血で母印が押してあった。
「今は先ほどの者は置いておいて、この証拠を王城の宰相殿に!すぐに騎士団を派遣してくれるはずです!」
「は、はい!すぐに人をやります!」
セラは慌てて出ていった。
セラと一緒にルナーリアも心配で後を追うように出ていった。
1人部屋に残ったエリスは考えていた。
『確か皇帝からシオン様が帝国中の闇組織を潰して廻っていると聞きました。だから今回の件もその報復だと思っていましたが、やはり次期王妃様になられる方は、配下の者も普通では無いと言うことですか………』
恐らく潰して廻った闇組織から回収してきたのだろう。
エリスは自分が王妃になったらすぐに暗殺されるなぁ~としみじみと思った。
そして、王妃を辞退して良かったとも思った。
「いくら王妃候補を辞退したと言っても、高位貴族としての吟侍までは捨てていませんわ」
今、帝国の精鋭部隊は西部に向かっており、隊長格の人物は少ない。ならば自分も捕縛に同行し、せめてものシオン様の仇を手伝いたい。
(死んでないよ?天然さんめ)
エリスは決意して部屋を出ていくのだった。
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「ふぅ~危なかったぁ~~~」
シュタッと天井から降りてきたのは先程のメイドだった。
「さて、早くトンズラしますか。まさか気付かれるとはね。またメイド長から地獄の訓練かぁ~とほほ………」
秋桜
名前を頂いている春夏秋冬のメインメンバーの1人である。
しかし、与えられている任務は、シオンの警護ではなく諜報活動が主であった。
抜群のスタイルの女性であり、お色気担当に任命されたミスティのライバルである。
(いや、そんな担当差し上げますからっ!)
『でもこれだけの裏組織を潰してきたのに常闇の蜘蛛の情報がまったくないとはね。すでに帝国から総撤退したのかしら?私の親友を傷付けた落とし前は必ず付けてやるんだから逃さないわよ!』
情報を集める者として、次の目的地に音もなく向かうのだった。
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