怒りは伝播する!【続】
この世界では情報伝達が遅いので、すでにシオンが目覚めて1週間ほど経ってから、地方に意識不明の重体と言う連絡が行っていた。
シオンと繋がりの深い東部を筆頭に、南側のオリオン辺境領に近い国境でもその動きは現れていた。
「なに!?西部に【視察】に行かれたシオン王妃様が意識不明の重体だと!?誰だ!犯人は!?」
意外にも激怒していたのは南部の貴族達だった。
南部はいつも国の命令で南のオリオン辺境伯に戦を仕掛ける事を命じられ、今までも多くの兵士が死んでいた。
しかし、いつも国の命令で仕方なく行動していたに過ぎない。オリオン辺境領を奪い取れればラッキー程度で、時の皇帝は国内のガス抜きの為に戦を仕掛ける事が多かった。
しかし、命を掛ける者に取っては、たまったものではない。
無論、戦争で死んだ遺族としては、なんとも言えないわだかまりはあるだろうが、侵略者は帝国の方なのだ。
オリオン辺境伯は自身の領地と国を守る為に応戦するだけであって、恨むのはお門違いなのである。
そして近年、シオンの母マリアは野戦病院で、敵味方関係なく傷の手当をする事から敵兵からも人気の高い御方であった。
【聖母マリア】
これは実際に手当を受けた者しか感じる事の出来ない感謝の気持ちだった。
さらに、外科手術の世界的権威でもあり、他国からも難病の手術をお願いしにオリオン家を訪ねてくる者も増えてきた。
近年ではマリアは医者専用の学校も整備して数年前から生徒を募集している。
そんな尊敬されている女性の娘であるシオンが襲われて意識不明だという。実際は魔法の急激な使い過ぎの為なのだがと一般的に意識不明といえば重体と連想する。
命の恩人である女性の娘を狙った犯人を許せる訳がないのだ!
「すぐに国境を閉鎖せよ!犯人を国内から逃がすなよ!そしてすぐに精鋭を集めるのだ!西部へ出撃する!草の根を別けても犯人を見つけ出せ!………いや、一緒に見付け出すぞ!ワシも出る!!!」
「「おうっ!!!」」
南部のまとめ役の貴族はすぐに準備に掛かると、自身自らも先頭に立って出撃した。
南部の貴族も余り多くの兵を向かわせると、誤解を生むと判断し、100人ほどの兵を連れて向かった。東部より多かったのはマリアに命を救われた者が多く、志願者が多く出た為だった。
一応、帝都には使者を送り、シオン王妃様の襲撃者を捜索する為に向かうと連絡は入れた。
「まずは西部の工業都市に向かう!そこでシオン様の詳しい容態の確認と襲撃者の情報を元に探索を行う!」
「了解しました!」
配下の者が尋ねた。
「この事はオリオン家に伝えた方が良いのでしょうか?」
「すでに帝都の騎士団の小隊が国境に向かったと連絡があった。恐らく今回の事件の事は皇帝陛下から報告されるだろう。我々がすべき事はシオン様を襲った犯人を捕まえて、ご家族を少しでも安心させることである!」
なるほど!
他に意見がなかった為に、そのまま馬に乗り西部へと向かった。向かった一団は殺気立っており、街の人々は何事かと見送った。
そして、奇しくも帝都の王城からも近衛騎士団が出発していた。
これで、東部、南部、中央の勢力が西部へ向かう事になった。そして、西部には元、元帥であるルドルフ・ファーレンがいた。
西部は、工業都市ドラムはファーレン侯爵家が治める領地だった。
故に、ルドルフ卿も齢70歳になる紳士的な老人であり、既に家督も息子から孫に移っている。
しかし軍部ではまだまだ絶大な影響力を持っている。すでに西部の兵力を使い、近隣の捜索を開始していた。
「これはシオン令嬢を中心に、帝国の【意思】が派閥や貴族や平民と言った垣根を越えてまとまろうとしている…………」
夜の月を見上げながらルドルフ・ファーレン卿は誰とも無く呟くのだった。
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