後悔して
あれからシオン達は手痛いダメージを受けて西部の工業都市ドラムに入った。
入口で帝国騎士に誘導され街で一番の宿に向かった。
────のは囮で、少数で街の外周にある建物に運び込まれた。
「本当にありがとうございました!」
ハルはルドルフに頭を下げた。
「いや、無事で何よりじゃ。しかし迂闊じゃったな。お主らが手練れだと知っておるが、時期が悪かった。帝国の闇組織を攻撃している時期に、そのトップが少しの間でも少数の護衛で移動とは頂けなかったのぅ」
「言い返す言葉もありません。シオンお嬢様は自分を囮にするつもりで情報を漏らしていたようでした」
ルドルフは頭を振ってやれやれと言った。
「それだけ仲間を信用していたということかのぅ?」
「もしそうならシオンお嬢様の信用を裏切ったことになります。私も先日、シオンお嬢様のお母様であるマリア様を守れず怪我を負わせてしまった為に護衛の任をしばらく解かれていました。もし私がいればこんな事にはならなかったかも知れないのに!」
傷つき包帯で全身を巻かれて寝ている仲間を見てハルは唇をキツく噛んだ。
「これこれ、力を抜きなさい。タラレバの話をしても仕方がないじゃろう?それに今回はお主がいなくて良かったと思うぞぃ?」
!?
「どうしてですか!私がいれば死んでもみんなを守って───」
そこまで言ってハルも気づいた。
「気づいたようじゃな。シオンお嬢ちゃんは誰も死んで欲しくないのじゃ。だから全ての護衛達が、倒れた仲間の盾となり、自身も傷だらけになりながらも必死に生き残る道を探しておったんじゃよ」
だから私は護衛を外されたの?
ハルは自分の事を見つめ直すことになった。
「しかし1番怪我の酷いゼータ殿はタフじゃな。流石は先代と共に戦争を駆け回った赤き死神じゃ」
「やめてくれよ爺さん。その呼び名恥ずかしいんだぜ?」
目を覚ましていたゼータは呟くように言った。
「たくっ、年は取りたくねぇな。あんな若僧に遅れを取るなんてな」
「本当ですよ!年長者である貴方がなんて様ですか!」
ハルは涙を浮かべながら毒ついた。
「すまねぇ。敵さんが毒針を使ってきてな。マリア様特製の毒消しの薬を飲んだが、身体が思う様に動かなくなってな。本当にやばい毒だったようだ。最初に喰らって飲むのが遅れたエリザは大丈夫だったか?」
「ま、まだ目を覚ましていないわ。でも呼吸は落ち着いているからすぐに目を覚ますと思うわ」
ゼータはそうか、と安心してまた眠りについた。
「敵は常闇の蜘蛛。流石にこの工業都市には戻ってきてないわよね?」
「入口の門番に確認したが、怪我をして街に入った者はいなかったそうじゃ。敵も5人以上は怪我をして撤退したのじゃろう?1人ならわかるが、それだけの者が通れば流石にわかるのじゃ。それに門番の数もここ最近は増やしておるしのぅ?」
シオンの命令で、帝国の暗殺組織やヤクザと言った裏組織は皇帝の名の下に摘発されているのだ。
表向きは。
裏ではシオンの春夏秋冬が潰しに廻っている状況である。
「まだまだ強くならないと」
ハルは新たな決意を胸に誓った。
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「う~~ん?」
シオンが目を覚ました。
「ここは………?」
シオンの呟きに側にいた人物が答えた。
「ここは工業都市ドラム。その中にあるルドルフ卿の隠れ家だよ」
「えっ、ゼノン皇帝陛下???」
目の前に居るはずのない人物がいて困惑するシオンだった。
「どうしてここに?」
まだ頭がふらつくシオンをそのまま寝かせてゼノンは少し怒った様子で話した。
「それはシオンが襲われたと聞いたからだ。シオン、出発前に無理しない様に気を付けると約束したよな?」
「えっ?うん………」
「自分を囮にして敵を釣ろうとしたそうじゃないか?弁明はあるかな?」
ギクっとシオンは冷や汗を流しながら、ごめんさないと小さく言った。
「はぁ、護衛達は全員無事だ。今は安心してゆっくり休め。これは命令だ」
「わかりました………」
急激に多くの魔力を使ったシオンは精神力の疲れから、そのまますぐに眠りにつくのだった。
シオンが目覚めるまでに丸2日経っており、次に目覚めるのに丸1日掛かった。
その間、仲間達は生きた心地がしなかったという。
「よくもやってくれたな………許さんぞ!」
皇帝の逆鱗に触れていたからだった。
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