旅立ち前の話し合い
シオンはゼノン皇帝と食事をしていた。
「皇帝陛下、陛下との食事は月に一度ではありませんでしたか?」
すでに1週間に1~2回のペースで共に食事をしていた。
「おや?シオン令嬢はオレとの食事は嫌なのかい?」
「いえいえ、毎回有意義な食事会ですよ。ただ、そろそろ遠出をしようと思いましてね。そのご報告に」
ゼノン皇帝との食事会には毎回、お互いの情報交換をしていたのだ。
「そうか。帝国貴族の紹介も落ち着いたか」
「はい。それと、これから帝国の膿を出すので、しばらくはまた煩くなるかも知れませんので、御了承下さいませ」
ゼノン皇帝はジッとシオンを見つめて言った。
「………今度は西部へ向かうのか?」
「はい。皇帝陛下が事前に調べて頂いた情報もありますので、助かりますわ」
西部では主に工業都市があり、帝国経済を支えている重要な場所だ。職人も多く集まるため、【息抜き】の為の娼館も多く存在する。
「余りシオン令嬢を『いかがわしい』場所に行かせたくは無いのだがな」
「あら?意外なお言葉ですわね?」
「無論、そういう場所が必要なのはわかる。行き場のない女性達の最後の拠り所でもあるしな。ただ、将来、妻となる女性に行って欲しくないと言う意味だよ」
ボンッと真っ赤になるシオンに、ゼノンは苦笑いをした。
「わ、わわ私は利用しませんからっ!」
「ゴホッ!!!?ち、違う!そういう意味で言ったんじゃない!利用しなくても、そういう場所には行って欲しくないって意味だっ!?」
二人して真っ赤になる様子は実に微笑ましい光景であった。
側にいた執事とメイドは笑いを堪えるのに必死であり、空気になる努力をしていた。
「コホンッ、そ、それでいつ旅立予定なんだ?」
話を逸らそうと話題を変えた。
「そうですね。二、三日後を予定しています。すでに配下の者が先行して、現地調査しております」
「そうか。気を付けて行って来て欲しい。それと、こちらの報告も忘れないでな。返して貰った皇帝代理のメダルと任命書も後日届けるから」
「はい。ありがとうございます」
二人の間にはすでに強い信頼関係が生まれていた。
「あ、それとまた何か新しい商品を作るのか?」
「え、どうしてでしょうか?」
皇帝が視線を横にやると執事が書類をテーブルに置いた。
「また大規模な工場の建設をしようと土地の相談に来ていただろう?」
「ああ、候補として皇帝陛下に探して頂いていましたね」
色々と忙しくてアメリアに丸投げして忘れていた。
「鉛筆やシャープペンシルの工場は帝都の近郊に建設して、スラムなどの貧困者の雇用に繋がり、治安も向上した。感謝している」
ゼノンはシオンに頭を下げた。
「いえいえ、帝国の為になれば何よりですわ」
「それで、宰相と相談したのだが、そろそろ方向性を決めた方が良いのでは?と言う話になったんだ」
方向性???
「これから各領地の田畑の面積と収穫量を調べると同時に、新たな土芋や赤芋といった穀物の栽培をするじゃないか?東部は農業改革を中心に、帝都では鉛筆やシャープペンシルといった、新しい日用品の産地に。では、西部、北部、南部にも、各色の生産地として住み分けしておけば、より効果的では?と言う話になったんだ」
なるほど。
それは確かにそうだわ。
シオンは少し考えてから話した。
「では、南部では化粧品の工場を作りましょう。この土地で作ろうとしていたのは化粧水と化粧品の工場だったので」
「理由を聞いても?」
「はい。母国の王国でも化粧水や化粧品は作られます。ただ作るだけではなく、日々研究部署も作り、より良い化粧品の開発を目指しています。南部に工場があれば、王国との比較がしやすくなるのと、王国と帝国の恨みを逸らせるのではないかと考えました」
「長年の恨みを?どうしてだ?」
「より良い化粧品を開発すれば貴族の女性が味方になりますから。戦争は男の務めです。家を守る令嬢や夫人が味方になって擁護してくれれば、風当たりも弱くなるでしょう。【効果のある】化粧品が買えなくなると思えばね?」
この時のシオンの姿を、ゼノンは角と蝙蝠の翼の生えた子悪魔に見えたと言う。
この世界では化粧品と言うのは肌の上に塗るおしろいの様なもので、ニキビを治したり、肌に潤いをもたらせるような物は無かったのだ。シオンの化粧水には種類があり、スキンケアの効果のあるものが多く存在していた。
異世界なのか、効果が前世の地球の物より高かったのは嬉しい誤算であった。
それは薬の効果より、そこに住む人々の自身の身体の治癒力が高かったのである。
「後は、せっかく西部では工業が盛んなので、それ系統の商品の工場を建てれば問題ないかと。ただ、北部だけはすぐには思い付きませんね。それは少し考えてみますが」
「そうか。やっぱりシオンとの会話はためになる。ありがとう。宰相と相談してみるよ」
「いえ、各地域に得意な生産地を分けるのは良い案だと思います」
こうして帝都の経済は好景気を迎えつつあった。
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