和解
お父様の言葉にゼノンは何度も頷いた。
「歴代の皇帝の愚行について、自分も含めて御詫び致します。もう二度と帝国はオリオン辺境領に攻め込む事はないと、誓います!後に正式な公文書を用意し、署名して持って来ます」
「ええ、戦なんてしないに越したことはないわね。これから貿易国として国交の要としてより良い関係を築けたら嬉しいわ。二人の門出に祝福があらん事を」
流石はお母様。すでにこの後の事も考えているのね。ここでシオンは、ふと思い出した。
「あ、あの~~そう言えば、イリシア王国でクーデターが起こり、王族達は幽閉され、お父様達が新しい国王になる様なお話を聞いたのですが、どこまで本当なのですか?」
!?
ゼノンも思い出した様で目を開いた。
「あら?全て本当よ?あのクズゴミ王家の者達をブタ箱にぶち込んで、次の国王に成らないか【打診】されている所まではね」
本当だったーーーーーー!!!!!
「まて、シオン。マリア殿、打診という事は返事はまだしていないと言うことですか?」
「うふふっ、そうね。【まだ】していないわね。何か問題でも?」
マリアは何を言っているの?と知らない様子を装っている。
「そ、それは返事をした場合、シオンはイリシア王国の姫になると言うことでしょうか?」
「あら?今でもシオンはイリシア王国の姫君ですわ。間違えないように」
マリア殿は王の妹であった。つまり今でもシオンは『お姫様』なのだ。
「おっと、これは失礼しました。もしオリオン家が返事をしたら、後にシオンが【女王】になるのかと、聞きたかったのです」
お母様はお父様に視線を送ると頷いた。
「そうね。この話を受けると、年齢的にシオンがイリシア王国のトップになるのは確定ね。おめでとう。一国の女王よ♪」
どこがおめでとうだ!
そうなれば、シオンと結婚が出来なくなるだろうがっ!?
「お母様!そうなればゼノンと結婚が出来なくなります!」
「でも、国のトップになれば、貴女がやりたかった政策が思うままに出来るようになるのよ?自国を富ませるのと、他国を富ませるの、どちらが大事かしら?」
お母様、さっきまでゼノンとの結婚を認めてくれてたのに!?
そんな時、ゼノンがそっとシオンの手を握った。
「シオン、落ち着け。母君の言葉の意味をしっかりと考えるんだ」
なにそれ?
ゼノンはお母様の言葉の意味を理解しているの?
シオンは深呼吸をしてから脳をフル回転させた。
『あ、もしかして──』
「お母様、私はイリシア王国の女王にはなりません。私は帝国の王妃として、両国の架け橋になると決めたのです」
「好きな男の為に自国を捨てるのかしら?」
「いいえ、私がイリシア王国の女王になるよりも、帝国に嫁いだ方が、メリットがあるからです。それに、すでに帝国でも友人と呼べる者も出来ました。他国の私を慕ってくれる妹の様な人物も出来ました。もう私は帝国の人間でもあるのです。きっと帝国でも協力して、『両国を富ませる』事ができると確信しています」
シオンの言葉にマリアはホッと深い息を吐いた。
「良かった。恋に目が眩んで盲目にはなってはいないようね。古来より、どんな名君でも、女や男で堕落して国を滅ぼした例は多いわ。シオンも、愛する者が出来たからと言って、全てをその人の為に尽くすことが正しいとは思わないようにね」
「はい。心に刻んで置きます!」
良かったとマリアは微笑んだ。
「まぁ、その打診はすでに断ったのだがな」
お父様がそう言うと執事から大きな紙を渡され、テーブルに広げた。
「お父様、これは?」
「昔、シオンが話していた新しい国の制度だ。かなり前から、宰相を始めとした大臣達と話し合っていたのだ」
それは、議会政治の素案だった。
「これは………まさか、国会議員の貴族の中から【王】を決めて、数年の任期の後にまた王を選出するだと?こんな制度など、国など聞いたことがないぞ!?」
皇帝の血族のゼノンからしたら、考えられない制度だった。
「そうだな。まず王国で有力な力を持つ貴族を25家選び、議会制度を作る。そこから【王】いう、議長を選び国のトップとする。任期は5年。これも問題があれば変えていく予定だ」
「長い間、同じ家門がトップに君臨すると腐敗していく。だから議会制度を作り、定期的にトップが変われば腐敗は起きにくいのではないか?という内容だな」
「この議会議員に選ばれた家門も定期的に投票をして入れ替えしていく予定よ」
ふむ、シオンは手を口に当てて考えながら尋ねた。
「うちは───、オリオン辺境伯家はどの立ち位置にするのですか?」
「うちは帝国に王妃を輩出した家門になる。うちが議員になり、トップになったら帝国の思惑を反映させる王になる可能性がある。あくまで周囲の人間の考えとしてな。故に、我がオリオン家はイリシア王国から独立して、王国と帝国の中間にある【独立都市】として交易の場所にしようと思っている。さらには、議会制度で、不正をしないか外部からの抑止力として、今まで通り、【王国の影】として王国を見張っていく予定だ」
すごい。
もうここまで考えていたなんて。
シオンとゼノンは国が大きく変わる激動の渦の中にいると実感したのだった。
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