8.旅立ち
「昨日は弟たちがお騒がせしたようで、申し訳ありません巫女様」
ヴァイオラさんが泣き出しそうなほど申し訳なさそうな顔をしながら訴えてきた。
「ヴァイオラ姉大丈夫?今日はもうカナロア帝国に帰るんでしょう?」
ロザリンドさんがヴァイオラさんを支えるようにして立っている。
「巫女様もそんなに怒ってないですよね?」
「は、はい」
「……それならよいのですが……。ではロザリンド、皆をよろしくね」
「はい、ヴァイオラ姉」
昨日の勉強会の後の騒ぎは城中に広がっていたらしい。あんなふうにディーズさんにからかわれると少し意識してしまう。一方のフォーリアさんは不敬だ!とディーズさんへの怒りでいっぱいのようだった。
フォーリアさんは怒ると俺って言うんだ……。私には決して見せない面を見られるご兄弟が少し羨ましくなった。
さて、そんな騒動はさておき、私も出立の日を迎えていた。
グラス地方に、雨を降らしに行く。
これが今回の私の使命。なんとしてもやり遂げないと……。
わたしは部屋に戻って昼食を摂っていた。改めてフォーリアさんの言葉を思い出す。
「グラス地方へは馬車で向かいます。私とケイティーが馬車に同乗致します。他に王国の近衛騎士団が同行いたします。グラス地方へ入ってからはシルヴァーホーク伯爵家に滞在することになります」
「はい」
「シルヴァーホーク邸に到着したあと、そこでいつでも構いません、アマネ様のお好きな時でよろしいので雨を降らせて頂きたいのです」
「わ、わかりました」
「では昼食後に出立となりますので、またお迎えに上がります」
昼食を終えて、旅立ちに向けて荷造りしながら、そう言っていたフォーリアさんが迎えに来るのを待っているが、き、緊張する。
まず私はこの王城から出たことがないのだ。知らない外の世界で、しかも知らない人の家で、必ず雨を降らせる。重大任務すぎる……!
ノックの音がした。
「はい!」
「アマネ様、フォーリアです。ご出立の準備はよろしいでしょうか?」
ケイティーさんと共に荷物をまとめ終えた私は急いで扉を開けた。
「お待たせしました。行けます!」
「では、馬車までご案内します」
案内された場所には馬車が停められていた。馬、可愛いな……よろしくね。
近衛騎士団の方々がこちらに敬礼をして下さったので私もお辞儀で返した。
馬車に乗り込もうとするとフォーリアさんが手を取ってエスコートしてくれた。
すごい、座席がふかふかだ。伯爵邸に着くのは夜になると聞いていたけど、これなら長旅も辛くなさそうだ。
「では、出発いたします」
「はい!」
ケイティーさんが御者の人に合図を出していた。ぱかぱかと蹄の音が響き、馬車が揺れ始める。
合わせて騎士団の人たちも馬を進めて、行列になって進む。
馬車と行列はしばらくシーザリオ城下の町を進むらしい。
なんだかざわざわと騒がしい?フォーリアさんが窓のカーテンの隙間から外の様子を伺った。
「城下の民たちがアマネ様をひと目でも拝見しようと列を成しています」
「えっ!そうなんですか……」
「巫女様〜!!」「お恵みをありがとうございます!!」「どうかひと目ご尊顔を!!」
よくよく聞くとざわざわはそんな言葉の集まりだった。
「いかが致しましょう、黙らせますか?」
「そんな、わざわざ集まってくれたのに……」
どうしよう……。何もしないで通り過ぎるのはあまりにも申し訳ない。……そうだ!
「ケイティーさん、カーテンと窓を開けてくれますか?」
「……わかりました、殿下もよろしいですね?」
フォーリアさんはは渋い顔をしていたけれど、許してくれた。
「致し方ありません、アマネ様、どうぞお気をつけて」
私は思いきって窓から身を乗り出してみる
「巫女様だ!」「巫女様がお顔をお見せに!!」
にわかに盛り上がる民の皆さん。これが私が助けるべき人たち……。
みんな手を振って、笑顔で……。私も手を振り返すと、更に歓声が上がった。なんだか私がすこしでも役に立てている気がして、嬉しくなってくる。そうしてわたしは窓から民衆に手を振り続けた。
……でもなんかこれって、選挙の時によく見るやつみたいじゃない!?なんだか急に恥ずかしくなって来たけれど、城下町を抜けて人混みが途切れるまで、わたしはそうしていた。
窓から馬車の中に引っ込む。
「は、恥ずかしかったです……」
「いいえ、巫女として立派な振る舞いでしたよ」
ケイティーさんが励ましてくれる。
「アマネ様、民達はみなアマネ様を慕ってはおりますが、何かよからぬことを企む輩が居ないとも限りません、大勢の前に出る時は必ず私を伴ってください」
フォーリアさんに釘を刺された。そんなこと考えたこともなかった。もう私ただの女子高生じゃないんだ、自覚を持たないと。
そうしてグラス地方への旅は幕を開けたのだった。
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