6.ロイヤルファミリーと晩餐会
晩餐会に出ることを話すと、ケイティーさんはそのために相応しいドレスやアクセサリーの類いを準備してくれた。
いつもの白いドレスではなく水色のドレスに、おおきな宝石の着いたネックレスやイヤリング。髪の毛はいつものハーフアップと違って結い上げた形に。またこんな贅沢、いいのかな……。でも晩餐会には国王様もおいでになるそうだし、相応しい格好ってものがある、のかな?
ケイティーさんは私にドレスを着付けながら褒めてくれた。
「アマネ様は着飾り甲斐があって嬉しく思います」
「馬子にも衣装ってやつですかね……えへへ……」
でも鏡に映る自分はどこかのお姫様みたいで、テンションが上がった。
コンコンとノックの音。
「失礼致します、アマネ様をお迎えに上がりました」
「はい、今行きます!」
「行ってらっしゃいませ」
ケイティーさんに送り出されてフォーリアさんに出迎えられる。
フォーリアさんも晩餐会向けにフォーマルな出で立ちで、前髪をあげて撫で付けてある。精悍な顔立ちが良く見えて、カッコイイ……。
「では、大食堂までエスコート致します」
そういって伸ばされたフォーリアさんの手を取った。
こっちはカッコよくなったフォーリアさんにドキドキしてるのに、フォーリアさんはいつもの卒ない素振りで少し残念……って、何考えてるんだろう私!
「こちらです、他のものはみな揃っております」
「お!巫女様こんばんは!」
「こら!巫女様に向かって何て態度を!巫女様、弟が申し訳ありません」
挨拶してくれたのは日焼けした肌が元気さを印象づけるディーズさん。それを叱るヴァイオラさんは色白で、ウェーブした黒髪が美しい。
「いえ、どうぞ気楽にしてください!」
「では巫女様、今宵はぜひ色々お聞かせくださいな!異世界からいらしたのでしょう?私気になります!」
興味津々なのがザ・お姫さまといった濃い茶髪のツイン縦ロールが印象的なロザリンドさん。
「それは僕もです、巫女様。向こうではどのような暮らしを?」
乗ってくるのがサートゥルさん。まるで、フォーリアさんを一回り小さくしたみたい。
「えっと、えっと。私は……巫女様に……」
もじもじしているのがシーリアさん。明るい茶髪に白い肌が赤く染まって緊張した様子が窺える。
良かった、何とか全員覚えている。
「お前たち、一度にそう聞くものでは無い。それに晩餐の席だ、まずは食事にしようでは無いか」
国王のクリスエス様もいらっしゃる。家族だけの席だからか、普段より目付きが優しく思える。
そういえば王妃様の姿を見たことがないような……。
フォーリアさんに促されて席に着くと、それを見とめたクリスエス様が晩餐会の開始を宣言した。
食卓にはご馳走が並んでいるが、私が最初に食べたものよりはいくらか質素なものだった。フォーリアさんが配慮してくれたのだろうか。
「ヴァイオラ、帝国での生活はどうか」
「お父様、何不自由なくして頂いています。最近もますます海軍は海賊の取り締まりに力を入れておりますので、交易路も万全と言ったところでしょう」
ヴァイオラさんは隣国に嫁いだって言ってたっけ、帝国……ますます異世界感が出てきたなあ。
「お父様?私の結婚話はいかがですの?私はリョテー王国のオルフェ王子様以外は嫌でございます!」
「ロザリンド姉のアレがまた始まったよ」
ディーズさんに揶揄されたロザリンドさんが小言でやり返しているようだった
なんだかんだ仲がいいんだろうな……
「まあ待てロザリンド、リョテー王国は周囲の国とも孤立気味であるからして、慎重にな。国交は持ちたいと考えてはいるのだ、前向きに待て」
「まあ嬉しい!お父様ありがとうございます!」
クリスエス様は今度はディーズさんに矛先を向けたようだった。
「ディーズ、お前は士官学校ではどうなのだ」
「ちゃんとやってますよ!兄貴が主席で卒業したとあってはやりづらいことこの上ないですけどね!」
「兄上が王族としてきちんとしてくれないと僕が入学するときに変な噂が立ちそうだからしっかりしてくれる?」
「なんだよサートゥル〜お前可愛くなくなったなあ〜!」
ディーズさんは士官学校にいて、サートゥルさんもいづれ入学するらしい。王子様はみんなそうなのだろうか。フォーリアさんは主席で卒業したなんて、すごい……。
「あの、巫女様……えっと巫女様はここではない世界からおいでになったのですか?」
もじもじしていたシーリアさんが勇気を出したといったふうに私に話しかけてきた。
「はい、日本という国の東京という所から来ました」
「にほん……とうきょう……すごい!聞いたこともない所です!」
びっくりしたように目をキラキラさせるシーリアさんは幼さをまだ残していてとても可愛らしい……妹にしたい……。
「そこで母と暮らしていたんですけれど、トラックに轢かれて……あ、分からないですよね……あはは」
気づけば食卓はなんだか沈痛な雰囲気が支配していた。
「……御家族と離れるのはお辛いでしょう、わたくしも嫁ぐときそうでした。」
沈黙を破ったのはヴァイオラさんだった。
「それにお母様はもう居ないですし、私達寂しい仲間ですよ!巫女様!」
ロザリンドさんがつけ加える。
ヴァイオラさんが近くに寄って手を取ってくれた
「……恐れ多くも……どうかここでは私達兄弟を家族と思ってお過ごしください。」
ロザリンドさんやディーズさん、サートゥルさんの顔を見回すとそこにもヴァイオラさんと同じように歓迎の心がみて取れた。
「ヴァイオラさん、皆さん……ありがとうございます」
わたしはひとりじゃない。そう心から思えた時間だった。
王子王女は同腹の兄妹で、既に王妃は亡くなっています。
明日も12時頃に投稿いたします。
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