4.フォーリアさん(に/の)お願い
最高の目覚めだった。ベッドも枕もふわふわでとてもよく眠れた。
朝日がカーテンから漏れ出て部屋を照らしている。昨日降らせた雨はどうやら上がったようだった。
さて、今日はフォーリアさんにお願いすることが色々ある。衣食住、私の分は最低限でいいから苦しんでいる民に分け与えて欲しいこと。もっとフランクに接して欲しいこと。……うーんなかなか難しそう。国王のクリスエス様に負けず劣らずの目付きを持つ彼の精悍な顔つきを思い出した。
「巫女様、おはようございます」
ノックとともにケイティーさんの声がする。
「はい、おはようございます!」
「巫女様におかれましては、ご機嫌麗しゅうようで何よりでございます」
「あっケイティーさんも。あの、私なんかただの小娘ですから、そんなに畏まらないでください。気軽に天音と呼んでください」
「ですが……」
「では、命令ですと言えばどうですか?」
「……では、アマネ様、でご勘弁ください。貴方様はわたくしたちにとっては神にも等しい存在なのですよ」
「そういうものですか……」
でも名前を呼んでもらえるだけ嬉しい。どこへ行ってもやれ巫女様女神様では気が詰まってしまう。
「でも、そうですね……アマネ様は異世界から召喚されたのだとか」
「はい、向こうの世界では普通の女子高生やってて、って言っても分からないかもしれないですけれど、本当に普通の暮らしをしていたんです。だからこんな待遇慣れなくて……」
「では心細くておいででしょう。わたくしでよろしければ、母のようにも祖母のようにも思ってくださいませ」
「ケイティーさん……ありがとうございます!」
ケイティーさんの心遣いが何より嬉しかった。
朝ごはんは相変らす豪華で食べきれないくらいだったので、フォーリアさんにも納得してもらわないと。
朝ご飯を終えて、ケイティーさんに身支度を整えてもらった(さすがにドレスを一人では着られなかった……)
そうこうしていると、フォーリアさんが訪ねてきた。
「おはようございますアマネ様。ご機嫌いかがでしょうか」
「おはようございますフォーリアさん、今日はお願いがあって」
「なんでしょうか、私に出来る限りでしたら何でも致します」
「えっと、食事なんですが」
「お口に合いませんでしたか?」
「いやすっごく美味しかったです!……じゃなくて!この国は干ばつで国民の皆さんも苦労してるって聞きました。そんな中で私だけ豪華な食事なんて食べられないです」
「……巫女様、なんと素晴らしいお心でしょうか」
フォーリアさんは感動したように目を見開いてこちらを見ていた
「あ、あの。また呼び方戻ってます……」
「アマネ様が仰るなら、そのように致します」
「わかってくれたなら良かったです、それにもう少し気楽に接してください、ね?」
「いえ、このフォーリア、アマネ様の御心使いに感服致しました。ますますアマネ様の神々しさは増すばかりです」
「ええっ!そうですか……それはいい事なんでしょうけれど……」
私は少しの寂しさを抱いてしまった。
「今日はアマネ様にお願いがあって参りました」
「はい、何でしょう」
「昨日の雨でこの王城、シーザリオ城下の町は恵みを受け取り、潤いました。しかし我がエピファネイア王国の国土は広大です」
「つまり、もっと別の地域にも雨を降らせに行かなければいけない。ということですか?」
「その通りです。」
やっぱりそうだよね……たった一度偶然を起こせたくらいじゃダメなんだ。
「この度同行していただきたいのは、グラス地方という所です。このエピファネイアの穀物庫とも呼ばれる農業地帯なのですが……」
「干ばつで作物が不作…ということですね」
「そうです。さすが巫女様理解がお早い。」
「いえ、それほどでも……それで今日行くんですか……?」
こわごわと聞いてみる。さすがに昨日の今日で出かけるのは気が引ける。ちょっとは家でのんびりしていたい……そんな気分だったのだ。
「いいえ、連続でお恵みを齎されるのもお疲れでしょうし、三日後あたりを予定しております。」
「そうですね、それなら何とか……。干ばつで苦しんでいる人がいるんですもんね。早く助けてあげないと……」
ふと自分の口ぶりに傲慢さを覚えた。あやふやな力しか持たない私がこんな偉そうな口、聞けたもんじゃない…。
いきなり黙った私の顔を、フォーリアさんの精悍な顔に付いた少し釣り目がちな瞳が心配そうに覗き込んだ。
「アマネ様?」
「ごめんなさい、少し傲慢な物言いだったかと思って」
フォーリアさんは唐突に私の両の手を取って跪き、俯く私の目を見て言った。
「ちっとも傲慢などではありません。昨日はそのお力で見事雨のお恵みを下さいました。それに食事のことも……大臣たちは王城で出される豪華な食事に疑問など抱いたこともありません。いきなり異世界からやってきてくださった貴女が、このエピファネイアの民を思ってくださること、こんなに嬉しく有難いことはありません。ですからアマネ様、あなた様はそのままで良いのですよ」
「あ、ありがとうございます……」
今までもフォーリアさんに跪かれたことはあったがこんなにまっすぐ見つめられることはなかったので、なんだか頬が熱くなってきてしまった。これはいけないやつだ。やんわり両手を振りほどいた。
「今日はどうされますか、よろしければ城の案内でもと思ったのですが……」
そうだ、これから暮らしていく場所なんだからどうなっているのかは知っておいたほうがいい。
「じ、じゃあ案内お願いします」
「かしこまりました、アマネ様」
フォーリアさんは何ともないような顔をしていたので、少し悔しくなった。
明日からは毎日12時頃1話ずつの投稿になります。よろしくお願いします!