42.第一王子はダムに名付けたい
着工から数年、ついにダムが完成したとの報せを王城シーザリオの第一王子フォーリアは受け取った。
ダムが完成したからにはあとは人工湖に水を満たして、川への放水がしっかり出来るかを確かめなければならない。それが出来ればダムの本当の完成だ。
本当ならその工程も人力で行いたいのだが、こればかりはアマネさんの女神の力を借りないと難しい。
早速アマネさんにもダム完成の報せを伝えた。
「ついに完成したんですね!おめでとうございます!」
「ありがとうございます、でもまだです。最後にアマネさんのお力が必要なのです……」
「人工湖に水を満たせばいいんですよね!張り切って雨を降らせますよ〜!」
早速二人で馬車に乗り込み、ダムへと向かった。
段々と近づいてくる灰色の巨大な壁、これがダム!
アマネさんも出来栄えに感動しているようで、
「これです!これがダムですよフォーリアさん!」
と興奮して話しかけてくれた。
壁のごく近くまで近づいたが改めてその巨大さに圧倒された。これを人の力で作り上げた……女神の庇護から人類が離れる日もそう遠くないと思えた。
それでも仕上げにはアマネさんの、女神の力が必要だ。
「アマネさん、最後の仕上げをお願いします。」
「はい、任せてください!」
そう言うと天音さんはフワリと上空へと飛んで行ってしまった。
***
上空からダムの壁を見下ろすと、そこに着地した。
さて、雨をふらせてここを湖にしないと……。手を組んで祈り始めたはいいけれど、この勢いじゃ何日かかるだろうか……。フォーリアさんには悪いけど女神の力で一気に水を生み出してしまおう。
水、この谷を湖に変えてしまうほどの、水を!
遠くからドドドドドと轟音が聞こえる……!
谷の上には分厚い雲が覆いかぶさり、それが一気に水に姿を変えた。ザザーッとその水が谷に降り注ぎ、谷は湖へと姿を変えた。
あとはダムの壁が水に耐えられるかどうかだ。私は立っているけれど、そんなに衝撃はなかった。これは大丈夫なのでは?
「アマネさんー!!危険です!!戻ってくださいー!!!」
フォーリアさんが呼んでいたので、また空を飛んで、彼の元へと戻った。
***
「アマネさん、大丈夫ですか、かなりの力を使ったのでは……」
「これくらい平気ですよ!」
「それならいいのですが。ダムは耐えられるでしょうか……」
水で満たされた谷を堰き止める壁は落ち着いた様子で水漏れもないようだった。
あとは放水できるかどうかの実験だ。
「ダムは耐えられそうだ!次の工程を!」
建設監督に指示を出す。
ダムの壁の真ん中には穴がある。その穴を塞ぐコンクリートの蓋をずらして、川に放水を行うのだ。
「放水行きます。蓋ずらせー!!」
蓋をずらすのは人力だ。蓋に着いた鎖を巻き取り上へと移動させる。
すると水が流れ出てきた。この勢いにもダムは耐えている。成功だ!
「ダムの建設は成功だ!皆、ご苦労だった!!」
私が声を上げると、ダム建設の人足たちからも大声で完成が上がった。そのなかにはアマネさんの奇蹟を称える声も多くあり、アマネさんは少し照れていた。
「フォーリアさん、おめでとうございます!これで長年の夢が叶いましたね!」
「アマネさんがいなければ夢のままでした、本当にありがとうございます!」
私たちはお互いに祝福しあった。
「そうだ!ダムに名前はつけないんですか?」
「名前……ダムではなく?」
「これからも国内にダムを作りますよね?ひとつじゃ足りないですし、区別が着くように名前をつけないと……!」
なるほど、その通りだ。まだグラス地方に一つダムが出来たに過ぎない。グラス地方にひとつで足りるとは限らないし、他の地方にも作っていく必要があるだろう。
「そうですね……では『アマネダム』にしましょう!」
「えっ!!」
アマネさんは目を見開いて驚いていた。
「変ですか?『アマネダム』アマネさんがいたからこそこうして完成まで漕ぎ着けたのです。名前をつけるのも当然でしょう」
アマネさんは微妙な顔をしている
「でも!こういうのって普通地名とかをつけるんですよ、そのほうがわかりやすいじゃないですか!」
「たしかに分かりやすいかもしれないですけれど、私はアマネさんの功績として名に残したいんです」
ちょっと語気が強くなってしまった。
「でも、恥ずかしいですし、変ですよ!」
アマネさんの語気も強くなる。
「変なことはありません!!」
「ぜっっったい変です!!」
こうして二人の間に一触即発な雰囲気が漂ったまま、王城に帰ることになってしまったのだった。
王城に帰るとそのまま国王にダムの完成を二人で報告しに行った。
事の顛末を告げたあと、名前の件になった。
「私はこのダムに『アマネダム』と名づけるつもりです」
「陛下、それは変です。地名などを取るのが私の世界では普通でした!」
「しかし!アマネさんの功績はとてつもないもので!」
「だからってらダムの名前にはなりたくないです!」
二人言い争っていると国王陛下のため息が聞こえてきた。
「……すみません」
「夫婦喧嘩は犬も食わん。他所でやれ。ダムの名前は地名がわかりやすかろう」
かくしてダムの名前は『第一グラスダム』となり、国王陛下の前でさえ繰り広げられた痴話喧嘩は終わりを告げたのだった。
「アマネさん……まだ怒ってますか」
「ちょっと怒ってましたけど、我に返りました。何くだらないこと言い争ってたんだろうって」
「アマネ、ごめんなさい、許してください」
「もう許しました」
でもアマネはこちらを向いてくれない
「嘘ですね怒ってますね!」
「……思えばフォーリアさんと喧嘩するのって初めてですね」
「たしかに、したことありませんでしたね」
「ダムが完成して、私たち結婚するんですよね」
「そうです。結婚生活は長いですよ。喧嘩も何度もするかもしれません……それでも許してくれますか?」
アマネはゆっくりと笑顔で振り返った。
「許します。なんどでも!」
「アマネ!」
思わずアマネを抱きしめた。天音もそれを受け入れてくれた。
「でももうダムに私の名前は付けないでくださいね……」
「う、ごめんなさい、もうしませんから!」
こうしてダムは完成し、二人の初めての喧嘩は収まったのだった。
ダムがようやく完成しました……!
次回12時更新で完結となります!




