表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/46

41.母は娘を心配していない

「ちょっと聞いた?あの植物状態だった未城さん、いなくなっちゃったんだって」

「いなくなったってどゆこと?脱走?」

「多分ねー。親も行先知らないって言うし、夜勤と日勤で始末書どっちが書くか揉めに揉めたらしいよ」

「あーそれは揉めるわー」


 私はこの病院に勤めて三年になる看護師だ。入院患者さんで脱走を試みる人は一定数いたりするけど、完遂する人は少ないので興味を持った。


 未城天音さん、18歳。トラックとの接触事故で植物状態で数ヶ月。突然意識を取り戻しドクター達を大変驚かせた。それが記録でわかったこと。


 気になってしまって病室を覗いてみると、天音さんのお母さんらしき人が本人不在の退院の準備をしていた。


「未城さん」

 つい私は声をかけてしまった。

「ああ、すみません。片付けもう少しで済みますから!」

 娘が病院から脱走して行方不明なら、どれほど困惑しているだろうと思った母親は、意外なほどあっけらかんとしていた。

「びっくりしました」

「え?」

 思わず声に出してしまってた、嫌だどうしよう。

「いや、娘さんが行方不明な割にお元気そうというか……」

 うわー何言ってんだろ私!

「娘は駆け落ちしたんですよ」

 未城さんはちょっと切なそうな顔をしたけれど、やっぱり元気そうな感じは変わらない。

「か、駆け落ちですか」

「ええ、眠っている間に知り合った人とね」

 な、何を言ってるんだろう……。娘さんが居なくなっておかしくなっちゃった……?

「いま、娘が居なくなっておかしくなった母親だと思ったでしょう」

 ニヤリと未城さんはこちらを見て言った。バレてる!

「私も信じられない話だけどね、娘は眠っている間に異世界を旅していたんですって!そこで知り合った王子様と、恋に落ちて、愛し合った」

 私は呆然と話を聞くことしか出来なかった。

「そしてその人に帰れって言われて、この世界に帰ってきたって」

「そんなことが……」

「あるのよ、きっと」

 未城さんは遠い目をして言った。

「それで毎日泣いて過ごすもんだから、私もう言ってやったんです、なんで戻ってきたんだ!って」

「…………」

 未城さんはさらに語り始める。

「酷い母親に見えるかしらね、ふふっ。私も駆け落ちで結婚してあの子が生まれたから、これは血だなと思ったのよね!私の夫は売れないミュージシャンだったのよ、当然実家の父母は反対するから、二人で東京に出てきて……余裕のない暮らしだったし、天音の小さい頃に事故で死んでしまって、短い間だったけれど、私とても幸せだった……。あの子にも本当に愛する人、愛してくれる人を見つけたのなら一緒になって、幸せになって欲しいの。きっと今頃幸せを掴んでいるに違いないわ、私の娘だもの!ちょっと早い親離れだけれどね……」

 その姿は娘を思う母親そのもので、でも悲観したとかろはひとつもなくて、本当に天音さんが幸せになってると信じているようだった。

「じゃあ私も信じます、天音さんが今頃幸せを掴んでいるって……」

「ありがとう。こんなとんでもない話聞いてくれて……私もやっぱり誰かに話したかったのかもしれないわ。でも心配してないの、本当よ!」

 未城さんはそう言って、病室を後にしていった。


 ちょっとした好奇心からとんでもない話を聞いちゃったな……。でも異世界の王子様と結ばれるなんて素敵な話でもあるなと思った。


 ああーいつか私にもステキな王子様が現れますように!


 ***


 ———王城シーザリオ、夜空の見えるテラスにて


 新月の夜ははあの儀式を思い出す。一度元の世界に帰ったこと、お母さんに全て話したこと。そして、背中を押してくれたこと。

 お母さんがああして背中を押してくれなかったら私はここにはいなかった。きっとフォーリアさんのことも全て忘れて、普通の雨女の女子高生に戻っていたことだろう。


「アマネさん?」

「フォーリアさん……」

「夜風は冷えますよ」

 夜空を見上げていた私に、フォーリアさんが上着を肩にかけてくれる。

「ありがとうございます。お母さんのことを思い出していました」

「アマネさん……」

 フォーリアさんは眉根を寄せて苦しそうな顔をする。私に元の世界を捨てさせたことに、罪悪感を持ってくれているんだ。

「フォーリアさん、どうかそんな顔をしないでください。私は今とっても幸せなんです。この世界に居られて。フォーリアさんと居られて……お母さんに胸を張って言えます。私は幸せを掴んだぞ!ってお母さんもそれを信じてくれてるはずです」

「アマネは俺が幸せにします、必ず……」

 フォーリアさんは私を見つめて、真剣に言ってくれた。

「これ以上ですか?」

 私は今とっても幸せなのに、これ以上があるのかと思って聞いた。

「これ以上です、もういらないと言われるくらいの幸せをあなたに捧げます!」

「ふふふ!楽しみに待ってます!」


 そうして二人、新月の星空を見上げていた。

 私幸せだよ、お母さん。どうか心配しないでね……。


もうそろそろ終盤戦です。

明日も12時ごろ更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ