40.神官兼侍女は推しカプが尊い
推しのカップル。略して『推しカプ』というのだそうです。
私は神官兼アマネ様の侍女であるケイティーと申します。アマネ様には色々な異世界の言葉を教えて頂きましたが、この『推しカプ』なる言葉は私の琴線に触れるものがありました。
エピファネイア王国第一王子のフォーリア殿下、そして私の仕える雨の巫女のアマネ様。このお二人こそ私の『推しカプ』なのでございます。
***
———天音が元の世界に帰る前、王城にて
「フォーリア殿下、恐れながらお伝え申したいことがございます」
「ケイティーか、なんだ」
「フォーリア殿下はアマネ様がお好きなのでございましょう?」
「……っ」
「それでしたらこの老いぼれの話を聞いてくださいませ、そしてアマネ様の、手を離さないようにしてくださいませ!後悔のないように!」
「ケイティー、あなたの過去は私も知っている。たしかになりふり構わず相手の手を離さないのも愛でしょう。でも私の愛は違う。愛しているからこそ、手を離します。アマネが女神の器として消えることのないように……」
「フォーリア殿下……」
あの時の私の説得は失敗に終わりましたが、アマネ様は私の言葉を聞き入れて下さり、この世界へと戻ってきてくださいました。
しかも女神様とお話をした上で、力を使ってももう消えることのないようになって。
***
今日はお二人の大切な日、初めてフォーリア殿下がアマネ様を呼び捨ててお話し、約束を果たした日から1年が経ちました。
お二人の大切な記念日ということで、今日は城下町へお忍びデートなのだそうです。なんでもフォーリア殿下がお誘いしたのだとか。
お忍びでも数人の護衛と私は付いて回ります、つまり、『推しカプ』を見守ることが出来るというわけです!
お忍びのおふたりが最初に向かったのは、城下町グルメの食べ歩きでした。
最近城下町ではアマネ様が話を持ち込んだ異世界の食べ物が流行っているのです。
そこで『クレープ』を食べるおふたり。アマネ様はクリームがほっぺたについてしまっています!それを掬ってぺろりと舐めるフォーリア殿下……。これが『推しカプ尊い』という感情なのだと、これもアマネ様に教えて頂きました。
次はアクセサリーの露店ですか。おふたりで楽しそうに選ぶお姿も『尊い』です。
「アマネさんの髪にはこの水色の飾りが似合いますね」
「そうですか?あえてこっちの白とかどうでしょう」
「そちらもお似合いです……!店主よ、どちらも包んで貰えるか」
「そんなに、いいんですか?」
「ええ、アマネさんにつけてもらった方が髪飾りたちも喜ぶでしょう」
「も、もうフォーリアさんたら……!」
デートの最後は公園のベンチでの語らいでした。
「フォーリアさん、今日はデートのお誘い、ありがとうございました!」
「楽しんで頂けましたか?」
「もちろんです!でもどうして……」
「アマネさんは覚えていないですか、今日は最初の約束を果たしたあの日なんですよ」
アマネ様は気づいていないようでした。
「そうだったんですね、そんな大切な日を忘れてしまってました……あの時から一年経つんですね……」
「ええ」
「あの時は嬉しくてドキドキして、胸が高鳴って……雨を降らせられたんです」
「胸の高鳴りで、雨を?」
「フォーリアさんには内緒にしてたんですけど、雨を降らせるには胸の高鳴りが必要なんです。私はいつもフォーリアさんのことを思い出して雨を降らせていますよ」
「それは……照れますね」
フォーリア殿下が頬を赤くしています。
「雨が降る時は私がドキドキしてる時です……恥ずかしいですけど、覚えておいてくださいね……」
「……いま、試しても?」
「……はい」
フォーリア殿下がアマネ様の頬に手を添えて……その先は野暮ですので見ないでおきました。
そしてにわかに小雨が降ってくるのでした……。
———王城シーザリオにて
「ケイティー、今日はお忍びの供回りご苦労だった」
「いいえ、光栄なことです」
「その……見たことはできる限り忘れるように」
殿下が恥ずかしそうに、しかし努めて冷静におっしゃいました。忘れるなんてとんでもない!『推しカプ』の『尊い』あれこれを忘れるなんて……!と内心では思いつつも、
「はい」
とお答えするしかないのでした。
「殿下、ひとつお伺いしたいことがございます」
「何だ?」
「殿下、殿下は今も愛するが故に手を離そうとお思いですか?」
殿下は私の話を思い出してくれたようでした。
「いいえ、俺の手に戻ってきたからには、もう二度と、離しはしません……!」
そう、力強く答えてくださいました。
どうやら私の『推しカプ』は安泰のようです。
評価、感想、ブックマークありがとうございます!
明日も12時時頃投稿予定です。




