38.第三王子は士官学校に入学する
僕はエピファネイア王国第三王子のサートゥル。
正直言って僕の影は薄い。
なんといっても第三王子だ。いやなことを言ってしまうと第二王子のさらに第三王子。だから影が薄くても仕方ないのかもしれない……。こんなことを常日頃考えてしまう性格の悪さも、僕がひねくれているといわれる所以だ。
僕にはフォーリア兄上ほどの政治的手腕は無いし、ディーズ兄上程の武芸の才も無い。まあフォーリア兄上は文武両道なんだけど……。
そんな僕が唯一好きな物、それは建築物だ。王子じゃなかったら建築家になりたいと思ったくらいだ。こんな立派な王城に住むことが出来るのもラッキーだと思う。
その時その時の技術が遺憾無く発揮される建築物は、技術の最先端の結晶だ。
干ばつ対策に人工湖を作る話を最初にフォーリア兄上から聞かされた時は、なんて、途方もない話だろう、フォーリア兄上にしては珍しく夢みたいなことを言うんだなと思った。
しかし巫女様が現れて『ダム』という概念が持ち込まれて、その先見性に脱帽した。やっぱりフォーリア兄上は凄い。
そして『ダム』というおそらく巨大建築物、なんて凄いんだろうと思った。
地図を広げて兄上と巫女様とダムの話をするのは楽しかった。巫女様が描きこんだ簡易な設計図に材質は何を?一体何年かけてどうやって?と議論するのは僕の建築物への興味をそそるのに十分すぎた。
巫女様が元の世界に帰り、兄上と二人にになった。
兄上はダム建設を実現させるための企画書を書いていた。これを元にシルヴァーホーク伯爵や議会に建築を認めさせる。それがフォーリア兄上の政治的手腕の凄いところだ。
残念ながら、僕にできることはあまりなかった。
巫女様がこの世界に帰ってきて、コンクリートという材料が持ち込まれ、ダム建設は一気に現実味を増した。
その上巫女様は上空から木を薙ぎ払ってしまったというのだから女神様の力は凄いというか恐ろしいほどだ。
僕はというとこっそりダムの建設現場を何回か見に行った。
木製の枠組にドロドロのコンクリートを流し込むと、やがて硬く石のようになる。これなら石を積上げた時のような隙間が無くなるので十分な強度が出る。
ダムのように水を漏らさないようにするのにはやはりコンクリートが必須だと思えた。
するとそこに僕と同じようにこっそり建築現場を見に来た巫女様が現れた。
「あれ?サートゥルさん?奇遇ですね……」
ちょっと気まずそうだ。
「巫女様こそ、建築現場にいらっしゃるんですね」
「ええ、ちょっと……」
「ああ!巫女様、こっちですちょうどいい所に!」
そこへ建築現場を取仕切る監督が現れて、巫女様に声をかけた。
「はい!岩をどかせばいいんですよね、今行きます!」
巫女様はそう言うと木の枠組みを作るのに邪魔をしていた大きな岩を宙に浮かせて、あらぬ方向へと吹き飛ばしてしまった。
「……あれが女神の力」
あれをどかすのに人力では如何程の時間がかかっただろう……僕は戦慄した。
「サートゥルさん、お願いなんですけれど、今日見た事はご内密に……」
「どうしてですか、あんなすごい力、どんどん使ってダム建設を進めれば効率的なのでは……」
「私もそう思うんですけど、フォーリアさんはダム建設はなるべく女神の力に頼らずに行いたいと思ってるんです。だから私も、どうしてもという時だけこうやってこっそりお手伝いしてるんです……」
なるほど、堅物なところのあるフォーリア兄上らしい。
「わかりました、僕もよく建設現場を見に来ると思いますけど、秘密にします」
「サートゥルさん、ありがとうございます!」
そう言って巫女様はいたずらっぽく微笑んだ。
それからも僕達は建設現場でかち合っては秘密を共有し合うことになった。なんだかバレたらフォーリア兄上にこっぴどく怒られそうで怖いと思った。
そんな僕もいよいよ士官学校へ入学する時が来た。
王族のしきたりだから仕方ないけれど、僕は武芸や用兵術より建築が学びたいと思った。
———士官学校の入学式
父上、国王の名代としてフォーリア兄上が挨拶のスピーチをしている。首席で卒業した兄上。
一方ギリギリで卒業したディーズ兄上も見送りに来てくれた。
僕はどうすべきなんだろう。ひねくれて建築の勉強ばかりしてギリギリの成績になろうか、それとも根は真面目なところを出して首席を狙おうか……。
「サートゥル、お前は俺を反面教師にして首席狙えよ」
入学式が終わって、ディーズ兄上が話しかけてきた。
「それはこれから決めることにします」
「はあ?なんじゃそりゃ!」
「本気出せば首席にもなれるってことですよ!」
僕はこれからここで自分をもう一度探そう。フォーリア兄上とも違うディーズ兄上とも違う。僕だけの個性ってものを!
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