37.第二王女はマリッジブルーになる
エピファネイア王国第二王女ロザリンドはマリッジブルーに陥っていた。
マリッジブルー、それは結婚を控えた女性が不安や心配のあまり憂鬱状態に陥ることである。
ロザリンドは正式にリョテー王国の王太子オルフェとの婚約が結ばれ、いつエピファネイア王国を離れるか分からない状況にあった。
———ロザリンドのサロンにて
「うう……シーリアを残していくなんて、心配すぎます!」
「ロザリンドお姉様……」
ロザリンドはシーリアを抱きしめてかれこれ数時間はこうして心配だの不安だの涙目で騒いでいた。
それを見たサートゥルが疑問を呈する。
「ロザリンド姉上、あんなにオルフェ王子と結婚したがっていたじゃありませんか。どうしてあんな落ち込んでるのかわかりません」
「サートゥルは女心が分かってねえなあ!マリッジブルーってやつだよ」
「……ああ、ヴァイオラ姉上もそうでしたね。まあ、ヴァイオラ姉上はいつでも心配症でしたけど」
自分たちの1番上の姉、ヴァイオラも今はカナロア帝国の皇太子妃であるが、嫁入り前には泣きながら不安になっていたことを思い出した。
「こういう場合どうすればいいんですかディーズ兄上」
「どうしようもない、時間が解決するさ」
「兄上そればっかりじゃないですか」
サートゥルは呆れた。
とりあえず寂しくないように兄弟一緒にいるようにしようということになった。
「ロザリンドさん、オルフェ王子との婚約おめでとうございます!」
天音が意気揚々とロザリンドのサロンにお祝いに来たところ、サロンには陰鬱な雰囲気が漂っていた。
「あれ?みなさんどうされたんですか」
「それが、ロザリンド姉上がマリッジブルーで」
サートゥルは事の顛末を話した。
「なるほど、意中の方と婚約されたからには喜んでらっしゃるだろうなと思って来たんですが……」
天音は自分の場違いさに少しトーンを下げた。
「あ!巫女様!巫女様とお話したかったんです!」
ロザリンドがシーリアを抱いたまま天音を手招いていた。
「わ、私ですか?」
「巫女様も故郷を離れてフォーリア兄と婚約したじゃないですか、不安はなかったのかって……私、大好きなオルフェ王子と婚約できたのに、エピファネイア王国を、兄弟と離れると思うと不安で、心配で……巫女様の気持ちを教えてください!」
「そうですね……私の場合はお母さんが思い切り背中を押してくれましたから!あとは心配するような兄弟もいなかったですしね……。なによりフォーリアさんが大切でしたから、何も不安はなかったです!」
「……巫女様……。フォーリア兄は本当に幸せ者です……心配はひとつ減りました……ディーズもアレグリアと婚約しましたし、兄弟のことはもう心配しなくてもいいのかもしれないですね……」
「そうですよ、シーリアも、もう次の社交界には出る、立派なレディです!」
抱きかかえられていたシーリアも胸を張って答える。
ロザリンドはひとつ重荷を下ろしたように微笑んだ。
「私がオルフェ王子を信じきれてないからですよね、きっと……」
「オルフェ王子とはどのくらいお会いに?」
「数回しか……しかもあまりお返事はしてくれなくて、私が一方的に話しかけている感じで……。でも!やさしく微笑んで下さったんです!」
なるほど、それは心配になっても仕方ない。天音は思った。
「オルフェ王子を信じましょう!リョテー王国はあまり周囲の国とも国交を持っていないと聞きました。それでも婚約を受けて下さったんだから、きっと悪いようなことにはならないはずですよ!」
天音は思いつく限りの言葉でロザリンドを励ました。
「……うん、うん、そうですよね!オルフェ王子は優しい方のはずです!私ももっと信じてみます!」
ロザリンドの気分もどうやら上向きになってきたようだった。
「巫女様は不思議ですね、お話していると何もかも大丈夫という気持ちになれます。これも女神様のお力なんでしょうか、いや、巫女様のお人柄ですね!」
「いえ、それほどでも……」
天音は素直に褒められて照れていた。
「さあ、辛気臭いのは私に似合わない!いつものように楽しくお茶会にしましょう!シーリア、サートゥル、ディーズ、巫女様!」
「フォーリアさんも手が空いてないか、探してきますね!」
天音は大臣達との会議終わりのフォーリアを捕まえて、ロザリンドがマリッジブルーだったことを話した。するとフォーリアも心配して、お茶会に参加しようと言ってくれた。
こうして、王城にいる兄弟の全てと巫女が揃い、盛大なお茶会が始まったのだった。
———時は過ぎ、ロザリンドの嫁入りの日
リョテー王国からの迎えの馬車が来て、いよいよロザリンドはこの王城シーザリオから、このエピファネイア王国から離れることになる。
婚礼衣装に身を包んだロザリンドは輝かんばかりに綺麗だった。
「お父様、今までお世話になりました」
「うむ、王太子妃の務め、しっかり果たせ」
「はい!」
国王であるクリスエスとの挨拶を済ませたあとは、兄弟たちだ。
「フォーリア兄、巫女様とくれぐれも仲良く、ですよ」
「もちろんだ。結婚式には来てくれ」
「はい!もちろん来ますからね!」
今度はその隣にいた天音に声をかけた。
「巫女様もフォーリア兄をお願いします。堅物ですけれど優しいのもほんとです!」
「ええ、フォーリアさんが優しいのもわかっています。ずっと支えていきたいと思います!」
「ディーズ、アレグリアと婚約したからには、絶っ対に幸せにしてあげなさいよね!」
「わかってるよ!これでも俺は女心のわかる男だぜ」
「どうだか……」
サートゥルが茶々を入れた。
「サートゥル、あなたは斜に構えてるけどほんとは素直な優しい子だって私は知ってます。だから、どうかひねくれてばかりいてはダメよ」
「……はい、ロザリンド姉上……」
ロザリンドがサートゥルの手を取って言うと、彼は涙をこらえながら返事をしていた。
「シーリア」
「ロザリンドお姉様!」
シーリアは目じりいっぱいに涙をためて、それでも零れない様にこらえていた。
ロザリンドはシーリアを抱きしめて言った。
「あなたが生まれて、お母様が亡くなって、ヴァイオラ姉上と一緒に、まるで自分の子のようにあなたを育ててきたから、あなたと離れるのが一番辛いわ……。でももうあなたも社交界デビューするような立派なレディだものね。私も子離れ、いえ妹離れしなくちゃね!」
「シーリアも、レディとしてお姉様離れ、します!」
「えらい!それでこそ私の妹!」
ロザリンドは最後にシーリアの頭を撫でた。
「長くなっちゃったけれど、オルフェ王子が待ってるからもう行くわね!みんな、どうか元気で!」
最後に明るい、ロザリンドらしい笑顔を見せて馬車に乗り込み、彼女は王城を、エピファネイア王国を後にしたのだった。
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