3.奇蹟への褒賞
―――雨が、降った。
「奇蹟だ!!女神の奇蹟だ!」
「巫女様は本物だった!!」
興奮した民衆がそんなうわ言を口々に私に群がってこようとする。
「控えよ、雨の巫女の御前であるぞ!!」
民衆を一喝すると、フォーリアさんは私の手を取って王城の中へとエスコートしてくれた。
「ありがとうございますアマネ様」
「は、はい。何とかなりました……」
私は自分のおこした奇蹟に少し震えていた。
「……とりあえず、父と。我が国王陛下との謁見をお願い致します」
そう言われて今度は謁見の間までエスコートされるのだった。
「巫女よ、この度のお恵みにこの国を代表して感謝を捧げよう」
「は、はい」
き、緊張する。なんていったって国王様との謁見なのだから。
フォーリアさんの御父上でもある国王のクリスエス様はするどい目つきをお持ちで、さすがの国王オーラを持っている。
「礼拝堂の近くに部屋を用意してある。どうぞお体を休められよ」
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
あのやけくそにも似た祈りで、私は奇蹟的に雨を降らせることに成功した。
これはもしかしてついに新たな能力に目覚めたのかも!と期待したものの、自分が明確に雨を降らせたという確信には至れなかった。
沈みかけた太陽を隠すように、私が降らせた雨はまだ降っている。
謁見の間を出るとフォーリアさんが待っていた。
「お部屋はこちらです。ご案内いたします」
「ありがとうございます」
案内された部屋はまるでテレビで見たホテルのスイートルームのようだった。
「いいんですかこんな立派な部屋!?」
「もちろんでございます。貴女は巫女として立派に奇蹟を起こし、雨のお恵みをもたらしてくださいました。召喚後の疲れもあったでしょう、この部屋で十分お休みください」
「あ、ありがとうございます」
「巫女様、失礼いたします」
一人の年嵩の女性、老女といっても過言ではないだろう――がノックとともに部屋に入ってくる
「彼女はケイティー。アマネ様のお世話はすべて私が引き受けることになっておりますが、女性のお世話となれば私では不足でしょうから、神官の中から信頼のおける女性をお世話係に付けさせていただきます」
フォーリアが彼女を紹介する。
「ケイティーと申します。巫女様、なんでもお申し付けくださいませ」
「お世話になります。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げたとたん、
ぐう
と大きな音が部屋に響く。こんな時にお腹が鳴るなんて、恥ずかしい!
「お食事はいかがですか?こちらにご用意いたしますよ」
「あっ、じゃあお願いします……」
「では私はこれで失礼します。なにかあればケイティーを通じていつでもお呼びください」
フォーリアさんは丁寧にお辞儀をして去っていった。
何人かの使用人が出入りして、私のための食事の準備を調えてくれた。
「では、お召し上がりください、巫女様」
「えっ、これで一人分ですか?」
「はい、足りませんでしたでしょうか?すぐに追加をお持ちします」
「いえいえいえ!あの、充分すぎるくらいです!ありがとうございます!!」
なんだか私が大食漢みたいな勘違いをされかかったものの、この豪華な食卓に手を付け始めた。
このスープは何だろう?すごく濃厚で美味しい!このお肉もとても柔らかい!
今までに食べた何よりも美味しい食事に舌鼓を打っていると、ふと思い出した。
『この国は干ばつで民の生活もままならないのです』
……そんな国にこんなに豪華な食事がおいそれと用意できるものだろうか。
「あの……」
「はい。何でしょうか巫女様」
私はケイティーさんに問う。
「この国の、この城の皆さんはいつもこんなに豪華な食事を?」
「いいえ、最高の食材を巫女様のために集めております。この国で最高の食事をお出ししております」
「やっぱり……」
雨を降らせはした私だけれどあんなあやふやな力でこんな報酬、受け取れない。
「私の食事は最低限でも大丈夫ですから、どうか干ばつで餓えた人々に分けてあげてください」
「しかし巫女様……」
「フォーリアさんの言いつけですか?」
「はい、部屋や衣服、食事に至るまでこの国で最も最高のものをとのご命令です」
これはフォーリアさんと直接話して改善してもらうしかない。それまでは少しくらい最高級を味わってもいい、かな?
そんな風に豪華なお風呂(バラの花が浮かべてある!)から上がり、シルクの寝間着を身に着けて、
二人は余裕で寝られそうな大きなベッドで眠ることにしたのだった。
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