36.第二王子は士官学校を卒業する
エピファネイア王国第二王子ディーズは最大の危機に陥っていた。
「殿下、このままでは卒業に必要な単位が足りません!」
なにかと士官学校へ外出届を出しては王城に帰っていたディーズはその分授業に出ていない。その上サボり癖のあったディーズは単位が足りなくなるのもむべなるかな、このままでは卒業ができない所まで追い詰められていた。
士官学校の教師と対峙するディーズ。
「こう……王族への忖度とかないんすかね」
「ないですね、第一王子のフォーリア殿下は自力で首席におなりになりました」
「兄貴マジかよ」
「しかし私どもとしても王族を留年させることなどしたくはないのですよ、ええ」
「じゃあやっぱり忖度とか……!」
「そういう訳には参りません、しかし必要な単位を卒業ギリギリまでに取っていただければ何とか致します!」
「あーあの!巫女様の護衛についてた分は実技として単位になるんじゃあないすかね」
必死の抵抗を見せるディーズだった。
「……確かにあのホーリックス商会の事件では随分ご活躍されたと聞き及びました……単位として認定してもよろしいでしょう」
「よっしゃ!」
「しかし座学の単位も足りていませんので……」
「じゃあ俺はこれから勉強漬けってことっすか」
「そうなります」
嫌だああああとディーズの叫び声が士官学校にこだました。
それから座学の勉強漬けになったディーズは、何とか卒業認定までに必要な単位を取ることに成功し、晴れて卒業パーティーに出ることが出来るのだった。
———士官学校の卒業パーティーにて
「ディーズ、卒業はギリギリだったと聞いたぞ、なんという体たらくだ」
国王の名代として、パーティーに参加するフォーリアがディーズに苦言を呈した。
「それは兄貴が護衛に駆り出したりするからだろ!王城に帰んなきゃ行けないことも沢山あったし」
「……護衛に駆り出したのは確かに悪かった」
「それでもフォーリア兄上なら首席で卒業していましたよ」
サートゥルが追い討ちをかける。
「この生意気な!いつからそんなひねくれたんだサートゥル!」
「やめろ二人とも、王族としてしゃんとしていろ」
「はい」「わかったよ」
士官学校の生徒は平民から貴族まで幅広い。卒業パーティーには卒業生たちの親、名のある諸侯も多く参加しているが、そこには意外な人の姿があった。
「シンボリ公爵?公爵家には士官学校に入るような令息はいなかったはずだが」
フォーリアは首を傾げた。
「あれ、アレグリアじゃんか、なんでこんな所に」
さらに場違いなことに、アレグリア公爵令嬢もこのパーティーに参加していた。
「ちょっと俺行ってくる」
「失礼のないようにな」
フォーリアに注意されつつアレグリアの元へと向かった。
「シンボリ公爵にアレグリア公爵令嬢。こんばんは。今宵はどうされました?」
「ディーズ殿下、よいところに。今宵はディーズ殿下の卒業を祝いに参ったのですよ」
「それは、ありがとうございます」
なんでわざわざ?という疑問はすぐに氷解した。
「そして、我が娘のアレグリアを改めて紹介したいと思いまして。アレグリア、挨拶を」
「改めてお目にかかります。公爵家のアレグリアと申します」
アレグリアが相変わらずの完璧な礼をする。
「どうぞアレグリアをディーズ殿下の婚約者にと思いましてね、ええ!ディーズ殿下が気に入ってくださればですが……どうぞよろしくお願いします。あとは若い二人で……」
シンボリ公爵はどうやら国王の名代のフォーリアに話をしに行くようだった。
「親父さん、ホントに兄貴がダメなら俺にしろってか!」
なんでもありの公爵に流石に呆れてしまった。
「ええ、そうなんですの。不本意ですわ……」
「不本意なのかよ……」
この前は可愛いところ見せてくれたのに……ディーズは思った。
「不本意ですわよ……第一王子が駄目なら第二王子だなんて、きっとほかの公卿の方々も呆れてしまいますわ」
「じゃあ第二王子じゃなかったら良かったのか?」
「第二王子じゃなかったら……」
「俺は嫁さんは大事にするつもりだぜ。それこそ箱入りのお嬢様ならなおさらだ」
「…………」
長い沈黙。アレグリアの綺麗な金髪が揺れる。
「今日はもう泣いてないんだな」
「失恋は時間が癒すと、殿下が仰ったではありませんか」
「そうか、失恋は癒えたか」
「ええ、多分、もう癒えましたわ」
「じゃあ俺の失恋の話をしよう!」
ディーズは語って聞かせる。王城に現れた女の子、受け取って貰えなかった花束。やつあたりにフォーリアを木剣でぽかぽかと叩いたこと。
「その女の子って……!」
「そう、アレグリア、お前だよ」
アレグリアの白い肌が赤く染まる。
「覚えてませんわ、そんな昔のこと……」
「じゃあアレグリア、今日はこの花束、受け取ってもらえるか?」
ディーズは卒業生にと贈られた花束を掲げて跪いた。
「アレグリア、俺と結婚してくれ」
「それ、あなたが貰った花束じゃありませんの!」
「しょうがねえだろ今これしか無いんだから!それともその辺の花を摘んでこようか?」
「いいえ、ではこれを受け取りますわ」
そう言ってアレグリアは恐る恐る花束を受け取った。
「ははは!やった!」
ディーズはそんなアレグリアを花束ごと抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。
「ち、ちょっと!殿下!」
「ディーズでいいよ!結婚するんだからな!」
「ディーズ、様」
「呼び捨てで!」
「ディーズ?」
「そう!」
「私はまだ納得していませんからね!貴方との結婚なんて!」
「俺は嬉しいよ!初恋が叶うんだからな!」
「……もう!」
アレグリアは頬を赤く染めディーズの肩に顔を埋めた。
浮かれたディーズがアレグリアを抱いたままパーティー会場をうろつき、二人の婚約は皆の知るところとなった。
ディーズはあとでこってりフォーリアに絞られ、サートゥルにはさらなる軽蔑の目で見られることになるのだが、初恋の女の子と結婚できることになったディーズは、そんなことどうでも良くなるほど浮かれ倒していた。
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