35.雨の巫女はお勉強が苦手
晴れてエピファネイア王国第一王子フォーリアの正式な婚約者になった天音であったが、ひとつ気がかりなことがあった。
それは、いわゆる王妃教育の始まりである。
雨の巫女として旅に出る前、シーリアさんとのお勉強会でエピファネイア王国の大体の地理は頭に入っていたが、王妃となることが決まったからには、さらに詳しく地理や歴史や外交について学ばなければならない。
さらに今までなんとなくやり過ごしてきた食事のマナー、挨拶の仕方などの礼儀作法、更には歩き方といった姿勢や所作に至るまで、厳しく躾られるのだ。
本当に自分に王妃が務まるのだろうか、いや、務まるようになるためにこの王妃教育があるのだ!
天音は決意を新たに王妃教育へと臨んだ。
幸い地理や歴史、外交についての勉強は王族の末妹のシーリアさんも一緒にすることになり仲間を得て心強い気持ちだった。
また、食事のマナーや礼儀作法の勉強には第二王女のロザリンドさんも、監督役として付き合ってくれた。
それでも慣れない言葉の飛び交う歴史の授業、外交についての授業はなかなかに手強いものだった。
「私、学校でもそこまで成績良かったわけじゃないし、歴史も覚えるのが苦手だし、どうしよう……」
次回は覚えたかどうか確認のテストをしますと歴史の教師に言われてしまい、弱音を吐いていた。
「アマネお姉様、シーリアも付いています、一緒に復習しましょう……!」
「シーリアさん、ありがとうございます……!」
ひとりじゃないのはいいなと思った。
がしかし、採点されたテストの結果は散々で学校で言うなら赤点、と言うやつであった。
「どうしても、どうしても覚えられないっ!」
王城の廊下で悲嘆に暮れているとフォーリアさんに出会った。
「アマネさん?どうかしたのですか?」
勉強が捗っていないこと、フォーリアさんにはなるべく隠したかった……王妃として相応しいとそう思って欲しかったから……。それにフォーリアさんはダム建設の仕事で何かと忙しそうで、手を煩わせたくなかった。しかし、フォーリアさんは私のテストの答案を覗き込んでしまっている……!
「歴史のテストですか……確かに他の世界から来たアマネさんには少々酷ですよね」
「……はい、正直何も覚えられなくて……」
「私は歴史とは物語のようなものだと思っています、どうか私にお話させてくれませんか?幾分覚えやすくなると思うのですが……」
フォーリアさんが提案してくれた。
「いいんですか?フォーリアさん忙しいんじゃ……」
「ダムの方はもう建築段階です、あとは待つばかりですから!」
フォーリアさんの言葉に甘えて、自室にお茶を用意してもらい、勉強会を開くことにした。
といってもフォーリアさんが建国から今までの歴史を物語調に語ってくれて、ときおり重要人物を覚えるよう言われ、ノートに書き込んでいった。
「どうでしょう、こうしてみると劇かなにかの物語のようで、覚えやすくなりませんか?」
「はい!今まで歴史ってひたすら単語を暗記するものだと思っていたので、随分分かりやすくなりました!」
フォーリアさんの素敵な声で聞かされると、さらに頭に入ってきますとは言わないでおいた。
「他に困っていることはありませんか?」
「お勉強はシーリアさんも一緒に復習してくれますし、礼儀作法はロザリンドさんも教えてくれます!きっと、大丈夫、だと思います……」
大丈夫と言いはしたが、そこまで自信がある訳でもない。
「ダムはどれくらいで完成しそうですか?」
「やはり年単位でかかるでしょう。お待たせしてしまい、申し訳ない」
「いえ、それくらいの猶予がないと私の教育が間に合わないかもです……」
フォーリアさんは申し訳なさそうにするが、ちょうど良かったのかもしれない。
「アマネさんはそのままで十分将来の王妃になれます、その民への慈悲、優しさがあれば十分です」
「ありがとうございます……でも私、フォーリアさんの隣に立って恥ずかしくないようにしたいんです!なので、もう少しお勉強がんばりますね!」
フォーリアさんは微笑んで、私の頭をそっと撫でてくれた。
「っすみません、ついシーリアにするようにしてしまって……」
「いいえ、気持ちいいです、もう少し、そのままで……」
私はフォーリアさんの胸によりかかり、頭を撫でてもらうよう強請った。
「もう、アマネ……」
フォーリアさんもそれに応えて、私を胸に抱き、ポンポンと頭を撫でてくれる……。気持ちいい……。
「アマネ様!礼儀作法の先生がお呼びですよ!」
そこにケイティーさんが入ってきた。
「……失礼しました」
そのまま出ていこうとする。
「あっ、忘れてました!今日は礼儀作法の勉強もあって!!あの!!ケイティーさん!!今のは見なかったことに!!」
フォーリアさんは顔を真っ赤にして固まってしまっていた。
そんなこんなで迎えた二回目の歴史のテスト、点数は大幅に上がり、何と合格をいただいたのであった。
フォーリアさんが教えてくれたお陰だ!報告しに行くと、喜んでくれて、また頭をポンポンと撫でてくれたのだった。




