34.公爵令嬢は失恋が辛い
輝く金髪に陶器のような白い肌を持つアレグリア・シンボリ公爵令嬢は、幼い頃から将来は第一王子フォーリアの婚約者たれとして育てられてきた。
王位継承権第一位の王子の婚約者ということは、将来の王妃、国母である。
そのために厳しい教育を幼い頃から受けてきた。国の地理、歴史、外交はもちろん。食事のマナー、挨拶の仕方、歩き方などの所作に至るまで、このエピファネイア王国の王妃として恥ずかしくないようにと叩き込まれた。
だから彼と結婚するの私なのだと、信じて疑っていなかった。
それなのに。
ある日の社交会でその思いは無惨に打ち砕かれた。
クリスエス国王陛下が告げる。
「第一王子フォーリアは雨の巫女アマネ・ミシロと、婚約することを、ここに宣言する!」
確かに親からそう言われてきただけで、向こうから打診があった訳でもなんでもない。だから裏切りだなどと誹ることも出来ない。この行き場の無い気持ちは、失恋?それとも他の何か?
私は彼が好きだったのだろうか。ただ、今までの努力が無意味と知って悔しいだけなのだろうか。分からない、分からないけれど涙が溢れて止まらない。
こんな顔ではとても社交会に出てはいられない。しかし中座することも出来ない……。
仕方なく誰もいないテラスで夜風に吹かれるしか無かった……。
「おー、アレグリア、やっぱりやってんなあ」
そこに現れたのは第二王子のディーズ。社交会のために士官学校から戻っていたらしい。
「なにか御用ですの?私は今誰とも話したくは無いのです」
「ひでえなあ、アレグリアのことだから自分が兄貴の婚約者になれなくて泣いてると思って見に来てやったんだろー?」
「酷いのはどちらですの!?ディーズ殿下、殿下と言えども言っていいことと悪いことがありますわ!」
「俺の前でくらい泣いとけよ、俺はとても兄貴の代わりにはなれないだろうけど、一応第二王子だからな……」
「第一王子がダメなら第二王子……だなんて、父上も考えそうなことですわ……」
とにかく王家との繋がりを密にしたい公爵は今度は第二王子の婚約者になれなどといかにも言いそうな事だった。しかし私はこの粗野な第二王子のことはどうにも好きにはなれそうにない。
「まあ細かいことは抜きにしてさ、辛いことは忘れようぜ!踊ろう踊ろう!」
テラスに繋がるホールからは弦楽団の奏でる円舞曲が微かに聞こえてきていた。
「貴方踊れますの?」
「あんまりバカにすんなよ、第二王子だぞ!」
言った通り、彼は卒なくステップを踏み私をリードしてくれた。
夜風に吹かれて踊っているうちに涙も乾いてしまった。
「どうだ、気晴らしになったか」
「涙は乾きましたわ、ありがとうございます」
「お、素直になってきたな」
「ついでに私の独り言を聞いていってくださいませ」
私は誰にも言わないはずだった本心を語り始めた。
「第一王子の婚約者があの雨の巫女様だと聞いて、ああ、やっぱりと思いましたの。雨を降らせ民を癒す、女神の再来のようなお方、国母たる王妃にはこれ以上ないお方ですわ。でも悔しいのです。幼い頃から王妃になるべく教育されてきた私は?あの時間は一体何のためにあったのでしょう?彼は?彼は私の事を一つも思い出しはしなかったのでしょうか?それも悔しくてたまりませんの。これは失恋と言うのでしょうか……」
「……そうか、それは失恋だ。そして失恋の傷はいつか癒える」
「貴方も失恋した事がおありで……?」
「さあな……。とにかく、時間が解決するさ!兄貴のことは早く忘れるんだな!」
ディーズ殿下がバシバシと私の背中を叩く。
「痛、痛いですわ!」
「そう痛いから泣いてるんだもんな、俺のせいにしとけ」
そう言われて初めて自分が涙をまた流していることに気づいた。
ディーズ殿下というお方、意外に気が利くのかもしれません。
「では少し胸をお借りしても?代わりの第二王子様?」
「おう、どんとこい!」
たまには誰かに甘えたかった。彼の胸は広く暖かく、涙を拭ってくれたのだった。
もうしばらくそうしていたかったが、社交会は終わりを告げるようだった。
「今日ここであったことはお互い忘れましょう。それが一番ですわ」
「いや……俺は忘れられないね。あのアレグリア公爵令嬢が俺の胸で泣いてたなんて忘れられない!」
「せめて!誰にも言わないで下さいましね!!」
「言わない言わない!俺だけの思い出だ!」
そうしてディーズ殿下は去っていったのだった。
***
———ディーズ、アレグリアの幼い頃
「国王陛下、シンボリ公爵がお越しです」
「わかった、向かおう」
公爵に連れられて王城シーザリオに来た可愛い金髪の女の子。ディーズは彼女が気になって仕方なかった。ディーズは庭に咲く綺麗な花を集めて女の子に言った。
「あの、大きくなったら僕とケッコンしてください!」
「ダメです。私は大きくなったら第一王子のフォーリアさまとケッコンするのです」
ぷいと女の子は顔を背けて、花を受け取ってはくれなかった。
幼いディーズの恋は砕け散り、幼いフォーリアはとばっちりに木剣でポカポカと叩かれたのだった。
そんなことを思い出しながらディーズは、
「失恋の傷はいつか癒えるからな……」
と独りごちた。
王家と公爵家は親戚筋ということもあり、幼なじみのような関係性です。
第二部はこのようにサブキャラのお話も増えます。よろしければお付き合い下さい!




