33.第一王子は婚約もしたい
エピファネイア王国第一王子フォーリアにはダム建設の他にやりたいことがあった。
それは意中の恋人である雨の巫女、未城天音との婚約である。
ふたりが仲睦まじい恋人同士であることはもはや王城では公然の秘密となり、知らぬ者はいないほどだった。
しかし、この状況は良くない。王子として、このエピファネイア王国王位継承権第一位の者として、恋人などというフワフワした身分を与えるだけでは足りないのだ。
婚約者として正式に将来を約束しなければ……。ゆくゆくはこの国の王妃として国母になってもらわねばならない。その事を分かってもらうためにも、婚約は必要な事だった。
「確かここに……」
王室伝来の婚約指輪、元は母の形見であるダイヤモンドの指輪を取り出した。「あなたのお嫁さんになる人に渡すのよ」と言い含められていた品だ。
これを天音に渡し、婚約を申し込む。
断られやしないだろうか……もし断られでもしたら……自分は心を引き裂かれ立ち直れなくなってしまうだろう……。
フォーリアには妙に自信がなかった。
タイミングがあれば何時でも渡せるように、指輪を持ち歩くことにした。
「アマネさん!」
「フォーリアさん、おはようございます!」
早速天音に出会ったフォーリア。今か……?タイミングをはかる。
「これから半月に一度の民たちとの面会なんです。気合い入れていってきます!」
今ではなかったか……。フォーリアは引き下がる。
「それは大変ですね、ご無理なさらないように……」
面会は夜までかかるし、終わったあとは疲れているだろう。今日はタイミングが無さそうだ……。
明日、明日こそは……!フォーリアは決意を新たにして、礼拝堂へと向かう天音を見送った。
次の日。
「アマネさん、おはようございます」
「あ、フォーリアさん、おはようございます」
出会った天音は両手にロザリンドとシーリアがくっついていた。
「フォーリア兄、おはよう〜!今日は一日女子会するんですから、邪魔しないでくださいよね!」
「です!」
シーリアまでふんすと自慢げにしている。
これは今日は引き下がるしか無さそうだ……。フォーリアは妹に弱かった。
さらに次の日。
今日こそはと意気込んだフォーリアだったが、そもそもの話、婚約の申し込みとはなんでもない日にえいやと行っていいものだったかとふと思い直した。
二人の記念日を選んだり、いいムードを作って、婚約の申し込みをするべきなのでは……?
二人の記念日……やはり初めて天音のことを呼び捨てにし約束を果たして雨を降らせたあの日だろうか。
それなら十分な記念日になるが、如何せん時期が中途半端だった。
それならばいいムードをつくる……。あの儀式の日とは反対の満月の夜などどうだろう。
満月の夜空の下で、結婚を申し込む。これだ。
フォーリアはそうすることに決めた。
がしかし、そう上手くは行かないのが世の中である。
「フ、フォーリアさんは、だ、誰と結婚するんですか……」
天音が涙目になりながら聞いてきた。これは一体なにがあったのか。
「いま侍女たちの間で噂になってるんです、フォーリアさんが王妃様の形見の指輪を持ち歩いてる、誰かに求婚するつもりなんだって……」
誰かに見られていたのか……!こんな噂になってついには求婚するつもりの本人にまで伝わるなんて……!
侍女たちに腹を立てたかったがこうなってしまっては仕方ない。ここで腹をくくろう……。
「私が求婚したいのはアマネさん、あなたです!」
「へっ……」
「あれだけ愛を囁きあっておきながら、ほかの女に求婚するほど私は酷い男に見えましたか?」
「っ、いいえ、フォーリアさんはとっても優しいです!」
改めて跪き、告げる。
「アマネさん、どうか私と、結婚してくれませんか?」
「……っはい!フォーリアさん!嬉しいです!」
フォーリアは天音の左手を取って、薬指にダイヤの指輪を嵌めた。
すると周りからワーッとケイティーや侍女たちや騎士団の面々、ロザリンド、シーリア、サートゥルまで現れて、口々におめでとうだのやったねフォーリア兄だの祝福された。
……なんだか謀られた気がする……。
そんなこんなで王城の廊下というムードもへったくれもないシチュエーションで王子の婚約はなされたのだった。
その後フォーリアと天音は、フォーリアの父である国王に婚約を報告しに行った。国王は王子王女の結婚を政治と考えている節があるから、反対される恐れもあるとフォーリアは考えていた。
「父上、私は雨の巫女であるアマネに結婚を申し込み、彼女もそれを受け入れました。どうぞこの婚約をお認めください」
「不束者ですが、どうかお願いします」
フォーリア、天音が二人揃って頭を下げる。
「雨の巫女との婚約か……」
国王は何やら考えているようで、二人は震える手を繋いで国王の沙汰を待っていた。
「……いいだろう。民を救う雨の巫女こそ将来の国母たるに相応しい。二人の婚約を認めよう」
国王に認められた!これで二人の婚約は磐石なものとなった。
「しかし、結婚の時期であるが……」
「はい」
「お前にはダムなる物の建設という事業があるな?」
「はい、既に建設に着手しております。」
「ダムの完成なるまでは結婚は認めん、これが条件だ」
「……分かりました!」
国王の執務室を辞した後。
「よかった、よかったですフォーリアさん!私たち結婚できるんですね……!でもダムですか……何年かかるでしょうか」
「二、三年はかかるでしょうか……すみません、アマネさん。待たせてしまうことになりますね……」
「フォーリアさんと結婚できるなら、何年でも待ちます!!」
天音はフォーリアに抱きついた。二人は嬉しさを分け合うように抱き合い、見つめ合ってからそっとキスをした。
それから二人の婚約は正式なものとなり、国内の諸侯にも伝えられることとなった。
お披露目の社交会が開かれ、大勢に祝福されたが、素直に認められない者がここにひとり……。
「フォーリア殿下……」
アレグリア公爵令嬢その人であった。
気づけば初回投稿から1ヶ月経ちました、これも皆様の応援のおかけです!ありがとうございます!
明日も12時頃に1話投稿出来そうです!




