32.第一王子はダムが作りたい
時は少し遡る———儀式の前、王城シーザリオにて
前々からサートゥルには人工の湖を作る考えは伝えてあったのだが、アマネさんの持ち込んだ『ダム』という概念で明確な形を持った今、サートゥルは興奮しているようだった。
「そんな大きな湖を堰き止めておくなんて、異世界の叡智は素晴らしいですね……!」
「私もそんなに詳しくなくて申し訳ないんですけどね……あはは……」
「しかしアマネさんは我々の空想に実現の余地を与えてくれました、感謝しています」
「なんだか恐縮です……」
アマネさんが縮こまっている。しかし彼女のお陰で現実的な話ができるのだ、自信を持って欲しかった。
「ダムはまず作るとすれば穀倉地帯のグラス地方でしょうか」
「そうだな、シルヴァーホーク伯爵も女神への信仰より利益主義な人だ。建設を許してくれそうではある」
「グラス地方、懐かしいですね……」
アマネさんが地図とにらめっこしていた。
「作るならこの辺でしょうか」
山の谷間を指さす。
「谷を湖にして、それを堰き止める壁をつくって……あとは開閉できる扉も必要ですね」
アマネさんは地図の中に簡単な設計図を描きこんでいった。
聞くだけでなかなかに骨の折れそうな事だった。
「やはり木では強度が足りないでしょうか?」
サートゥルが疑問を口にする。
「そうですね……私の世界ではコンクリートっていう丈夫な石?のようなもので作ってありましたから……」
「「こんくりいと……」」
聞いたことも無い材質に俺とサートゥルは繰り返すしか無かった。
「うーんコンクリートって何で出来てるんだろ?多分細かく砕いた石と、うーんごめんなさい肝心なところ詳しくなくて……!」
「とりあえず最低でも石で作らないといけなさそうなことはわかりました、一歩前進です」
アマネさんとの日々がもう長くないこともわかっていた。少しでもヒントを貰えるのはありがたかった。
時は進む―――儀式のあと、巫女のいない世界
ダムを作るための最大の障壁。それはこの途方もない話を信じてもらって金を出してもらい、人手を集める事だ。
本物のダムを知るアマネさんはもう自分の世界に帰ってしまった、いや、無事に帰すことができた。
後悔はない。愛しているからこそ手を離すこともある。それでも寂しさはある。それを紛らわすかのように、ダム建設の仕事にのめり込んでいった。
女神の力に頼らないようにしなければならない。ダム建設はその一歩だ。
ダム建設の企画書を書く、設計図を専門の建築家に描かせている。
シルヴァーホーク伯爵に根回しをする。彼は建築に大いに賛成してくれたが、どうやら金までは出す気はないようだった。国庫から金を引っ張ってこなければならない……。議会にあげて予算を引っ張る。そんな夢みたいなこと出来るのかねと嫌味を言われるが、けして諦めない。アマネのいたしるしにもなるものだ。絶対にやり遂げてみせる。
さらに時は進む———巫女が戻ってきた世界
アマネは結局俺の為に戻ってきてくれた。正直、嬉しかった。自分の元の世界と天秤にかけても、俺を選んでくれたのだ。彼女を愛おしいと思う心は増すばかりだった。
「私、ちょっとダムとかコンクリートとか勉強してきたんですよ、リハビリ以外は暇だったので……」
リハビリとはなんだか分からなかったが「歩く練習のことです!」と言われた。歩くのに練習が必要なのだろうか……。
それよりも『コンクリート』については知りたいことが山積みだった。
「ちょっと待ってくださいね、出してみます」
そういうとアマネは手を開いて目を瞑った。彼女の体ごと光り出すと、その手の中に大きな石の様な物体が現れた。
「何とか、出せました。これがコンクリートのブロックです!」
随分重そうなそれを受け取った。ずっしりとした重量が腕にかかる。これがコンクリート……なんでもアマネの世界では建物はだいたいこれで作り、橋やそれこそダムも作ることが出来るのだという。
「私が沢山出せればいいんでしょうけれど、これが精一杯みたいです……すみません……」
「いえ、女神の力に頼らないためのダムですから。でも参考になります。ありがとうございます!」
「砕いた石にセメントを混ぜたものだそうです。最初はドロドロで、徐々に固くなるんですよ!」
「セメント、ですか」
「それが私もよく分からなくて……昔は火山灰なんかを混ぜたみたいです」
「学者を呼んで成分を分析させましょう、上手く行けば大量生産できるようになるはずです」
このひとつのコンクリートがあれば、きっとできるはずだ。
さらに時は進み———建設予定地の視察
「ここがその谷ですか……」
「はい、ここ一体が湖になる予定です」
実際その地に立ってみても、森が広がるばかりでダムなど建設できるのか、不安になるくらいだった。
「木ばっかりでよく分かりませんね……そうだ!フォーリアさんちょっと失礼します」
アマネに腰を抱かれる。と思うや否や、自分の体が宙に浮き始めた。
「アマネ!?空を飛べるんですか!?」
「できそうかなと思ったので!上から見たらわかりやすいですよね!」
アマネ女神の力を手に入れて無茶しすぎではないだろうか、もう器となって消えることは無いといっても、心配になった。
「設計図によればあの辺がダムの壁ですよね、分かりやすくしちゃいましょう!えい!」
そう言うとアマネはダムの壁になる部分の木を全てなぎ倒してしまった……。
女神の力とはここまでのものなのか……秘かに戦慄した。
視察から帰ると、招聘した学者たちがコンクリートの再現に成功したとの知らせを受けた。
これでダム建設にコンクリートを使える!
設計はやり直しとなり建築家達には申し訳なかったが、コンクリートという材料の登場は思いのほか喜ばれた。
こうして、ダムの建設はついに始まったのであった。
評価、ブクマ等ありがとうございます!
明日も1話アップできそうです。




