30.女神との取引
深い眠り、夢の中。ミルク色の霧の中をさまよう。
(プルウィアさま、プルウィアさま)
呼びかけながら更にさまよう。女神の器として消えたくないと言いながら、困った時にはこうして頼る。我ながら都合のいいものだと思う。けれどもうこれしか思いつかなかった。
(プルウィアさま、どうか応えてください!)
(……我が巫女、我が器よ……)
「プルウィアさま!!応えてくださったんですね!」
(……そなたはそもそも我が器として生を享けし者……その繋がりは絶えることは無い……)
私は女神の器として生まれた!?びっくりしたけれど少し納得するところもある。元の世界にいた頃から極端な雨女だったこと。すんなりと女神の力を使えたこと。その理由がここにあった。
「プルウィアさま、私あの世界に戻りたいです。フォーリアさんのいる世界。エピファネイア王国のある世界に!」
(……それはあの世界にわたしの再臨を成そうということか?……)
「それは……違います。私は私のままであの世界にいたいんです」
(……なんとも虫のいい話であるな……)
やはり突っ込まれる。でもここで引いてはダメ。
「お聞きしますが、プルウィアさまは再臨して何を成すおつもりですか」
(……人の子らに雨の恵みを与えよう……)
「それは私にもできます」
食い気味に答える。
(……干ばつから人の子らを救えるのか?……)
「彼らは強いです。もうあなたなしでも、巫女無しでも200年生活を営んでいました。それに」
ここは夢の中、なんでも具現化できるはず……。
私がプルウィアさまに見せたいのは、そう、これだ。
「これを見てください」
(……なんぞやの設計図か……)
「これは私の世界にあったもの、ダムの設計図です。フォーリアさんは干ばつの対策としてダムをエピファネイア王国に作ろうとしています。人が女神の力に頼らなくて済む世の中を作ろうとしています……」
(……我が手を離れようというのか、人の子よ……)
「そうです!……親離れの時期が来たんです。プルウィアさま、どうか私の中で人々を見守ってくれませんか?」
(……親離れか……)
プルウィアさまは何事か考え込んでいるようだった。
(……そも、わたしの再臨が巫女を通してしかなせないのは信仰心が薄れているから……人の子らはとっくのとうに、わたしの手から離れて生きていたのやもしれぬな……)
「ですから、私たちをどうか見守ってください。それだけでいいんです」
(……わかった。そなたの願い聞き入れよう……しかし、そなたはもう二度と元の世界には戻れぬぞ……)
「覚悟の上です。……私も親離れをしますから……」
お母さんは背中を押してくれた。きっと分かってくれる。
(……私はそなたの中で子らを見守ろう……私の力は好きに使うがいい……)
「プルウィアさま……ありがとうございます!」
プルウィアさまが私の中に溶け込んでいくのがわかる。私の黒髪はインナーカラーのように内側だけプルウィアさまの水色に染まっていくようだった。
これが女神の力。世界を渡ることも出来るのが分かる。でもあと一度きり。この力で、私はフォーリアさんのところに帰るんだ。
ミルク色の霧の中を、あなたの元へひたすら駆ける。
フォーリアさん、フォーリアさん!!!
やがて光が見えてきた。私はその光の中へと飛び込んだ。
***
気が付くとそこにはフォーリアさんの顔があった。
「フォーリアさん!私です、天音です!帰ってきました!」
嬉しくなって呼びかける。でも彼はすぐに答えてくれない。
そう、彼は眠っている。ここはフォーリアさんのベッドの中だ……!
私は飛び起きてベッドから這い出た。さすがにそれはまずい!
「……アマネ?」
フォーリアさんが寝ぼけ眼でこちらを見てくる
「夢の中に出てきてくれるなんて、嬉しいです……」
フォーリアさんが私の手を取ってベッドの中に引き込んでくる。
私はあっという間に彼の腕の中に閉じ込められてしまった!
「あ、あのフォーリアさん!」
「アマネ、どうか夢が覚めるまでこのままで……」
夢じゃない!夢じゃないですよフォーリアさん!
しかし彼の腕の中からは出ること叶わず、その心地よい体温に、私もいつの間にか眠りに落ちてしまうのだった……。
カーテン越しに差し込んでくる朝日に目覚めたころ。私はまだフォーリアさんの腕の中から動けずにいた。フォーリアさん、早く起きてください……!
まぶしい朝日にフォーリアさんも目を覚ましたのか、目をこすっている。
「ん、俺はまだ夢を見ているのか……アマネが腕の中に……。腕の中に!?」
フォーリアさんが私を腕の中から離し、距離をとる。
「フォーリアさん、おはようございます……帰ってきました……!」
「その髪の毛……女神の器として消えるという話は!?」
「もう心配いりません!プルウィアさまとお話したんです。彼女は私の中で人々を見守ると、そう言いました……」
「元の自分の世界より、こちらの世界を選んだというのですか……」
「はい、私はフォーリアさんの手を離したくなかったんです……それに、最後にあんなこと言うなんて卑怯ですよ!……私も、ずっとあいしてます……」
「アマネ……」
フォーリアさんはもう一度私をきつく抱きしめた後、やさしくキスをしてくれた。
外には雨が降り始めていた……。
次回で第一部完結です。
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