28.舞踏会、そして
そして舞踏会の、元の世界に帰る儀式の日はやってきた。
あまりに実感がない、今日でこの世界とはお別れ?
この王城での日々ともお別れ、フォーリアさんとも、もう二度と会えることは無い……。
ケイティーさんの愛する人の手を離してはいけないという言葉がぐるぐると頭の中を支配する。
でもどうやって?
結局私は流されるまま元の世界に送り帰そうとされている。
王城の大ホールには舞踏会の準備が着々となされていた。一段高くなったところにあるテーブルと椅子は私という主賓用の席だ。
ここからなら大ホールの全てを見渡すことが出来る。
フォーリアさんはというと、儀式を実際に行う礼拝堂の準備に忙しいようだった。
何やら床に図形を描いている?
「アマネさん」
フォーリアさんが気がついて顔を上げる。
「フォーリアさん、お疲れ様です。これは?」
「儀式用の魔法陣です。ここがアマネさんの世界への入口になります」
「召喚された時とはだいぶ様子が違いますね」
あの時は寝台の上で目覚めたはず……。
「そうですね、少し違った儀式になります。しかし大勢の祈りが必要なのは変わりません。舞踏会は人集めですね。もちろん、アマネさんにも楽しんでいただいたいですが」
「舞踏会なんて初めてですから、楽しみですよ!」
「それはよかったです」
フォーリアさんは笑顔を見せてくれる。
この笑顔を見るのも今日が最後……。胸が苦しい。
「アマネさん?ご気分が優れませんか?」
私の様子を見てフォーリアさんは心配してくれる。
「大丈夫です、今夜全ては終わります。元の世界に帰れますからね」
舞踏会用のドレスを着付けられ、髪の毛を結い上げられながら、ケイティーさんに言われる。
「アマネ様、今日が最後のチャンスですよ。後悔のないようになさいませ。」
「後悔のないように……」
「そうです。儀式が終われば、もう二度と会えないのですから……」
ケイティーさんは自分の愛しい人を思い返しているのか、それとも私との別れを惜しんでくれるのか、瞳に涙を浮かべていた。
結局何も言えないまま、出来ないまま舞踏会の開催時間になってしまった。
各地から招かれた貴族の方々が次々に馬車から降りてくる。その中には見知った顔もあった。シルヴァーホーク伯爵の一家、あれはシンボリ公爵家の一家、アレグリア嬢ももちろんいる。気合いの入った顔だ。やっぱりフォーリアさんが好きなのかな……。
私は主賓用の席で、来賓の方々が談笑しているのを見ていた。
クリスエス国王陛下がやってきて、舞踏会の開会を宣言した。
「この度の舞踏会は雨の巫女の労をねぎらい、また元の世界にお帰しするためのものである!存分に感謝を示し、楽しまれよ!」
わーっと歓声が上がり、弦楽団が音楽を奏で出す。すると来賓たちは次々ペアになって踊り出すのだった。
まるでそれはおとぎ話の中の舞踏会そのもので、夢のような光景だった。
私はと言うと花より団子と言った具合に主賓席にサーブされた食事に舌鼓を打っていた。こんな洋風なお料理ともお別れか……でも故郷の味が、お母さんの味が恋しいののも本当だ。帰るか、帰らないか。その選択権は私にあるはずだけれど。何も言えてない、何も出来てない。
フォーリアさんともう一度話さなきゃ……!
そう覚悟を決めて席を立ちフォーリアさんを探す。しかしタイミングの悪いことに、アレグリア公爵令嬢がフォーマルスタイルに前髪を撫で付けたフォーリアさんをダンスに誘っているところだった。
「あ、フォーリアさん……」
「雨の巫女様、この度は使命を無事果たされ、大変お疲れ様でございました」
「あ、ありがとうございます……。」
アレグリア嬢は私に丁寧に挨拶してくれた。私も返礼を返す。
「私はフォーリア殿下と踊りたかったのですが……」
「すまない公爵令嬢。私はアマネさ、巫女様と踊ろう」
アレグリアさん、ごめんなさい。でもこれだけは譲れないんです。
フォーリアさんと手を取り合い、練習通りにステップを踏んでいく。この密着には慣れないけれど、他の女の人とこんなに密着はしないで欲しい。私とだけ踊っていて欲しい。そんな醜い嫉妬心が湧いてきてしまう。フォーリアさんは同じように思ってくれている?
「フォーリアさん、踊り終わったらお話があります。聞いてくれますか?」
「?わかりました。ではあちらのテラスで」
フォーリアさんの示したのは人気のないテラスだった。
ステップ、ステップ、ターン。フォーリアさんは上手に私を導いてくれる。弦楽団の演奏が一段落し、今踊っていたペアは解散していく。
フォーリアさんは私をテラスへとエスコートしてくれた。
「アマネさん、お話とはなんですか?」
人気のない新月のテラスは星明かりだけが照らしている。私は思いきって切り出す。
「……私はフォーリアさんの手を離したくないです」
エスコートしてくれたその手をそのまま握って言った。
「……それはどう言う……」
「ケイティーさんに言われたんです!後悔のないように、愛する人の手は離してはいけないと!私はフォーリアさんが好きです。ですからこの手を離したくない!」
「…………」
長い沈黙。私はフォーリアさんの顔を見られなかった。
「ケイティーは俺にも同じ話をしました」
「ケイティーさんが……」
「でも俺の考えは違う。愛しているからこそ、この手を離すのです」
フォーリアさんは握った私の手を優しく解いて離した。
「俺もアマネが好きです。だからこそ、女神の器になって消えるようなことにはなって欲しくない……。
どうか、わかってくれませんか……」
「フォーリアさん」
私は泣いていた。同じ気持ちなのに、どうして一緒にいられないんだろう、どうして……。
フォーリアさんは私の涙を拭って、そっと抱きしめてくれた。
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