1.雨の女神、雨の巫女
天音の叫びがこだまする約1か月前、エピファネイア王国の王城にて―――
王城内の会議場、大きな楕円状の円卓に着いた国王と大臣達が会議を行っている。目下の議題は……
「もう雨が降らずにどれほどになる」
国王たるクリスエスが重い口を開いた。
「もうふた月ほどになるかと……」
集まった大臣たちの口も重く、ようやっとひとりが声をあげた。
エピファネイア王国はもとより雨の降らないお国柄で、時には干ばつが起こることもあった。
その度に神官たちも民たちも雨の女神へと祈りを捧げ、雨の恵みを得てきたが、此度の雨不足はその祈りも届かないようだった。
「ただ、祈りを捧げるだけでは足りないというのか……!」
「かくなる上は生贄を」
「なんと非人道的な!生贄など野蛮人の行いだ!」
会議は踊り、結論は出ず……このままでは干ばつにより畑は干からび民草の苦しみは増すばかりである。
そこに第一王子たるフォーリアが一石を投じる。
「陛下、少々よろしいでしょうか。」
「なんだ、フォーリア。申してみよ」
「はい、私は過去の文献を調べてみたのですが、雨の女神、ないし巫女を召喚する儀式を行うべきではないでしょうか」
途端にざわつく会議場内だが、フォーリアは顔色を変えず続ける。
「これはおおよそ200年前に行われたことですが、雨の女神への祈りの儀式を拡大させることで、女神自身を降臨させることができるというものです」
確かにそのような伝承がこのエピファネイア王国にはある。
「実際に召喚されたのは女神ではなく巫女のようでしたが、その巫女はしかとこのエピファネイアに雨の恵みを授けたとあります」
滔々と語るフォーリアに大臣たちも圧倒され始める。
渋面のままの国王クリスエスであったが、遂に重い口を開いた。
「……こうなってはどんな邪法でも縋るしかあるまい。フォーリア、提案したからにはお前が一切の段取りを整え、召喚を実行せよ」
「はい、仰せのままに」
雨の女神への祈りの儀式とは王城内の礼拝堂で行われる。神官たちが集まり祈りを捧げるものだが、今回の召喚の儀式にはもっと多くの人々の祈りが必要になる。
神官たちだけでは足りない、貴族たち、あるいは平民たちさえこの王城の礼拝堂に招き、祈りを捧げさせる。
準備のためにフォーリアは奔走することになるのだった。
―――時は現在に戻る。礼拝堂の中は女神がついに降臨なさった、巫女が現れれば安泰だとお祭り騒ぎの様相を呈している。
フォーリアに事の顛末を聞かされて天音は頭を抱えた。
「わ、私女神でもなんでもないです……ただの女子高生で……」
「では、巫女ということでよろしいのですね」
「いや巫女さんでもないというか……そんな雨を降らせる能力とか……ないとは言いきれないですけど……」
天音は自分の雨女っぷりを思い出して口ごもる。
「ではやはり貴女こそが雨の女神の巫女なのでしょう、どうかこの国をお救いください」
こんな雨女ってだけで……責任重大すぎるよ!!!