15.巫女の結末
私が女神さまの声を聞いたとあって、ますます公爵家は熱気を帯びていた。熱狂と言っても過言では無い。
私に供される食べ物や衣服はますます豪華になり、向けられる感情は尊敬から信仰に変わっていくようだった。
流石に居心地が悪い。私はただの女子高生だったはずなのに……。
ケイティーさんやフォーリアさんは私の困惑を悟ってくれたようで、明日には王都に帰りますから、と励ましてくれた。
「雨の巫女様、此度の逗留誠に光栄にございました。また何時でもおいでくださいませ」
シンボリ公爵が私に向かって跪き挨拶をする。
「……はい、またお世話になりますね……」
なんとも言えない気分になりながら馬車へと向かった。
「フォーリア殿下、我が領地に御用の際はまた私をお呼びくださいね。」
アレグリア公爵令嬢もフォーリアさんに挨拶していた。
「はい、公爵令嬢も息災で」
素気無い挨拶にアレグリア嬢の表情が悲しみの色に染まっているのがみてとれた。
その気持ち、わかります。
馬車に乗り込む時、フォーリアさんがエスコートしてくれた。
「……はぁー……」
「アマネさん、お疲れ様でした」
「女神さまも楽じゃないですね……」
深い溜め息を吐いた私をフォーリアさんもケイティーさんも苦笑して迎えてくれた。
「王城では思い切り羽を伸ばしてください。ロザリンド辺りがお茶会をしたがるでしょうから、付き合ってやってください」
「お茶会、いいですね。気兼ねなくお喋りがしたいです」
公爵邸では女神さまの如く扱われて上手く言葉が出なかった。お喋り上手そうなロザリンドさんとのお茶会は魅力的に思えた。
「それまでは私がお相手しましょう」
「本当ですか?ちょっと聞いてみたいことが……」
「はい、なんでしょう」
私はおずおずと切り出す。
「200年前の雨の巫女さんにも、女神さまの声が聞こえたんでしょうか?」
「…………」
フォーリアさん曇り顔で黙り込んでしまった。どうしよう、話題を間違えた……。
「200年前の文献は劣化が激しいと言いましたが……」
「はい」
そういえばそうだったと思い出す。
「あれは嘘が混じっています、すみません」
「そうなんですか?」
「巫女がどんな人物だったのか、人となりが分からないのは本当です。しかし巫女がどのような顛末を辿ったのかは確と記されていました」
フォーリアさんはまるで懺悔をするように語り出す。
ケイティーさんの表情には変化がない。神官だから、元々知っていたのだろう。
「顛末……」
「結論から言うと、200年前の巫女は使命を果たして自分の世界に帰りました」
「帰れるんですか!?」
つい大きな声が出る。自分の、元の世界に帰れる。……お母さんにも、また会える。
「はい、ですからアマネさんの事も元の世界にお帰ししてみせます」
真剣な目付きでフォーリアさんに見つめられる。くろい瞳は決意の色に染まっていた。
「ですからアマネさんは安心してくださいね」
なんだかはぐらかされた感じもするけれど、フォーリアさんの真剣さに気圧されてそれ以上は何も聞けなかった。
王城の城下町に入ると、行きとは比べ物にならないくらい多くの人たちが集まっていた。
フォーリアさんにお伺いを立ててから、選挙カーのウグイス嬢めいたお手振りをまた行ったのだった。
「フォーリア兄!巫女様!おかえりなさーい!」
「おかえりなさいませ!」
王城に着くとロザリンドさんとシーリアさんが出迎えてくれた。
「ロザリンド、シーリア。変わり無かったか」
「はい、フォーリア兄。お疲れ様でした。巫女様も!」
「ありがとうございます。ロザリンドさん」
「巫女様、よろしければお茶会しませんか、私とシーリアと!姉妹水入らずというやつです!」
「えっ!」
「……ロザリンドまでそんな戯言を……」
フォーリアさんに咎められて、てへと舌を出すロザリンドさん。フォーリアさんは妹さんには強く出られないみたいです。
「さ、行きましょう巫女様!」
「シーリアもお供します!」
二人に左右から挟まれて私は連行されるのだった。
お茶会専用のサロン、円卓に並べられた紅茶が良い匂いを醸し出している。あれは、テレビで見たアフタヌーンティーで出されるお菓子のタワー!
温かい紅茶が全身に染み渡り、お菓子の甘さは疲れを溶かして行くようだった。
「単刀直入に〜フォーリア兄とはどこまで進みました?」
一通りお茶とお菓子を堪能したころ、ロザリンドさんが爆弾発言をする。私は紅茶を吹き出しかけた。
「えっ、あのえっと!」
「ふふ、冗談です。フォーリア兄は堅物ですから何も無いでしょう?」
(お姫様抱っこまではありましたとは言えない……!)
「でもただ単にからかってる訳じゃないんです。巫女様のことを見るフォーリア兄は今まで見た事ない柔らかい顔で……。きっと巫女様が好きなんだと思います。フォーリア兄には好きな人と幸せになって欲しいんです。」
「フォーリアさんの気持ちは分かりませんが……ロザリンドさんも思う方がいるんですよね」
「はい!リョテー国のオルフェ王子です!金色の御髪に輝くかんばせで……結婚するなら好きな人がいい」
ロザリンドさんは真剣な顔になった。
「私たち王族の結婚は政治です。お父様のことですから、フォーリア兄の婚約者は、国内の令嬢を娶って国内での地位を固めるか、よその国の姫を娶って国交に繋げるか、どちらかでしょうね。そこにフォーリア兄の気持ちは無い」
ご兄弟のからかいは兄を思う心から来ていたのだろうかと、少し納得する。
「国内の令嬢ではアレグリアは有力候補でしょう。巫女様も会いましたよね?あの子もバリバリ狙ってますからね!」
「……確かに」
神殿での二人のやり取りを思い出す。なんとなくモヤモヤしてしまった。そんな権利、私には無いはずなのに。
第一王子のフォーリアさんの婚約者ということは、将来の王妃様ということだ。私は使命を果たして元の世界に帰るんだから、関係の無いこと、のはずで……。
「巫女様、アレグリアに負けちゃダメですよ!!」
「はっはい!」
勢いで返事してしまった。フォーリアさんは私なんかでいいのかな……。私は……。確かに胸を高鳴らせる時に思い出すのはフォーリアさんのことばかりだ。
これが、好き、ってことなのかな……?胸が苦しい。
「? アマネお姉様?なにか辛いことがありましたか?」
シーリアさんが私の顔をのぞきこんで心配してくれた。
「なんでもないですよ!ちょっと疲れが出たかもです」
「ではそろそろお開きにしましょうか、巫女様」
フォーリアさんは誰と結婚することになるんだろう……。
なんだかモヤモヤとした気持ちのまま、お茶会はお開きになったのでした。
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