14.雨の神殿
翌日、朝食を頂いたあと早速神殿へと向かった。
公爵邸からは少し距離があるということで馬車での移動になった。王国近衛騎士団に公爵家の騎士も加わった隊列が、女神の神殿へと歩を進める。
やがて、白亜の神殿が姿をあらわす。王城にも引けを取らないような立派な建物だ。
「これが、雨の女神様の神殿……」
「はるか昔よりこの地にあります。かつては女神のお住まいでした」
案内役を買ってでてくれたのはアレグリア伯爵令嬢だった。
「多くの神官がここに仕え、毎日祈りを捧げています」
なるほど多くの神官がすれ違いざまにこちらに深々と礼をして通り過ぎる。
「本来ならば召喚の儀式もここで執り行うものですが……」
アレグリア公爵令嬢が少し拗ねたような物言いになる。
「それはすまない、公爵令嬢。王城の方が何かと融通が利いたもので」
フォーリアさんが釈明する。
「気軽にアレグリアとお呼びくださって構いませんのに……」
あれ?これは……。なんだか既視感のあるやりとりだなと思った。
「公爵令嬢、お戯れを」
「殿下が私に礼を尽くす必要はありません、どうぞ気楽になさってください」
これは私とフォーリアさんがしたやり取りそのものじゃないか……。アレグリア嬢の心情が何となく見えてきた。
そんなこんなでいっそう大きなホールに案内される。王城のものをさらに一回り大きくしたような礼拝堂だ。
その一番奥には、やはり高いところに椅子が。ただしこちらは石造りだ。
「では巫女様、どうぞ女神の座へ」
「え、いいんですか?」
「200年前の巫女もそうなさっています。どうぞ女神の座で、雨のお恵みをお願いいたします」
王城の礼拝堂の椅子に座る時も少し緊張したけれど、今度はさらに緊張する。
高いところにあるので階段をやや暫く登らなければならない。これは女神さまも大変だろう。ようやく椅子に着いて、座る。
やはり落ち着く感じがするのはなんでだろう。
礼拝堂の中には神官たちが詰めかけ、祈りを捧げているようだった。
そうだ、雨を降らせないと。今までは屋外で祈ってきた。屋内から祈りを届けられるだろうか、それに特別な日でもない。いささか不安はあるが、やってみるしかない……!
(雨の女神さま……どうか力をください……)
目を瞑る。胸が高鳴る何かを思い出さなきゃ……。やっぱり約束が果たされたあの時……、『アマネ、雨を降らせてくれ!』ドキドキ。フォーリアさんにお姫様抱っこされたあの時、お顔が近くて、くろい瞳の中まで見えて……ドキドキ。『アマネ、おやすみなさい』不意に呼び捨てにされたあの時……ドキドキ。
胸が高鳴る、ドクドク。なんだか全身が温かい。ドクドク、水を空にくみ上げて、雲が集まって、雨が降り注ぐ―――
(……が……よ……)
え?誰かの声がする……
(……我が……巫女よ……)
もしかして、女神さま?
(……我が名は……プルウィア……)
プルウィア……聞いたことがない。女神様の名前?
(…………よ…………どうか…………)
声はそのまま遠ざかってしまった。
ハッと目を開く。神殿の外からは雨の降る音が聞こえてきていた。よかった、雨を降らせられた……!
でも、今のは一体……?椅子からなんだか離れ難い気もしたが、ずっとここにいる訳にもいかないのでドレスの端を摘んで慎重に降りていった。フォーリアさんとアレグリア公爵令嬢が出迎えてくれる。
「雨の巫女様、お見事でございました。お恵みをありがとうございます」
アレグリア嬢が深々と頭を下げる
「アマネさん、お疲れ様です」
フォーリアさんも労わってくれる。
少し迷ったけれど、さっき起こったことについて意を決して聞いてみる。
「あの、少し聞きたいことがあるんですが……。雨の女神様のお名前って……プルウィアさま、ですか?」
「!それは王家と公爵家にのみ伝えられるものですのに……!どこでお聞きに?」
アレグリア嬢が驚きを隠さず、フォーリアさんを窺う。
フォーリアさんも驚きつつ首を横に振る。
「今しがた……祈っていたら誰かの声が聞こえて、プルウィアと名乗ったんです……」
私は起こったありのままを話す。
「それは間違いなく女神様のお声でございます!ああ、やはり再臨の日は近い……!」
アレグリア嬢は私の両手をとって、恍惚として答えた。
私、女神さまの声を聞いた……?
呆然とする私を、フォーリアさんが苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。
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