13.女神の伝承
シンボリ地方はシルヴァーホーク伯爵邸から北西にある。シンボリ公爵家を目指して隊列は進む。
また到着は夜になるらしい。長い時間をフォーリアさんと面と向かって過ごすのはなんともむず痒い。
どんな話を振るべきだろうか……。
「あ、あの……」
「はい、なんでしょう」
「フォーリアさんって、こ、婚約してる方とかいるんですか……あ、変な意味じゃないんです!!ヴァイオラさんはもうお嫁に行ってますし、ロザリンドさんも結婚の話をしてたので!!」
あまりに変な話題を振ってしまった気がする……!ケイティーさんが頑張れというふうにウインクをしてくる。
「それは……今のところはいません。父上の決めることです」
「そ、そうなんですね……」
「父上は国にとって有益かどうかで決めるでしょう。私もそれに従うつもりです」
「……フォーリアさんの気持ちは、大切じゃないんですか」
「王族ですから、全ては国のため、です」
フォーリアさんも私と同じ。使命に縛られているんだ。国のためには自分の気持ちも押し殺さないといけないかもしれない。
「そういえば、フォーリアさんは士官学校を主席で卒業したとか」
「ああ、そうですね。王子は士官学校に入学し軍に籍を置くのがしきたりなのです」
「ではフォーリアさんも本来なら軍に?」
「ええ、ですが雨の巫女の召喚はそれよりも優先されます。アマネさんに仕えることが今の私の責務です」
婚約者の話からはそらすことが出来た。そのあとも取り留めのない話をしながら、馬車の振動に身を任せて過ごすのだった。
「ここからが公爵領です」
窓の外を見ていたフォーリアさんが告げる。
外を見るとグラス地方よりは緑が多いように感じた。
「グラス地方より干ばつの影響は少なそうですね」
「ええ、やはり女神への信仰心がそうさせるのでしょうか」
「そういうものなんですね……」
エピファネイア王国に干ばつを起こす雨の女神さまは、なんて気まぐれなんだろうと少し思っていたけれど、実はそうでも無いのかもしれない。信仰心のあるものには恩恵を与えている?
日が暮れかけた頃、シンボリ公爵邸へと到着した。一番に出迎えたのは意外にも一人の令嬢だった。
「フォーリア殿下、雨の巫女様、お待ちしておりました。遠路はるばるありがとうございます。」
眩いばかりの金髪、陶器の如き白い肌を持つ彼女は、赤いドレスの端を持ち上げ、膝を折る丁寧な挨拶をした。
「これはアレグリア公爵令嬢。わざわざ出迎えをありがとうございます。こちらが雨の巫女様のアマネ様です」
フォーリアさんはそれに応えると、私を紹介してくれる。
「アマネ様、当家はずっと、200年間雨の巫女様をお待ちしておりました。どうぞ我らに女神のお恵みをお与えください。」
「は、はい。頑張ります」
200年と言えば以前にも召喚されたという雨の巫女のことだろう。そんなに長い間待たれていたと思うと責任がぐっと肩にのしかかる。
あとからシンボリ公爵と夫人がやってきて同じように挨拶が交わされる。シルヴァーホーク伯爵とは打って変わって、物静かそうで細身な公爵は、私の事はまるで女神の代理のように丁重に扱った。なるほど女神信仰の篤い土地柄だけある。
晩餐会でも私だけ一段高い特別席で、神官の方々が食事をサーブしてくれる。本当に女神になった気分だった。
「シンボリ公爵、どうか雨の巫女に女神の伝承をお聞かせ願えないでしょうか」
晩餐が一段落した時、フォーリアさんが言った。
「それは、……恐れ多いことです」
「私何も知らないんです、どうか教えてください!」
私は頭を下げてお願いした。
「では恐れながら……」
そうしてシンボリ公爵は語り始めた。シンボリ公爵の語るところによると―――
雨の女神はこの世界の始まりに天から現れ、世界を水で満たしたらしい。水の中にはやがて生命が生まれた。やがて陸地ができたあと、女神は地に降り立った。水の中の生命はやがて陸に上がり、自らの姿を女神に似せて変えたらしい。これが今も生きる人間になったのだとか。
学校で習った進化論に近いなと私は思った―――
やがて女神は人々の願いを聞き届けるようになり、崇められるようになった。しかしやがて人々は女神の言いつけに背くようになる。そうすると女神は自ら天に帰ってしまった。しかし女神はこうも言い残した。地上が再び信仰心で満ちた時、その時わたしは再臨するでしょう……。
「女神の言い残された通り、信仰心で地上が満ちる時、女神の再臨を私たちは待っているのです」
公爵は熱の入った声で、そう語った。
「200年ぶりに女神の巫女が召喚され、まさに世は女神への信仰心で満ち始めています。此度こそは再臨の成るように、ひたすら祈るのみです。明日は神殿をご案内しましょう」
語り終えた公爵はどこか陶然としたひとみで私を見つめるのだった。
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