12.シンボリ地方へ
伯爵邸に戻ると、シルヴァーホーク伯爵が上機嫌で出迎えてくれた。
「いやはや、巫女様は誠に慈悲深くあらせられる。日に二度も奇蹟を起こしてくださるとは……! 」
フォーリアさんが微妙な顔で伯爵を見つめていた。
「今宵は盛大な晩餐会と行きましょう!最高の食材を用意してありますからな!」
「あ、それは……」
民に申し訳ないと辞退したかったのだけれど、押し切られてしまった。ここはご褒美として受け取っておこうかな……。
晩餐会では宣言通りに、豪華な料理で食卓が彩られていた。
「巫女様は素晴らしい力をお持ちですな!ぜひともその神秘の一端を知りたいものです!」
「えっと……それは企業秘密で……」
あははと笑って誤魔化す。その後も何度も伯爵は私の力の秘密を知りたがり、フォーリアさんに咎められていた。
でもこの広大な土地に畑がある領地なのだ、雨を降らす方法が知りたくて仕方ないのも頷ける話だった。
伯爵はなにも知れずに残念そうにしていたが、晩餐会はお開きになった。
晩餐会が終わり、部屋までフォーリアさんがエスコートしてくれた。お姫様抱っこ事件もあって、いつもより落ち着かない。熱さが手から伝わっていないだろうか、心配になる。
部屋の前まで着いて、フォーリアさんが口を開く。
「シルヴァーホーク伯爵は不敬です、気に入らない。もっとアマネさんに感謝して然るべき立場なのに……」
フォーリアさんは何度も探りを入れた伯爵にご立腹のようだった。
「まあまあ、フォーリアさん。私は気にしてませんから」
「長居は不要です。明日には伯爵邸を発ちましょう」
「王城へ戻ります?」
「いえ、このままシンボリ地方へ寄ろうかと」
「たしか神殿があるんですよね」
シーリアさんとの勉強会を思い出す。女神信仰が盛んな地域だったはず。
「あそこには数々の女神の伝承があります。アマネさんのお力になれるかもしれません」
「私を気遣ってくださるんですね、ありがとうございます!」
「……雨を降らす使命を課してしまったのは私です。少しでも力になりたいのです」
フォーリアさんが少ししゅんとする。まだ罪悪感を持ってくれてるんだ。
「でも、フォーリアさんのおかげで雨が降らせられたんですよ!」
「アマネさん……」
「また、呼び捨てにしてくださいね」
するとフォーリアさんは少し逡巡して口を開いた。
「……アマネ、おやすみなさい」
「……っ!おやすみなさい!」
不意にこられるとドキドキする。どうしよう、雨が降ってきたら……!私は素早く部屋に引っ込んだ。
部屋に引っ込んだ私はお風呂に入った。今日一日かなり雨に濡れたから、体の芯まで温まってほっとする。
お風呂から上がるとケイティーさんがタオルを持って鏡台の前で待っていてくれて、私の長めの黒髪を拭いてくれる。この世界はドライヤーがないので不便だ。
「アマネ様、雨を降らせられたのはフォーリア殿下が切っ掛けなのですか?」
「!? 」
急な問いかけにビクッとする。
「後でお話してくださると仰っていたではありませんか」
そういえばそうだった……。神官さんなんだし、ケイティーさんには話した方がいいよね。
「どうやら胸の高鳴りが雨を降らせてくれるみたいなんです」
「胸の高鳴り……」
そこでケイティーさんにフォーリアさんとしていた約束のことを話した。
「フォーリアさんに気安く話して貰えて、特別な日になって胸が高鳴ったというか……」
「なるほど、そうなのですね……! 」
ケイティーさんがやけに嬉しそうだ。
「若い男女おふたりですものね、立場があれど惹かれ合うこともありましょう、ええ! 」
あれ!?なんか変な方向に話が……!
「ケイティーさん!? 」
「このケイティー、何があろうとおふたりを応援しておりますからね、なんでもご相談くださいね! 」
これでも恋愛には一家言あるのです!と自信満々に胸を張るケイティーさんに水を差すのもはばかられて、私はありがとうございますと返事をしておいた。
私が、フォーリアさんと、男女の仲に……?
考えただけで顔から火が出そうになって思わず鏡台につっ伏すのだった。
さて、夜が明けて朝。伯爵邸で朝餉を頂いたあと、私たちはシンボリ地方へ向けて再び旅立った。
馬車の中では向かいにフォーリアさんがいる。昨日ケイティーさんに言われたこともあってまたまともに顔が見られない。どうしよう……。とにかく窓の外の景色に集中してる振りをしておいた。
チラッと見るとフォーリアさんはいつもと変わらない涼しい顔をしていたのでちょっと憎らしくなった。
評価、感想、ブックマークありがとうございます。是非お待ちしております!
明日も12時頃投稿です。




