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9.シルヴァーホーク伯爵邸

 城下町を出てしばらくは王家の領地だそうで、そこを抜けるとシルヴァーホーク伯爵領になるそうです。

「直ぐに畑だらけになりますから分かるでしょう」

 とはフォーリアさんの談。

 ガタゴトと揺れる馬車の振動は電車の中を彷彿とさせて心地よく、眠くなってしまう。

「ここからが伯爵領です。……お休み中でしたか。」

 フォーリアさんに声をかけられてビクッと飛び起きた。

「あ、いや!起きました、すみません……」

「いえ、アマネ様も慣れない旅でしょうから休まれても構いませんよ」

 フォーリアさんはそう言ってくれたけど、実際に雨を降らせる地をしっかり見ておかないと……。

 窓の外を覗くとなるほど畑と思しき土地で埋め尽くされていた。しかしそこに緑は少なく、干ばつの影響をすぐに察することが出来た。

「これは大変ですね……。必ず、雨を降らせてみせます……」

 その光景は私の決意を新たにさせるのに十分だった。


「アマネ様、着きましたよ。」

 ケイティーさんが、優しく肩を叩いて起こしてくれた。結局あの後ずっと眠ってしまったらしい。……情けない……!

「フォーリア殿下がシルヴァーホーク伯爵と先にお話なさっています」

 馬車を下りると外は日が暮れかけて暗くなり始めていた。


「雨の巫女様!どうぞ我が領地までおいでくださいました!私がシルヴァーホーク伯爵です、どうぞお見知り置きを! 」

 フォーリアさんと話をしていた恰幅の良い白髪混じりの紳士に握手を求められる。両手でブンブンと手を上下される。この方がシルヴァーホーク伯爵、元気そうな方だ。

「遠路はるばるお疲れでしょう、今宵は我が館でごゆるりとお過ごしください! 」

「ありがとうございます、お世話になります」


 その後は一同晩餐で歓待を受け、貴賓室だという立派な部屋に案内された。

 晩餐の席で伯爵に言われた言葉を思い返す。

「明日は雨の巫女様の奇蹟をこの目で見るのを楽しみにしておりますぞ! 」

 その場では何とかはいと返事できたけれど、私はグッと口をつぐみかけた。

 そう、奇蹟を必ず起こして見せないと……。

 ケイティーさんに手伝ってもらって寝間着に着替えてベッドに入った後だったが、どうしても眠れない。もぞもぞとベッドから降りて、窓の方へ向かう。

 カーテンを開け、窓も開け放つ。空には雲ひとつなく雨など降りそうも無い晴天で星が綺麗に見えた。

「きれい……」

 東京では見ることの出来ない見事な星空に思わず声が漏れる。

 でも私のやるべきことは……。

(女神さま、どうか私に奇蹟を起こす力をください……! )

 手を組んで祈ってみるけれど、星空は曇らず綺麗なままそこにあるし、女神さまからの声が聞こえたりもしない。

 こんな調子で明日はどうすれば……とにかく何度も祈ってみる。

「女神さま!どうか私に雨を降らす力をください!」

 つい大きな声が出てしまっていたようで、隣室に控えていたケイティーさんを起こしてしまったようだった。

「アマネ様……明日が不安なのですか」

「はい、最初に雨が降ったのも、偶然としか思えなくて……全然自信が無いんです!このまま何も出来なかったらどうしようって……皆の期待を裏切るのが怖いです……」

 堰を切ったように不安な気持ちが言葉になってあふれ出る。ケイティーさんはただ静かに聞いていてくれた。

「では、私も共に祈りましょう。雨の女神よ、どうか明日は巫女に力をお与えください……」

 ケイティーさんも手を組んで祈ってくれる。

「ケイティーさん……」

 そうして開け放した窓の前でふたり祈り続けていた……。


 そのあと、ベッドの中で少しウトウトしたのみで迎えた朝、目の下にはクマが出来ていた。

「少しは眠れましたか?アマネ様」

「ケイティーさん、おはようございます。あんまりです」

「こちらを飲んで少しでも心を落ち着けください」

 そうしてケイティーさんはいい匂いのするお茶を出してくれた。ハーブティーだろうか。お腹の中から温まって少し気分が落ち着いた。

「アマネ様、あまり気負わずに、きっと女神様は応えてくださいます」

「はい、ありがとうございます。」


 ケイティーさんに身支度を手伝ってもらって、朝食の席に顔を出すと、フォーリアさんが駆け寄ってきてくれた。

「アマネ様、お顔に隈が……」

 まなじりの下がった心配そうな顔。

「少し眠れなくて!でも大丈夫です、お役目は果たします!」

「体調が悪ければ無理なさらず仰って下さいね……アマネ様……」

「はい、ありがとうございます!」

 少し空元気で返事をした。

 幸いにも伯爵や夫人、子息たちは私の顔のクマには気づいていないようで、これから目にする奇蹟が待ちきれないという様子で朝食の席はお開きになった。


 さあ、いよいよだ、私は必ず雨を降らせなければならないのだ。


 近衛騎士団や伯爵や伯爵夫人と子息たち、伯爵家の家臣たち、さらには領民の野次馬に囲まれて、伯爵邸の前に立つ。傍らにはフォーリアさんケイティーさんがいてくれる。

 やれる。やらなきゃ。

 胸の前で手を組んで、祈りを捧げる

(雨の女神さま、どうか、どうか雨を降らせてください……)


 しかし無情にも空は、雲ひとつないさまをそこに示し続けているのだった……。




評価、感想、ブックマークありがとうございます。大変励みになります。

次回も12時頃投稿予定です。

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[良い点] 雨が……降らなかった!? ものすごく気になる引き方で続きが気になります! 一体天音はどうなってしまうのでしょうか。どんな心情に、周りはどんな反応になってしまうのか、そのときフォーリアさん…
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