プロローグ
雨、雨、雨―――。
私の記憶にあるのは雨ばかり。
幼い頃に行った海水浴も、休みの日に友達と行った某テーマパークも、入学試験も入学式も卒業式もとにかくみんな雨の日!私の楽しみにするイベントの日は必ず雨が降った。
こんな生粋の雨女、未城天音は今日で18歳。
もちろん記念すべき誕生日である今日も雨。
学校帰りに降り出した雨に、いつも必ず持ち歩いている折り畳み傘を差して家路を急ぐ。
今日は私の誕生日、多分お母さんが私の好物を晩御飯に用意して待っててくれるはず。
楽しみな気持ちに反比例するように激しくなる雨に負けないように、折り畳み傘を低く持って体をなるべく覆い隠そうとするけれど、無駄みたい。
吹き付ける雨風は横から私の体を濡らしていく。体が濡れていく気持ち悪さに気を取られてうんざり。背中まで伸ばした黒髪も濡れて顔に張り付いて鬱陶しい。
だから私は気づかない、交差点の信号、歩行者用のものはまだ赤を示していることに……。
パパーッ!!大きな音が危険を告げている。
気づいて振り返るとそこにはトラック。
そのトラックが私の濡れた体を吹き飛ばす。
吹き飛んだ私の体が地面に叩きつけられた。頭がズキズキと割れるように痛い、実際割れているのかもしれない……。体が濡れた感触は、雨に濡れているのか、もしかして血濡れになっているのかもわからない。
仰向けに倒れる私の顔に空から容赦なく雨粒が叩きつけられる。
私の人生、これで終わりかあ……。最後の日まで雨なんて、なんて徹底してるんだろ、笑っちゃうよね……。
私は自嘲の笑みを浮かべつつ、遠ざかっていく意識に身を任せた。
「やった!女神が目を覚まされた!!!」
「ああ!これで救われる!!」
「やっと巫女が我が国に……」
なんだろう?大勢の人の声……それになんだか体が温かい。さっきまで雨水と血とで濡れて冷え切っていたはずの私の体はほのかに熱を帯びているようだった。
「嗚呼、雨の巫女よ、どうか我らにお恵みを!!」
いつの間にか白い布を纏うようなドレスを着て、豪奢な寝台に横たわっていた私は、傍らにいた人々が口にする言葉に呆然とするばかり。
雨の巫女?女神?なにそれ?ていうか私トラックに轢かれて死んだんじゃ……!
そこへカツカツと靴音を響かせて美丈夫が現れる。浅黒い肌に漆黒の髪の毛。右肩にマントの付いた白い服を着た、そう、まるでなにかの漫画や映画に出てくる王子様みたいな……
「巫女よ、いきなりの召喚、不躾とは存じますがお許し下さい。私はこのエピファネイア王国の第一王子、フォーリアと申す者。どうかこの国に雨のお恵みをお与えください……!」
王子様は跪いて名乗り、私の手を取った。
巫女?召喚?エピファネイア王国??
雨の恵みを与える……?何が何だか分からない。私はこの王子様に何が重大なことを頼まれていることだけ何となく理解した。
「わ、私 ただの雨女ですけど!?」
城中に私の声が響き渡るようだった。