1,出会い
「おい、トカゲ混じり。こっちに来んな、汚たねぇから」
森の端のほうでキノコを採っていたら、突然背後から声がした。
『トカゲ混じり』と呼ばれたことにまたか、と思いながら、バスケットを持って立ち上がり振り返る。
「………私にはリリュカっていう名前があるんだけど」
「なんか言ったか?」
「……なんでもない。で、何?」
振り返った先には、予想通りの人物がいた。
「なっ! この俺がわざわざ声をかけてやったんだ、もう少し感謝しろよ!」
「そうだそうだ!」
「跪けよ! ビルさまの前だぞ!!」
ビルという名の少年とその取り巻きの三人組は、事あるごとに私に突っかかってくる。
わあわあと騒いでいる3人を無視し、私は踵を返した。
それにいち早くビルが気づき、声を上げる。
「あっ、トカゲ混じり! どこ行く!」
「どこって。帰るんだけど。何? まだ用あるの? それとも私の家まで付いてくるの?」
「っ!!」
冷たく言えば、3人は押し黙った。その隙に、さっとその場から走り去る。そして、誰もいない森の中でやっと足を止めた。
「はあ。やっぱり村に近づかない方がいいわね。馬鹿に何されるか」
ここまで来たらもういいだろうと思い、ずっと目深に被っていたフードを取った。
私は、自分の容姿をあまり人目に晒さない様にしている。なぜなら、他人と違いすぎるから。
肩までの銀色の髪。蒼玉の瞳。
そして───
身体の一部を覆う、鱗。
瞳と同じ色をしたそれは、陽の光をあびて、キラキラと輝いている。
身体の左側にある腕くらいの太さの鱗の線が、左の眉尻あたりから、左の足先までを覆っている。
腕の外側が鱗に覆われているから、間違えて左腕を出せば、すぐに〝人間ではないモノ〟とバレてしまう。
その場合、大変面倒くさいことになるため、極力肌を晒さないようにしている。
「さっさと帰ろ。3日分の食料は確保できたし」
私の家は、森の少し奥に入った所にある。昔、そこには老夫婦が住んでいた。けれど、旦那さんが亡くなったことがきっかけで、家を移ることにしたそうで、そこに私が偶然通りかかったのだ。
私はちょうど家を探していたので、物々交換で譲って貰った。対価は、私の剥がれた鱗。
私の鱗はどうやら希少な素材になるらしく、高値で売れる。なので、おばあちゃんに鱗10枚と交換してもらった。
今では、私の大切な家だ。
◈ ◈ ◈ ◈ ◈
「ふう、着い、た……………?」
顔を上げた瞬間、呟いた言葉が消えた。
「ひと………?」
家の玄関の前に、所々紅に染まった黒の物体が倒れていた。