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海底

作者: 茶羽 三郎

 目を開けると、目の前が青かった。そしてグラグラと動いていた。白い光が私の顔を、体を、包み込んでいた。あたり一面が宝石のようにキラキラと輝いていた。


 息が思うようにできない。吸ったら気体ではないものが口の中に勢いよく入ってくる。気体を吸い込もうとしていた私の体はびっくりして、これまた勢いよく体の外へ押し戻そうとしている。そんな思いとは裏腹に押し出そうとすればするほど、気体ではないものは体の中へ入っていく。私はいっそのこと気体ではないものを吸い込んだ。体の中がふわっと軽くなる。体の内側から私を包み込んで、ぎゅっと離さなかった。それでも私は心地が良く、気づかぬうちに安心していた。


 息ができないことばかりに意識を置いていたが、そういえば体も動かない。動かそうとするたびに体がズキズキと痛む。それだけでなく、体が重い。動きを妨げられている。


 そう、ここは水の中だ。その結論に至るのは遅くはなかった。なぜ私はこんなところにいるのだろうか。遊んでいたのか。誤って落ちたのか。わからない、わからないが、私の脳みそは体を動かすこと、気体をしたを吸おうとすることを諦めていた。


 水の中は美しかった。よく澄んだ青色が私を包み込んで離さなった。水と水との隙間から流れ込んでくる白い光が、水の中をさらに、美しく、さらに、儚く感じさせた。


 目線の先を見ると、大きな岩山が見えた。あそこから落ちたのかもしれない。堂々たる立ち姿とでも言おうか。どんな大きな波がきても、きっと壊れないであろう大きな岩山であった。岩山には見覚えがあった。きっと有名な岩山なのであろう。岩山には水とは違う別の美しさがあった。

 水が神秘であるなら、岩山は生命であった。


 急に私はハッとした。学校のことが頭の中を通り抜けたのだ。学校に行かなきゃ。だが、この思いの水の中では一瞬で泡となって消えていった。そんな中、私は前の記憶を少しだけ回想をしてみた。

 

 学校ではいつもクラスメイトに囲まれていた。みんなは私のノートに絵を描いたり、字を書いて遊んでいた。みんなの笑顔が、苦しいくらい眩しかった。私もきっと笑っていた。まず朝学校に行くと、下駄箱の中にはたくさんのプレゼントが入ってて、教室の机にもプレゼントが置いてあったり、花もたまに置かれていた。授業中は、クラスメイトのみんなが私の方に笑いかけてくれる。休み時間も時々トイレに誘ってくれる。でも帰りは一人で走って帰っていた。放課後は誰とも遊んでいなかった。家が好きだったのだろうか。


 私は回想を辞めた。おんなじような毎日だった。それだけではない。学校での自分が思い出せなかった。クラスメイトのことばかり思い出して、肝心な自分のことなんてわからずにいた。


 そのままゆったりとした水如く、ゆったりと時間は経過した。何時間経ったのだろうか。もしかしたらまだ数分しか経っていないのかもしれない。でも水の色はさっきの色ではなかった。青が濃くなっていた。体の中の水と体の外の水が飽和し、更に私を水の世界へと包み込んだ。あんなに苦しかった呼吸も、今はすっかり慣れてしまった。私は胸に手をあてた。毎日早かった心臓も今では水のようにゆったりとしている。


 私は静かに目を閉じた。そのまま私はゆっくりと水の中へ落ちるのだろうか。ようやく気づいた。ここは海の中だ。私は落ちていく。はじめに私を包み込んだ白い光も今は微かにしか見えない。このまま私は藍色の美しく、儚く、強い、海の底へ落ちていくのだ。ゆったりの水に包まれ、ゆったりとした時間の流れに自分の体を預けるのだ。ゆっくりと水に溶けていき、ゆったりと海の底へ儚く消えていくのだ。


 そのうち見つかるであろう。いじめを苦に、岩山から飛び降り自殺した私の姿が。海へ誘われるように身を投げた、美しく、儚い、少女の水死体が。


 私は海の底の宝石なのである。

この度は読んでいただき、誠にありがとうございました!!

最後は、驚く方もいらっしゃったと思いますが、もう一回読み返してみると、また別の視点で面白く読めるかもしれません。

また別の作品も書きますので、そちらも見ていただけると嬉しいです!


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