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夢魔族の秘密(シェリル視点)

 あの後も議題は続き、いくつかの方針が決まった。

 主に決まった内容としては、エミリアとバロンの処遇である。


 まず、エルフ族のエミリアは、リオンの元へ向かう事となった。

 そこで、人間との戦争に備えた準備を行って貰うのだ。


 何故なら、エミリアは前線基地で、副司令官の補佐官だった。

 人族の兵力に詳しい彼女なら、適切なアドバイスが可能だからだ。


 人間との戦争は、回避出来るに越したことはありません。

 しかし、私もディアブロも、それは難しいだろうと判断しています。


 次に、ドワーフ族のバロンはローズの元へと向かいます。

 こちらについては、本人の希望が強かったですからね。


 そもそも、今のドワーフ族は『花の都計画』に夢中です。

 大魔王様の臣下として、バロンに纏めさせるのが無難と思われます。


 次期族長のバロンなら、ドワーフ族の未来を考えられる。

 決して、大魔王様の期待を裏切る判断は行わないはずです。


 そして、私はその決定をローズへとるべく『鏡の間』へと訪れていた。

 対となる『魔法の鏡』と、通信を行う為に。


「こちら、シェリルです。聞こえていますか?」


 魔力を流して、『魔法の鏡』を起動する。

 恐らくは、こちらが起動した事が、向こうにも伝わっているでしょう。


 そして、それ程の時間が掛からず反応が返って来た。

 鏡に映る姿は、私からローズの物へと変わる。


 紫のドレス姿はいつも通り。

 勇ましくも妖艶な姿で、ローズが私に微笑みかけた。


『ええ、聞こえているわ。フロード達の件かしら?』


 私はローズ本人が現れた事に驚きを感じます。

 通信担当のメイドが現れ、ローズを呼びに行くと思っていたからです。


 ローズがすぐに表れたのは、通信を予想して待機していたから。

 どうやら、彼女もフロード達の処遇が気になっていた様ですね。


「ええ、彼等の件もあります。ただし、そちらは問題が無いので後回しとさせて下さい」


『問題無いなら構わないけど……。他に何か重要なお話かしら?』


 ローズは不思議そうに首を傾げる。

 他の要件については、彼女も予想していなかったのでしょう。


 まあ、それもそのはずです。

 こんな話は、誰にだって予想できるはずが無いのだから……。


「ローズ……。夢魔族の女王である貴女なら、『誓いの紋章』を知っていますね?」


 私の言葉に、ローズの目が細められる。

 警戒心を露骨に示し、鋭い視線を私に向ける。


『ローレライに使うつもり? あれは私が禁呪指定したの。使うつもりは無いわよ?」


 やはり、ローズはその存在を知っていた。

 文献に残された『誓いの紋章』の存在について。


 だが、それも当然の事である。

 『誓いの紋章』を生み出したのは夢魔族なのだ。


 いや、正確に言うなら、ローズの先代である族長。

 色欲の魔王アシュメダイが、魔王国の支配に利用したのだ。


 そして、魔王国は大いに乱れ、混乱した。

 結果として魔王アシュメダイは、竜人族に粛清された……。


 私はローズにゆっくりと首を振って見せる。

 そして、自らの腹部に手を添えて告げる。


「いいえ、そうではありません。今、私に刻まれているのです。詳しい効果を教えて頂けませんか?」


『そんな、馬鹿な……。私以外の誰が――って、まさか大魔王様?』


 そういえば大魔王様は、歴代魔王様の魔法やスキルが使えるのでしたね。

 もしかすると、この『誓いの紋章』も使えるのかもしれません。


 しかし、今回の件には関わっていないでしょう。

 私はあの時の状況をローズへと伝えます。


「魚人族の領地で、大魔王様の救出劇がありましてね。その際に、神聖な気配と共に、天から声が届いたのです。言葉通りなら、感動したのでプレゼントを贈る、というニュアンスでしたが……」


『神聖な気配と共に、天から声が……。つまり、女神マサーコ様から?』


 ローズの問いに、私は曖昧に微笑む。

 可能性が高いと踏んでいるが、確定とは言えないからだ。


 女神マサーコ様は、大魔王様も崇拝する御方である。

 その御方が、ローレライの震える禁呪を私に贈るのだろうか?


 今の私には、女神マサーコ様のご意思がわからない。

 それ故に、贈られた意図を察しようとしているのである。


 そんな考えを察してくれたのでしょう。

 ローズはそれ以上を問わず、『誓いの紋章』について説明を始める。


『知っての通り、その禁呪は先代のアシュメダイが作り上げたの。通称、淫も……』


「止めなさい! その名は、口にしてはいけません!」


 ローズが口にし掛けた、その忌み名に肝が冷える。

 もし、誰かがこの通信を聞いていたら、どうするつもりなのか?


 伝承によると、その名を口にすると世界が別物に変わるという。

 場合によっては、抑止力により世界が消える事もあるのだとか。


 私の指摘に、ローズもハッとした表情を浮かべた。

 周囲を伺う様子を見せ、彼女は素直に頭を下げた。


『そうね、今のは軽率だったわ。今後は正式名称で統一するわね?』


「ええ、それでお願いします。危険を冒す必要は御座いませんので」


 私とローズは、周囲に変化が無い事にホッとする。

 そして、気を取り直して、彼女は説明を再開させた。


『紋章の効果は大きく三つ。一つ目は、決められた相手以外に、異性が触れられなくなる効果』


「ええ、そちらはローレライからも聞いております」


 こちらは特に問題が無い。

 大魔王様に触れる事も、触れられる事も可能と確認済みだ。


『二つ目は、決められた相手とは、互いに好みの容姿に見えるという効果』


「大魔王様からも、私が魅力的に見えていると?」


 ローズが頷く姿が見え、内心で私のテンションが上がる。

 知らない効果だったが、これはどう考えても嬉しい誤算である。


 大魔王様に好かれている考え、気分がどんどん高揚して行く。

 しかし、それを何とか抑え、ローズの話に再び集中する。


『そして、肝心なのが最後よ。――そうね、夜の営みが大変な事になるわ』


「大変な事……って、具体的には?」


 聞いて良いか不安になるが、聞かない訳にもいかないだろう。

 ローレライが恐れていたのは、この部分と思われるからだ。


 ローズは難しい表情を浮かべる。

 やはり、彼女もこの説明には抵抗があるみたいだ。


 しかし、意を決したように、私の問いに答えてくれる。


『要約すれば、貴女が大魔王様から離れられなくなるってこと。より具体的に言うなら……』


「ふむふむ、具体的な内容とは……?」


 声を落として、ひそひそと話すローズ。

 そして、詳しい話をしっかりと聞き、私はこう思った……。


 ――相手が大魔王様なら、別に良いんじゃないかな?


 なるほど、これはローレライが恐れる内容である。

 それと同時に、女神マサーコ様からの祝福であるのだと。


 ただ、唯一の懸念事項は、大魔王様に私が受け入れられるかだが……。

第十一章が終了となります。

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