表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/131

神殿

 微妙な空気が満ちる執務室。

 そんな空気を変える様に、シェリルがふと口を開いた。


「結婚式では、女神マサーコ様へ誓いを立てるのですよね。それでは神殿の建設が必要ですね」


「神殿の、建設……?」


 余りにも壮大な計画を打ち立てるシェリル。

 その提案に、流石にオレも呆然と立ち尽くす事となる。


 しかし、その提案にフロードが即座に反応した。


「確かに神殿は必要ですね。大魔王様が女神マサーコ様を信奉していると、皆に知らしめる為にも」


「うむ、確かにその通り……だな……?」


 周囲の皆が、なるほどと言う表情を浮かべていた。

 オレはその空気に呑まれ、疑問を感じつつも同調してしまう。


 すると、皆がそれぞれに意見を交わし始める。


「女神マサーコ様の神殿っすか。エルフ族なら木造建設なんでしょうけどね~」


「ドワーフ族なら鋼鉄製じゃろうな。だが、大魔王様なら金剛石でも使うか?」


「貧相な物を建てる訳にはいきませんね。大魔王様の威光にも関わりますので」


「うむ、女神マサーコ様の神殿なのだ。我々の感謝の念を、込めねばならぬな」


 何やら場が完全に盛り上がってしまった。

 今更、神殿はやり過ぎだろう等と言える空気では無かった。


 女神マサーコ様へ感謝の気持ちを届けたいとは思う。

 神殿を建てる事で、多くの人々に存在を広めたいとも思っている。


 しかし、オレ達の結婚式の為に、神殿を建てるのはどうだろう?

 それではまるで、時の権力者が権威を示す為にヤルやつではないか……。


 オレがモヤモヤした気持ちを抱いていると、この人物が唐突に動く。


「大魔王様! 神殿建設のその大任! どうか、このディアブロにお任せ下さい!」


「ディアブロ……?」


 普段は冷静沈着はディアブロ。

 クールな眼差しで、いつだって先を読んで行動する男である。


 そんな彼が、興奮した様子でオレに詰め寄って来た。

 オレに掴みかからんばかりの勢いで、その熱意を溢れさせる。


「かつて存在した神の権威! それが失われた世界の、なんと嘆かわしい事か! 今のこの世は、余りにも荒んでいる! 誰が世界を生み出したか理解していない! かつての輝きが蘇るなら! このディアブロにとって、これ以上の喜びは御座いません!」


「お、おお……。それ程までか……」


 余りの勢いに、オレは思わず後ずさる。

 ディアブロの熱意に、オレは飲まれてしまったのだ。


 それと同時に、冷静な部分で今の言葉に納得も感じる。

 ディアブロのかつて生きた時代は、人々が信心深かったのだろうと。


 ならば、ディアブロがプロジェクト管理者に適任か?

 彼に全てを任せれば、全て上手く行くのではなかろうか?


 オレはそう考え、神殿作りをディアブロに任せる事を決める。


「よかろう、ディアブロよ! お前の好きにするが良い! 必要な物があれば、遠慮なくオレに言え!」


「ははぁっ、大魔王様! 見る者全てが腰を抜かす! それ程の大傑作を、完成させてみせましょう!」


 いや、見る者全てが腰を抜かす大傑作とは何だ?

 それは本当に、女神マサーコ様を祭る神殿なのか?


 ディアブロの熱意に、若干の不安を覚えるオレ。

 そんな空気を読んだ男が、オレの前に慌てて跪く。


「だ、大魔王様! 僭越ながらその大任! このフロードにも手伝わせて頂けないでしょうか!」


「ふむ、ディアブロの手伝いか……」


 ホビット族のフロードは、非常に頭が良い青年である。

 その彼が、危機感を込めた視線で、ディアブロを見つめていた。


 愉悦の表情を浮かべ続けるディアブロ。

 興奮しすぎている為か、そんな視線にすら気付けていなかった。


 そして、フロードの手伝いと言う物良いが素晴らしい。

 ディアブロの顔を立てつつ、軌道修正を行うつもりなのだろう。


 そう、オレの直感が告げていた。

 フロードの判断に従う事が、この場合は正しいのだろうと。


 そして、オレはさっとシェリルへと目配せをする。

 オレの意図を察した彼女はコクリと頷き宣言した。


「それでは、フロード。大魔王様の配下として、初任務を命じます。ディアブロを補佐し、素晴らしき成果を大魔王様に捧げなさい」


「ははっ、承知致しました! その大任を、必ずや果たしてみせましょう!」


 そして、二人のやり取りにディアブロが気付いた様だ。

 おやっという顔をしつつも、フロードに対して笑みを向ける。


「おお、フロードに手伝って頂けるのですね? 貴方には期待しておりますよ」


「はい、ディアブロ様。若輩者では御座いますが、今後ともよろしくお願い致します」


 立ち上がったフロードの元に歩み寄るディアブロ。

 自然な仕草で、二人はそっと手を出し握手をする。


 どうやらこの二人なら、上手くやって行けそうである。

 魔族と人族が手を取り合う、成功例となってくれる事を期待するばかりだ。


 オレは良き形に収まってくれた事に安堵する。

 そして、神殿建設はもう止められないなと、流れに身を任せる事を決意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ