表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/131

神前式

 オレとシェリルの二人で、急に竜人族の里へ向かう事が決まった。

 その事を告げる為に、関係者をオレの執務室へと集めた。


 メルトとシェリル以外には、ディアブロ、フロード、エミリア、バロン。

 オレの説明を聞いた後に、ディアブロが不思議そうに首を傾げた。


「そもそも、親への報告など必要なのでしょうか? 別に許可など必要無いでしょう?」


 ディアブロの言葉に、メルトが激しく頷いている。

 そんな彼女には、シェリルの冷たい視線が突き刺さっていた。


 そして、ディアブロの言葉に反論したのがフロードだ。

 彼は理解を求めるように、ゆっくりと説明を行う。


「お忘れかもしれませんが、大魔王様は人間です。親戚付き合いも重視されるのでしょう」


「確かに貴方の言う通りですね。大魔王様が人間である事を、すっかり忘れておりました」


 ほがらかな笑みで笑い合う二人。

 そんな二人に釣られ、一同も笑みを浮かべていた。


 ……いや、すっかり忘れていたって。

 オレが人間以外の何だと言うつもりなんだ?


 モヤモヤとするオレを他所に、二人の話は進んでいく。


「特に大魔王様は、女神マサーコ様の使者と聞きます。全ての関係者を集め、神の名の元に誓いを立てるのではないでしょうか?」


「「「神の名の元に誓いを立てる?」」」


 魔族サイドの人々は不思議そうに首を傾げていた。

 エミリアとバロンの二人は、記憶を探る仕草を見せている。


 そんな一同に対し、フロードが苦笑を浮かべて説明を続ける。


「かつて存在した古い習わしですね。死ぬまで互いに愛し合うと、神様に対して宣言するのです。互いの愛が本物であると、周囲へ証明するそうですよ」


 フロードの説明に対し、一同が目を丸くして驚く。

 そして、オレに対して問い掛ける様な視線が集まる。


 どうやら、この世界では神前式が一般的ではないみたいだ。

 女神マサーコ様を思うと少し寂しいが、オレは仕方ないなと頷いた。


「ああ、オレの故郷ではそれが普通だった。オレの側は無理だが、メルトの両親には是非立ち会って貰いたいな」


「「「…………」」」


 一同の視線がメルトに集まる。

 それも何故だか、皆が沈痛な面持ちを浮かべて。


 そして、メルトは涙目になりながらオレを見つめる。

 意を決した表情で、震えながらオレへと告げる。


「ユ、ユウスケの気持ちはわかった! わ、私の気持ちが、僅かでも揺れた際は、潔く自決してみせよう!」


「…………は?」


 突然の自決宣言に、オレは呆然とメルトを見つめる。

 すると彼女は、ガタガタ震えながらも気丈に笑みを見せた。


 そんなメルトの態度を見て、エミリアとバロンがぽつりと呟く。


「やっべ、これガチのやつっすわ……。大魔王様の愛が重すぎるっす……」


「神の名の元に宣言……。誓いを破れば、世界への背信者ではないか……」


 オレに対して、引いた視線を向ける二人。

 オレが戸惑っていると、シェリルとディアブロの声も届く。


「羨ましくもあり、恐ろしくもあります……。大魔王様の覚悟は理解しました……」


「結婚式がそれ程の儀式だったとは……。このディアブロも存じませんでした……」


 畏怖の眼差しを向ける二人。

 何やら一同との温度差を感じる気がするのだが……。


 いや、オレの世界ではそんなに重くなかったよな?

 神前式を挙げても、普通に離婚する夫婦とか多かったよな?


 そんな考えが脳裏に浮かぶが、その言葉をオレは打ち消す。

 覚悟を決めたメルトを前に、気軽に行こう等と言えるはずがない。


 なのでオレは、メルトにただこう告げた。


「――必ず、幸せにしてみせる」


「ああ、信じているからな……」


 全てを受け入れた眼差しで、オレを見つめるメルト。

 ポロリと涙を零し、オレの胸へと飛び込んで来た。


 そんなメルトをオレはしっかりと受け止める。

 彼女の想いに必ず答えると、新たな誓いを胸に刻む。


「「「お、おめでとう、ございます……」」」


 一同が祝いの言葉を口にする。

 それと同時に、パチパチと祝福の拍手が送られてくる。


 だが、その拍手はパラパラと疎らであった。

 そして、何故だか部屋は、御通夜の如く重々しい空気であった。


 ……どうしてこうなった?

 理不尽さを感じつつも、オレはただ状況を受け入れるのみだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ