表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/131

発覚

 ここ数日、何やらメルトの様子がおかしかった。

 気分がすぐれないみたいで、食欲も落ちていたのだ。


 心配して尋ねても、本人は問題無いの一点張り。

 この程度は寝ていれば治ると取り合おうとしなかった。


 それでも心配なオレは、シェリルへと相談する事にした。

 彼女は何やら説得し、メルトを医者の元へと連れて行った。


 そして、戻ったシェリルから、衝撃の事実が告げられた。


「結論から申しましょう。メルト様は妊娠しております」


「…………は?」


 淡々と告げるその言葉に、オレは思わず固まってしまう。

 オレはシェリルに対し、かつてメルトから聞いた説明を告げる。


「りゅ、竜人族は、滅多に妊娠しないから、避妊が不要と聞いたが……」


「確かに長寿の竜人族は妊娠率が低いです。けれど、妊娠はしますよ?」


 余りにも当然の返しに、オレは何も言えなくなってしまう。

 深く考えず行動したが、毎晩やれば妊娠する可能性だってあるだろう。


 突然の事態に、オレは頭がまったく回らなかった。

 動揺するオレは、気になってメルトの様子を確認した。


 しかし、彼女はいつもと変わらぬ様子で腕を組んでいた。

 そして、オレの視線に気付いたメルトは、オレに対して手を伸ばす。


「……ど、どどど、どうしよう、ユウスケ! わ、私のお腹に、あ、赤ちゃんがっ!」


「お、落ち着け、メルト! まずは、落ち着くんだ! まだ、慌てる時間じゃない!」


 ガタガタと震えながら、オレの腕を掴むメルト。

 いつも通りに見えた姿は、虚勢でしかなかったらしい。


 動揺するメルトに対し、オレも動揺して腕を掴み返す。

 そんなオレ達に対し、シェリルは溜息を吐いてゆっくり告げる。


「お二人とも落ち着いて下さい。お世継ぎが生まれるのは喜ばしきこと。慌てる必要は無いでしょう?」


 冷静なシェリルの言葉に、オレとメルトはハッとなる。

 そして、冷静な頭脳を持つ彼女の、次の言葉を二人で待つ。


 シェリルは呆れた視線を、オレ達に対して向ける。


「本当に妊娠の可能性を、考えていなかったのですね……。まあ、その事は今は良いのですが……」


「「うっ……」」


 チクリと刺さる、シェリルの小言。

 オレとメルトは、そろって呻くしかなかった。


 そんなオレ達に、シェリルはゆっくりと考えを述べて行く。


「メルト様は魔王城で安静にして下さい。それ以外、現状の方針に変更は不要でしょう」


「うむ、確かにその通りだな! 安定期に入るまで、メルトは安静にしていないとな!」


 シェリルの言葉に、オレとメルトはコクコクと頷く。

 妊娠したてのメルトを、馬車の旅に連れ出す訳にはいくまい。


 納得しているオレに、シェリルは更に言葉を続ける。


「しかし、魔王国内への報告を、どのタイミングで行うべきか……。式の予定も決まっておりませんしね」


「……報告、だと?」


 シェリルのその言葉に、オレは衝撃を受ける。

 オレは今まで、どうしてその事に思い至らなかったのか……。


 動揺するオレに対し、メルトとシェリルが不思議そうな表情を浮かべる。

 そして、首を傾げる彼女達に、オレは失念していた重大事項を口にする。


「ご、ご両親に挨拶をせねば! まだ、結婚の報告もしていないじゃないか!」


 メルトの両親について、すっかり存在を忘れていた。

 式の日取り以前に、結婚の許可を貰っていないのだから。


 いや、それにしても、妊娠が発覚してから挨拶に行くとか……。

 出来ちゃった婚の報告など、ご両親からしたら何と思うことか……。


 オレが内心で冷や汗を掻いていると、何故かメルトが慌てだした。


「あ、いや……。それは、良いんじゃないかな……? 別に挨拶とか無くても……」


「そんな訳にはいかんだろう! 事前に挨拶せねば、後に遺恨を残す事になるぞ!」


 何やらダラダラと汗を掻き始めるメルト。

 オレはその不審な挙動に、首を傾げて彼女を見つめる。


 すると、シェリルが疲れた様子で溜息を吐いた。


「……私から申しましょう。メルト様は族長の娘です。そして、成人前に家出をしております」


「ちょっ、シェリル……?!」


 シェリルの言葉にメルトが慌てる。

 しかし、掴みかかった手は、ひょいっと避けられてしまった。


 そして、冷たい眼差しをメルトに向け、オレに対して説明を続ける。


「掟を破って里を抜け、親に合わせる顔が無いのですよ。昔からメルト様は、考え無しですから……」


「ぐ、ぐぐぐ……。考え無しは、余計だろうが……」


 悔しそうに歯噛みし、シェリルを睨むメルト。

 どうやら、シェリルの説明は間違っていないらしい。


 だが、そうすると事態はもっと面倒な事になった。

 家出娘を妊娠させ、結婚の許可を求めに行く事になったのだ。


 普通に考えて、これは許可を貰えない流れじゃないか?

 むしろ、挨拶代わりに殴られる未来すら見えるのだが……。


 内心で唸るオレに対し、シェリルは疲れた表情でオレに告げる。


「仕方がありません。私と二人で向かいましょう。メルト様は連れて行っても逆効果でしょうし……」


「なんと……。一緒に付いて来てくれるのか?」


 これはオレが果さねばならぬ責任。

 しかし、シェリルの同行は、オレにとって希望の光だった。


 後光すらさして見えるシェリルは、オレに向かって笑みを向けた。


「手紙程度ですが、私は竜人族とも交流が御座います。最悪でも門前払いという事はないでしょう」


「――本当にありがとう。シェリルはいつでも、オレの一番の協力者だ……」


 オレはシェリルの手をそっと握る。

 感謝の気持ちを込めて、その手に額を押し付けた。


 顔を上げると、シェリルは困った表情を浮かべていた。

 少し顔を赤らめて、それでも嬉しそうに笑みを返してくれた。


 そんなオレ達に、メルトはボソッと呟いた。


「あ、その……。済まぬが、後の事は宜しく頼む……」


 オレとシェリルは、揃ってメルトに視線を向ける。

 すると、メルトは居心地が悪そうに視線を逸らした。


 そして、メルトはその場の空気に耐えられなかったらしい。

 身を小さくしながら、すすっと部屋から逃げだして行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ