異種族交流
フロード達が配下に加わった為、オレは歓迎会を行う事にした。
とは言え大げさな物では無く、ちょっとした晩餐会みたいなものだが。
オレの両隣には、メルトとシェリルに座って貰っている。
その向かい側には、フロード、エミリア、バロンが座っている。
従者の方々も部屋には居るが、彼等の背後で控えていた。
つまり彼等は、うちのメイドや執事達と同じ立ち位置らしい。
なので、オレは彼等の立場を考慮し、そこには何も触れずにおく。
オレはテーブル向かいに座る、フロードに対して問い掛けた。
「そういえば、ホビット族とはどの様な種族なのだ? 余り詳しく知らなくてな」
「ホビット族ですか……?」
オレの問いに、フロードは考える仕草を見せる。
どうも漠然とし過ぎたせいで、彼を悩ませてしまったらしい。
とはいえ、頭の良く回るフロードである。
程なくして、オレに対して答えを返して来た。
「言うなれば、我々は小人族です。背丈が小さい以外、人間と大差はありませんね」
「ほう、そうなのか?」
ファンタジーの世界に現れる種族である。
もっと、何らかの特徴があるのかと考えていた。
しかし、どうもそうではないらしい。
フロードは穏やかな笑みを浮かべて説明を続ける。
「牧歌的な生活をし、平和を好む種族です。体が小さく、他種族より弱いだけとも言いますが」
「何を言っておる。お主らが仲介するから、我々は人間と共存出来ておるのだ」
フロードの説明に割って入ったのは、ドワーフ族のバロンだ。
彼はしかめっ面を浮かべて、オレに対して説明を行う。
「人族の中には、かつて巨人族もおった。しかし、奴等は人間と共存出来ずに滅ぼされたんじゃ」
「巨人族が、人間に滅ぼされた……?」
バロンの説明に、オレは驚きを覚える。
しかし、メルトとシェリルに反応が無い為、比較的有名な話なのだろう。
バロンは大きく頷き、オレに情けない表情で告げる。
「我々ドワーフ族は頑固者が多い。ホビット族がおらねば、人間に滅ぼされておっただろう。何せ人間は、数が圧倒的じゃからな」
「そういう意味では、うちらエルフ族も同様っすね。森林を破壊する人間とは、価値観が違い過ぎるんすよ」
エミリアも嫌そうに表情を歪めていた。
サラダをフォークでつつき、片目を瞑って言葉を続ける。
「ちなみに、人族の伝承にはこうあるんすよ。神は世界を創り、まず人間を生み出した。その人間を元に、他の種族を生み出した、ってね」
「まず人間を生み出した……?」
それが人間を特別扱いする、人族の創世神話という事なのだろう。
何も言わない事から、フロードやバロンも知っている内容らしい。
そして、オレはふと気になって、エミリアに対して問い掛けた。
「その生み出した神とやらが、『白の竜神』と『黒の竜神』なのか?」
かつてディアブロが口にした、太古を支配していた神の事だ。
魔族の中では失伝したらしいが、人族になら伝承が残っているかもしれない。
しかし、オレの予想は外れたらしい。
エミリアは不思議そうに、首を傾げてオレに答える。
「『白の竜神』と『黒の竜神』っすか? 初めて聞く名前っすね?」
エミリアには心当たりが無いみたいだ。
バロンを見るが、彼は首を振るだけだった。
しかし、フロードは何やら悩む様子を見せていた。
「行商人の多いホビット族は、多くの伝承を歌にしています。その中に、『竜人』と言う言葉は出て来ません」
「そうなのか……」
否定的な言葉に、オレは内心で息を吐く。
ヒントが得られれば、女神マサーコ様の助けになると思ったのだが。
しかし、ガッカリするオレに反し、フロードの言葉が続けられる。
「しかし、人族は『白』を神聖視しています。逆に魔族では、『黒』を神聖視していますよね?」
フロードは視線をシェリルに向ける。
すると、シェリルは頷きと共に返事を返した。
「魔族にとって、『黒』は特別な意味を持ちます。理由はわからず、本能としか言えませんが……」
隣のメルトに視線を向けると、彼女も静かに頷いていた。
どうやらこれも、魔族としては一般的な話であるらしい。
シェリルの返事に頷き、フロードは確信を込めて告げる。
「もしかすると、『白の竜神』と『黒の竜神』は、人族と魔族の起源に関わるのかもしれませんね」
「人族と魔族の起源か……」
知りたかった答えとは異なっていた。
しかし、フロードの仮説は興味深いものであった。
今の段階では、この程度の情報でも十分であろう。
そう納得しかけたオレに、エミリアが意地悪そうな笑みを浮かべる。
「あ、ちなみに大魔王様って、魔族の方々にモテるっすよね? 逆に人族では忌避されるんで、ご注意下さいね!」
「ほう……。そう、なのか……?」
オレはフロードへと視線を向ける。
すると、彼はさっとオレから視線を逸らしてしまう。
その態度に傷付くオレを、メルトとシェリルが励ましてくれた。
「な、何も気にする事はない! 私と相思相愛なのだから、それで十分だろう!」
「そ、そうですとも! 我々が大魔王様をお慕いすれば、十分ではないですか!」
オレは二人の励ましに、内心で涙を流す。
そして、オレはかつてのメルトの言葉を思い出した。
やはりオレは、生まれる場所を間違えていたらしい、と。




