族長代理
魔王城へ戻ると、ディアブロが待ち構えていた。
オレへの来客が待っており、すぐ会って欲しいとの事だった。
そして、その来客と言うのがエルフ族、ホビット族、ドワーフ族の代表者。
いずれも、族長の後継者候補であり、族長代理として訪れているらしいのだ。
オレはメルト、シェリル、ディアブロと共に謁見の間に向かう。
そして、玉座に腰掛けて来客を出迎えた。
「よく来てくれた。まずは顔を上げてくれ」
魔王の鎧を着たまま、偉そうにふんぞり返るオレ。
周囲からこうする様に、念入りに注意されていた為である。
そして、向かい合う様に跪いていた一同が顔を上げる。
いずれも代表者の背後に、二名の従者を連れていた。
「ふむ、見覚えのある顔があるな……」
一人はホビット族の族長代理フロードだ。
彼とはラヴィのクラブで、共に酒を飲んで語り合った仲だ。
今回は旅人風の装いでは無く、礼服らしき綺麗な恰好をしている。
フロードは驚いた顔でオレを見つめ、やがて真剣な眼差しでオレに問う。
「そちらが本来のお姿なのですね? 以前は随分と、気さくなお方だと思っておりましたが……」
「どちらもオレである事に代わりは無い。誰だって、時と場合に応じた振る舞いを行うだろう?」
オレの返答にフロードは笑う。
納得したとばかりに、大きく頷いていた。
そして、オレは続いて隣の女性へと視線を向ける。
彼女はエルフ族の代表であり、かつて出会った人物である。
「……名前は確か、エミリアだったな? 副指令ゼルの、補佐官としか聞いていなかったが?」
「いやまあ、あの時はあの時でしたし? 下手に正体をばらすと、危険かと思ったんすよね~」
エミリアは悪びれた様子もなく、ほがらかな笑みを浮かべる。
その態度に、背後の従者がハラハラした表情を浮かべていた。
以前と変わらぬその態度に、オレはふっと笑みを漏らす。
「確かにあの状況では仕方ないな。それで、オレと会話してみて、その眼鏡に敵ったのかな?」
「あはは、勿論っすよ。大魔王様は良い意味でも、悪い意味でも、裏表が無い方でしたからね」
エミリアの態度からして、オレへの好感度は高そうだ。
メルトの為に大魔王となった経緯を、キチンと話したお陰だろう。
とはいえ、その態度に周囲は顔を引き攣らせている。
友達とでも話すかの様な雰囲気に、背後の従者は顔を真っ青にしていた。
……さて、エミリアの従者が倒れても困るしな。
続いてもう一人の、初対面の者とも会話するとしようか。
「ドワーフ族の代表殿とは初対面だったな。オレは大魔王の中野雄介。これからよろしく頼む」
「初めまして、大魔王様! ドワーフ族のバロンです! こちらこそ、宜しくお願いします!」
バロンはガタイの良い青年であった。
髭で年齢はわかりにくいが、恐らく青年で間違いないはずだ。
バロンはガチガチに緊張していた。
その為か、挨拶と同時に、勢いよく額を床に叩きつけていた。
オレは苦笑を浮かべて、バロンへと声を掛ける。
「その様に緊張せずとも良い。我々から、貴殿らへ危害を加える事も無いのだからな」
「し、失礼致しました! しかし、『花の都計画』を知りった我等ドワーフ族にとって、大魔王様は特別な存在なのです!」
……『花の都計画』とは何だ?
バロンの言葉に、オレは思わず首を傾げてしまう。
すると、何かを察したフロードが、フォローを入れてくれる。
「ローズ様の都市再建計画の名称です。恐らくは、大魔王様が離れられた後に、プロジェクト名が決定したのかと」
「ほう、そうなのか? プロジェクト名は『花の都計画』となったのか……」
花の都と言えばパリというイメージだ。
勿論それは、オレの世界のイメージでしかないのだろうが。
そして、ラヴィの領地に作る公園は、日本の桜並木を参考にしている。
思いっきりオレの趣味で、日本の公園を元に設計させているのだ。
『花の都』等と名付けて大丈夫なのだろうか?
いや、出来上がってみれば、案外パリ風になってるかもしれんが……。
オレが内心で唸っていると、バロンが再び頭を床に叩きつけた。
「あれ程の大仕事! どうか、我々ドワーフ族にお任せ下さい! ゴブリン族に負けぬ仕事をお約束致します!」
「なるほど、そういうことか……」
バロンはドワーフ族の代表としてやって来た。
そして、都市再建という大プロジェクトの、営業も任されているのだ。
上手く大口案件を獲得すれば、故郷へ錦を飾る事が出来る。
逆に逃せば、どの面を下げて帰れば良いのかという状況になる。
バロンの意気込む理由はわかった。
オレは彼に対して、ふっと笑って宣言する。
「一種族に任せるつもりはない。それと同時に、魔族のみで進めるつもりもない。ドワーフ族にも、手伝って貰うつもりだ」
「は、ははぁっ! 承知致しました! ゴブリン族とも協力し、歴史に名を残す都市としてみせましょう!」
どうやらバロンは、オレの意図を理解してくれているようだ。
あの都市は種族の垣根を超える為に、再建させるという意図を。
ただ、何故かやたらに、ゴブリン族を気にしていないか?
もしかして、ドワーフ族はゴブリン族をライバル視している?
……まあ、それはそれで良いか。
これからは、互いに切磋琢磨して、腕を磨いて貰えば良いのだから。
オレはそう納得し、腕を組んで大きく頷くのだった。




