竜人族
魚人族との交渉を終えて、オレ達は魔王城へ帰宅する事となる。
ローレライとの交渉は、シェリルが無事に終えてくれたらしい。
なお、馬車に戻ると死屍累々の人魚達の群れ。
何故だか、ミニメルト達が数多の人魚を積み上げていたのだ。
メルトが言うには自業自得とのことだ。
大怪我はしていないらしく、放置して帰る事になってしまう。
オレとしては、魚人族との関係が悪化しないか気掛かりだった。
だが、シェリルも問題無いと言うので、オレは二人の言葉に従った。
そして、オレは馬車に乗り込みながら、シェリルへと問い掛ける。
「それで、次は竜人族の領地へと向かうのか?」
訪問予定地で、残す領地は竜人族のみ。
魚人族との交渉も早く終わり、このまま向かうかと考えたのだ。
しかし、シェリルが答えるより先に、メルトが慌てて割り込んだ。
「い、いや、竜人族の里は必要あるまい! あそこは、そういう場所では無いしな!」
「そういう場所では無い?」
メルトの言葉に首を傾げる。
彼女の言いたい事が、いまいち伝わって来なかったのだ。
シェリルが何かを言い掛けるが、再びメルトが割り込んだ。
「あそこ、山しかない! ドラゴンも出る! とても、危険! 行くの、良くない!」
「……なぜ、片言になる?」
あからさまに挙動不審なメルト。
エセ外人風な言い回しに、流石のオレも戸惑いを覚える。
すると、シェリルがふうっと疲れ気味に息を吐く。
そして、オレに対して説明を行う。
「まあ、竜人族は後回しで良いでしょう。挨拶が遅れても気にしませんし、むしろ受け入れられるかも不明ですしね」
「受け入れらるかも不明だと?」
鬼人族も、魚人族も、割と友好的な態度だった。
しかし、竜人族はそうでは無いと言う事なのだろうか?
オレが首を傾げると、シェリルがコクリと頷いた。
「竜人族は常に、中立の立場を貫いております。過去に一度も、魔王軍に助力した事が無いのです」
「……それは、どういう意味だ?」
何やら特別な立ち位置と言う事はわかる。
しかし、具体的に何を意味するかは不明だ。
シェリルは目をすっと細め、トーンを落として説明する。
「一種族のみで、魔王軍を凌駕する強さなのです。それでいて、魔族の統治には関与しない。むしろ、魔王が世を乱せば、それを誅殺する事すらありました」
「何だと? 竜人族はそれ程までに、他種族と違う強さなのか?」
オレはメルトに対して視線を向ける。
竜人族である彼女が、魔王をやっていた事に疑問を感じたのだ。
しかし、メルトは視線を逸らしてしまう。
窓の外を眺めながら、下手な口笛を吹き始めた。
シェリルはそんなメルトを無視して話を続ける。
「その為、彼等は大魔王様に関与しないでしょう。それと同時に、協力する事も無いと思われます」
「なるほどな……。そういう主義の、種族と言う事か……」
全ての種族が仲良くするのは難しいのかもしれない。
それぞれに文化も違えば、譲れない価値観だってあるはずだ。
しかし、他種族を攻撃しないなら、彼等を無理に変える必要が無い。
竜人族については、今はそっとしておいても良いのかもしれないな。
オレが内心で納得すると、シェリルはニコリと微笑んで見せた。
「大魔王様の目的はメルト様との結婚。その為に、魔王国を争いの無い地とする事です。それをお忘れなき様に」
「うむ、シェリルの言う通りだ。ならば城に戻り、この先について検討するとしよう」
シェリルが大丈夫と判断しているのだ。
ならば、魔王国内で争いが起こる可能性は低いのだろう。
人族との火種はまだ残っているかもしれない。
だが、それも踏まえて、結婚式の計画を立てるべきだろう。
余りにも時間が掛かるなら、先に結婚式を行えば良い。
それからゆっくり、人族との未来を考えれば良いのだから。
そんな事を考えていると、シェリルの微かな声が耳に届いた。
「……早めに、お伝えした方が良いのでは?」
「何の事やら? 私にはさっぱりわからんな」
窓の外を眺めながら、メルトは素知らぬ顔で答える。
そんな彼女を、シェリルは呆れた表情で見つめていた。
そんな二人を眺めながら、オレは馬車の揺れに身を任せていた。




