成金大魔王様
女神様に土産を頂き、オレはポラリースへ舞い戻った。
場所は先ほどと同じく、魔王城の食堂である。
「元々、命を差し出すつもりだったのでしょう? それが身売りで済んで良かったではないですか」
「だから、言い方……! お前は私の事を何だと思っているのだっ?!」
戻ってすぐに、メルトとシェリルの言い争いが聞こえて来た。
何やらメルトの方が、腹を立ててプンプンと怒っている。
ひとまずオレは、二人の様子を眺める事にする。
「メルト様の身一つで魔族全体が救われたのですよ? それの何がご不満なのですか?」
「私はまだ、一応は魔王だぞ! お前はどうして、そんなに忠誠心とかが無いのだっ?!」
どうやら、メルトは周囲から敬われたいらしい。
彼女も魔王という肩書を持つ以上、威厳を大切にしているのだろう。
魔王の心構えを学べ、オレは腕を組んで満足げに頷いた。
そして、そんなオレの姿を、シェリルの視線が捉えていた。
「おお、これは大魔王様! どちらへ参られていたのですか?」
「うむ、女神マサーコ様に呼ばれてな。少々、話をして来たのだ」
オレの返答に、メルトとシェリルが目を丸くする。
二人はワナワナと震えながら、それぞれに呟く。
「女神様とは、この世界の管理者だよな……? 名前はマサーコ様と言うのか……?」
「そんなに簡単に、呼ばれるものなのでしょうか……? お二人の関係は一体……?」
どうやら、女神様の存在は知っているらしい。
しかし、名前までは知らず、それ程の知名度は無いと思われる。
ならば、オレがその名を広めるべきだろう。
あれ程の施しを、このオレに与えてくれたのだから。
「女神マサーコ様は、大いなる愛を持つお方だ。このオレが、唯一尊敬する人物でもある」
オレに対して、無条件の愛を示してくれたお方だ。
以前の世界で、あそこまでの善意を目にした事が無い。
基本的に全ての人間は自分が一番可愛いと考えている。
そういう俗物と違うからこそ、マサーコ様は女神なのだろう。
「唯一尊敬する……。こいつでも、人を敬う気持ちを持っているのか……」
「大魔王様が尊敬する……? どの様な存在か、想像も出来ませんね……」
メルトとシェリルは二人で首を捻っていた。
余りの偉大な存在に、二人の理解が追い付かないらしい。
オレはやれやれと首を振り、その愛の一端を示す事にした。
「女神マサーコ様は、オレとメルトの結婚を祝福して下さった。そして、多くの祝いの品を頂いて来た」
「え、嘘だよな……? 私の結婚、女神様に祝福されたの……?」
メルトは感動の余り、目に大粒の涙を溜めていた。
女神マサーコ様の祝福なので、その感動は当然の反応と言える。
ギギギっと視線を向けたメルトに、シェリルは視線をすっと逸らす。
シェリルは両手で胸を押さえながら、震える声で感動を伝える。
「お、おめでとう御座います……。メルト様の未来に、光があります様に……」
その言葉を受けて、メルトがポロポロと涙を零す。
部下から祝われた事が、とても嬉しかったのだろう。
目の前に美しい光景に満足しつつ、オレはメニュー画面を操作した。
「そして、これが女神マサーコ様からの祝いの品だ」
オレは大量に与えられたアイテムから、それらしい物を選択する。
そして、食堂の木製テーブルの上に、そのアイテムを展開する。
> 金塊セット(100本入り)
――ゴシャ……!!!
「「「…………」」」
目の前に現れたのは、金の延べ棒だった。
それが積み重なって、ちょっとした山になっていた。
そして、展開しようとしたテーブルは、重みに耐えきれず無残な姿に。
豪華そうなテーブルだったし、壊すと流石に怒られるか……?
突然のテーブル破壊を前に、内心で動揺を抑えるオレ。
そんなオレに対し、シェリルが表情を強張らせて問い掛けて来る。
「だ、大魔王様……。こ、この金塊は、どう扱えば良いのでしょうか……?」
「つ、使い道は任せよう……。た、足りなければ、いつでも言ってくれ……」
オレの回答に、くわっと目を見開くシェリル。
彼女はオレに対し、まさかのジャンピング土下座を披露する。
「は、ははぁ! このシェリル=ノア、大魔王様に絶対の忠誠を捧げます!」
「う、うむ……。この先も、互いに上手くやって行こう……」
凄まじくテンションが上がったな。
金の力はそれ程までに、偉大だという事だろう。
……いや、これも女神マサーコ様の威光か?
これ程の大盤振る舞いに、感動を覚えたのかもしれない。
オレは自分の出した答えに一人満足する。
すると、ぽそっと小さな声がオレの耳に届いた。
「わたし、魔王だけど……。こんな忠誠心、今まで示された事ない……」
メルトは俯いた姿で、プルプルと全身を震わせていた。
女神マサーコ様と比較し、自分の小ささに恥ずかしくなったのだろう。
だが、女神マサーコ様と比べる事自体が間違っている。
あれ程に偉大な存在に、オレ達如きが近づけるはずが無いのだから。
オレは落ち込んだメルトを宥め様とそっと近づく。
そして、へにょっと垂れた彼女の尻尾を優しく撫でてあげた。